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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
82/133

暴露。そして……

 


 注文したパンケーキも紅茶もなくなった辺りでネルヴァが戻った。ヴィルの横に椅子を引っ張り、座るとやれやれと言いたげにヴィルの銀色の頭に手を置いた。



「何」



 半眼でヴィルに見上げられたネルヴァは柔らかい髪を撫でつつ、ヴィルが嫌がらないのを良い事にそのまま話を始めた。



「そこのお嬢さんをヴィルに頂戴って言ったら、どうも皇子様に火を付けちゃったみたいでね……。お嬢さんとは婚約解消しないって」

「は……!?」



 素っ頓狂な声を出した自分は悪くないと内心言い聞かせつつ、どうしてそうなるのだと叫びたいジューリアは呆れたとばかりに溜め息を吐いた。



「そこまでして皇帝陛下や皇太子殿下に叱られたくないの!? 向こうだってメイリンが相手なら鼻が高いだろうし、メイリンも殿下を好いているんだからさっさと婚約解消してくれたらいいのに!」



 面倒くさいとはこの事。さあ? と既に興味を無くしたのか、ネルヴァの反応は非常にどうでも良さげだった。



「兄者」

「なあに」

「皇子様の心の声読んだ?」

「読まなくても見てれば分かる。お嬢さんがあまりにも皇子様に冷たいから、却ってムキになっているのさ」

「はあ……人間って面倒」

「それが人間なのさ」

「やっぱり面倒」



 また溜め息を吐き、紅茶のお代わりもなく、後は代金を支払って帰るのみ。ジューリアは「帰る?」とヴィルに問われ、どうしようかと考える。このまま大教会に戻っても良いがする事がない。

 不意にネルヴァと目が合ったジューリアは、以前から気になっていた疑問をヴィルに投げかけた。



「ヴィルは、お兄さん達を特徴で呼んだり、古めかしい言い方で呼んだりしてるけど、お兄ちゃんとは言わないね」

「言わないね。言いたくない」



 ヴィルの横にいるネルヴァが一寸落ち込んだ……気もしないでもない。



「眼鏡があまりにうざくて絶対呼ぶかって決めた」

「ヴィル。アンドリューがヴィルに何を言ったの」

「眼鏡はさ、生まれた時点で既に兄者の補佐になるようにって育てられただろう?」



 常に兄上を敬え、兄上の助けとなれと、ネルヴァの予備として育てられたヴィルは耳を塞ぎたくなる程言われ続けた。ネルヴァが天界へ帰還したら、今までアンドリューに呪いの如く囁かれ続けた言葉の反動で初めて会った長兄を兄者と呼んだ。アンドリューからは兄上と呼ばれ、天界に帰還してから新しい弟が生まれたと聞いたネルヴァは初めヴィルの兄者呼びをどうも思っていなかった。


 だが、イヴが生まれ、ヴィルだけお兄ちゃんと呼ばれているのを見て羨ましくなったらしい。

 と、途中から話の主導権を握ったネルヴァが語った。



「ヴィル。今からでも遅くないから、私を」

「絶対に嫌」

「まだ全部言ってないのに……」

「兄者が何言いたいか分かるから。俺は断固お断り」

「今此処にアンドリューはいなくても?」

「うん」



 ヴィルの意思が固いと知るネルヴァはそれ以上言わず、ヴィルの頭からも手を退けた。やっぱり落ち込んだまま。



「末っ子さんがヴィルをお兄ちゃんって呼ぶのはなんで?」

「さあ……本人に聞いたら? その内、イヴも来るんじゃない」



 神族がほぼほぼ勢揃いしている現状、話を聞き付けイヴも来そうだというのがヴィルの意見。まあ、イヴはイヴで人間界の生活を楽しんでいるから来ないだろうというのがネルヴァの意見。



「それにしても、面倒くさい殿下ね」



 このまま帝都に居続ければ、必ずまたジューリオは来る。その前に帝都を出て、更に帝国からも出て行きたいのがジューリアの本音ではあるがヴィルの力が戻らない限りは難しい。

 ふと、ネルヴァを見たジューリアはとある方法が可能かどうか訊ねた。



「あの、相手の意識から自分を消す魔法ってありますか?」

「あるにはあるけれど、教わるなら人間の魔法使いにしないと。神族が使う神力と人間や悪魔が使う魔力では、使い方が違い過ぎる」

「じゃあ」



 今魔法を教えてもらっている最中のビアンカに振り向くと呆れた紫水晶がジューリアを見ていた。魔力操作の練習しかしていない段階で相手の精神に干渉する魔法等、ジューリアにはまだまだ早いと一蹴されてしまった。やっぱりか……と落ち込むと頭に誰かの手が乗った。


 ヴィルだ。



「ちょっと辛抱して。俺が元の姿に戻れたら、幾らでもジューリアのお願いを聞いてあげる」

「本当? 殿下やフローラリア家の意識から私を消せる?」

「消せるよ。けど、一度使ったら二度と向こうはジューリアを意識しないよ?」

「いいよ全然。私からしたら楽でいいから」



 相手を意識するから、ジューリアが何度拒絶しても諦めない。ジューリアからすると大変迷惑極まりない。



「他の『異邦人』もジューリアみたいな性格なのかな?」

「どうなの?」



 ヴィルとジューリア、二人の視線がネルヴァにいった。視線を向けられたネルヴァは「さてね」と曖昧な答えