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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
83/133

後天的には不可能

 


 目の前に積まれた大量の書類と扉付近で待機する下位天使の視線に挟まれ、身動きを取れなくされたミカエルは内心何度目かになる溜め息を吐いた。天界上層部を説得し、ヨハネスが神の座に就けないと長期代理を申し立て、今現在仮の神として執務に当たるアンドリューはミカエルが見て来た中で最も活き活きとしている。

 事実はヨハネスはまだ人間界にいる。天界に帰還したが疲労が激しく、長期の休暇が必要と実の父親であるアンドリューの必死な説得を上層部は聞き入れた。――それが偽りとも知らずに。


 現状、ミカエルは情報をヴィルに届けられない。監視の目が格段に強くなってしまったせいで。ヴィルに知られれば、ネルヴァにも知られる恐れがあるからとミカエルには常に監視の目がある。ネルヴァに情報を届けている主天使がバレないのを祈るしかない。



「ミカエル」



 さあ、片付けようと筆を持った時、先程思い出していた主天使が部屋に入って来た。手にはトレイを持ち、湯気の立つマグカップが二つ置かれている。



「私の休憩に付き合ってくれないか?」

「良いでしょう」



 監視も主天使の来訪とあれば疑わない。少し席を外してほしいと主天使に言われれば、黙って従った。監視が部屋から出て行き、二人きりになるとミカエルは頭を下げた。



「ありがとうございます。アンドリュー様が代理の神に就いてから、四六時中見張られていまして」

「そんな事だろうとは思っていた。ネルヴァ様から連絡が届いた」

「なんと?」

「ネルヴァ様は現在、ヨハネス様やヴィル様が滞在している帝国にいらっしゃるそうだ」

「!」



 遂にネルヴァまでもが帝国に来た。早速、ヨハネスを連れ戻してくれる……と期待したものの、風向きが変わったと主天使はマグカップに淹れたホットチョコレートを飲みながら話した。ミカエルのはハチミツたっぷりのホットミルク。



「……ミカエル。お前はヨハネス様の肉体の成長をどう見ている?」

「稀にいる、成長速度が人間と同じ神族……という認識でしたが……」



 まさか、と危機感を抱くと主天使は「そうだ」と呆れたように言う。



「ヨハネス様の成長は自然ではなく、人為的なものだった。ヨハネス様は長年肉体の成長を促す薬を飲まされていたらしい」

「なんということを……!」



 嘗て幼いヴィルに無理矢理肉体成長の薬を飲ませ、一週間激痛に襲わせたのはアンドリュー。早くネルヴァと同等の神族を育てネルヴァがいなくても次代の神はいるようにと。

 当然ネルヴァの怒りを買い、大怪我を負わされたのをアンドリューは忘れたというのか。



「ヴィル様が気に入っている人間の少女がネルヴァ様に話したそうだ」

「ジューリアか……」



 あの少女は偶に此方が驚く真似をする。ヴィルとて、ヨハネスの成長が強制的なものと知れば安易にネルヴァに話したりしない。ヨハネスもそうだろう。ずっと口止めされていた筈。

 相当にお怒りになられていると主天使から告げられたミカエルは「そうでしょうね……」と言うしかなかった。




 ●○●○●○



 リシェル=ベルンシュタインは大きな金色の瞳を丸くしてネルヴァを見上げていた。

 帝都に着くなり、宿に自分を置いて出掛けたネルヴァが戻った。お帰りなさい、と出迎えたらネルヴァの他に三人も増えていた。

 ネルヴァにそっくりな男の子と自分と歳が変わらなさそうな少年にも見える男性。それと黄金の髪をした高貴な雰囲気が漂う女の子。女の子に関しては、青緑の瞳を輝かせリシェルを見ていた。キラキラと光る海面を彷彿とさせる青緑がとても綺麗。一体、誰だろうと見ていたら急に男性が「ネルヴァ伯父さん!? この子魔族だよ!? なんで一緒にいるの!?」と声を上げた。


 ネルヴァと同じ銀髪と銀瞳の時点で神族だと分かっていたから、あまりビックリはしなかった。



「ヨハネスうるさい。リシェル嬢、暫くこのうるさいのと長く話すから部屋に戻ってて」

「私はいちゃ駄目ですか?」

「君が聞いても面白くないからね。まあ、その内聞かせてあげる」



 多少不満はあれど、ネルヴァの様子を見ているとどうもリシェルには聞かれたくないようだ。後で教えてもらうのを条件にし、ネルヴァに頭を撫でられると部屋に戻った。



「ねえヴィル、美少女だよ美少女!」

「はいはい。あれがリゼル=ベルンシュタインの娘だよ」

「そうなんだ。娘さんがあんなに美少女って事は、やっぱ補佐官さんも相当な美形だよね!」

「そうだね。ジューリアの好きな顔というのは保証してあげる」



 戻る最中、恐らく女の子とネルヴァにそっくりな男の子が話している会話を聞いた。呆れながらも女の子に優しく教える男の子。見たところ女の子は人間に思える。どんな関係なのか非常に気になる。父リゼルの名前を出していたのも気になる。

 気になる事だらけでネルヴァが戻ったら絶対に教えてもらおう。




 リシェルと別れ、宿のサロンを借りたジューリア達。長時間で借りたから暫くは誰も来ないだろうと発したネルヴァに目を向けられたヨハネスはビクリと震えた。



「さて。ヨハネス、知っている事、自分で分かっている事を話なさい」

「う……そう言われても……。僕だって知ったのはつい最近だし。大体、神族の肉体成長が遅いなんてずっと知らなかった」

「ヨハネスはどうやって知ったの?」



 ジューリアはチラチラとヨハネスから視線を貰ったので代わりに話した。大教会の外で散歩をしていたら魔王やヨハネスに会い、話の流れからヨハネスの年齢を知った魔王がまだまだ子供の筈なのに大人の姿なヨハネスに驚き、事実が発覚した。



「ああ……確かにエル君に昔話したね」

「ヨハネスが飲まされていたのは、昔俺が一度飲まされた薬と同じ。違いは効果の違いだろうね」



 薬を飲ませるよう指示したのはアンドリューで間違いない。薬を作ったのもアンドリューと聞いたジューリアは驚きの声を上げた。



「なんでそんな薬を?」

「早く兄者の次に神になる神族を育てたかったんじゃない? 兄者に知られて半殺しの目に遭ってからは諦めたと思っていたのに」



 人間や魔族より、神族の方が物騒度が高いのは何故とジューリアはもう突っ込まない。



「すぐに効果が出たら、必ず兄者にバレる。稀にいる神族と同じ成長速度に設定したのもそういう理由だろうね」



 物心ついた頃から、食後に必ず薬を飲むよう世話係から言われ、飲んで数分は体が痛むから飲むのを拒みたかったヨハネスでも、父アンドリュー直々に無理矢理飲まされてからは、不満を抱きつつも飲み続けた。と新しい事実を聞かされ仰天するジューリアと呆れを濃くするヴィル、無言だが威圧が強くなった気がしないでもないネルヴァ。

 そこにネルヴァに情報提供をする主天使から通信が届いた。淡い小さな光の玉がひらり、ひらりとやって来てネルヴァの顔付近で停止した。



「どうしたの」

『ネルヴァ様。今ヴィル様やヨハネス様は近くにいらっしゃいますか?』

「いるよ」

『アンドリュー様は、自身をヨハネス様の代理と天界上層部に決定させ、先日行われた悪魔狩の再追試を決定させたと伝えましたね?』

「ああ」

『まだ詳しい実行日は定かではありません。ただ、天使が悪魔狩りをしている最中、上位天使にヨハネス様の保護を命令しました』



 また最高位の天使が襲ってくる? と戦慄したジューリアだが、熾天使はガブリエルだけ人間界にいた筈だとヴィルに小声で言われ、どの上位天使がいるのかは主天使の言葉を待った。



「ガブリエルだけではなかったの?」

『熾天使はガブリエル様だけです。ヨハネス様が脱走する前に休暇を取った方がいまして、その方は』



 主天使の言葉は突然切れ、通信の光は消えてしまった。



「タイミング悪く、誰かが来たんだろう」

「人間界へ休暇を満喫する熾天使以下の上位天使か。兄者、心当たりは?」

「一人いるけど、もしも当たっていたら最悪」



 曰く、戦闘意欲が強く格下の悪魔だろうと力を緩めない。神の代理に就いたアンドリューの指示とあらば、相手が現神であろうと任務を遂行するべく手加減無しに襲い掛かる。ガブリエルと違うのはアンドリューに心酔していない点であるが、上の命令とあらば忠実に熟すのが話題の天使。


 戦えば子供姿のヴィルと戦闘経験ゼロなヨハネスでは歯が立たない。ジューリアは魔力操作の特訓中で論外。



「じゃあ兄者、そいつが来たら相手してね」

「私は隠居した身なのだよ? 荒事はしたくないのだけど」

「可愛い弟がピンチになっても良いなら何もしないでいいよ」

「うぐっ」



 自分で可愛い弟と言い放ったヴィルに呆れるものの、ネルヴァが揺らぐには十分な破壊力を持っていた。



「ヴィルの兄者が無理なら、魔王さんに頼む? この前は魔王さんが魔界に戻っている間にガブリエルが来ちゃったけど、今度はちゃんと相手してって」

「それでいっか」



 あのね、と今度はネルヴァが呆れた声を出した。



「私も人の事は言えないけど、神族が魔族に天使の討伐を頼まないの」

「しょうがないだろう。俺はこの有様だし、帰れと言っても聞かないヨハネスでも相手にならない。なら、まともに相手が出来るのは魔族の王様くらいじゃん」

「エル君もタイミング良いのか悪いのか」



 どちらかと言えば悪い、方だろう。



「ね、ねえ……ネルヴァ伯父さん」

「どうしたの」

「このまま、父さんが神の座に就いちゃ駄目、なのかな。代理のままでも神の座に就けるなら、父さんだって文句はないんじゃないかな」



 恐る恐る言葉を紡ぎ、ネルヴァを見ては逸らすヨハネス。怖がりながら現状維持が父アンドリューにとって最善なら、このままがいいとヨハネスは訴えた。

 天上を仰ぎ、目を閉じて、考えるよう息を吐いたネルヴァが紡いだのは否定的な言葉だった。



「出来るならヨハネスを神の座に就かせていない」

「あ……」

「アンドリュー程、やる気のある者はいない。私も認める。ただ、やりたくて、なりたくて役目を務められる程神の座は甘くない」



 四人兄弟の中で一番神力の弱いアンドリュー。生まれながらネルヴァの補佐として育てられたのも神力の低さから。



「甥っ子さんのお父さんの神力を上げる方法を探す?」とジューリアが聞くと「無理だよ」とヴィルは否定した。

「神族の神力は生まれながらに決まって後天的に増幅させられない。あったとしても、人間で言う外法に近いから、基本しない」

「人間や魔族には出来ても?」

「人間や魔族は魔力を使う時点で同じだろう? 神族は神力という、魔力とは異なる力を持つ。最初から持っている力が違うから、同じ方法は使えないの」



 アンドリューの神力が上がれば、頭の固い上層部もアンドリューを神と認めるだろうと考えたがヴィルの説明によって無理と判断された。


 他に良案はないかと探してもないものはない。



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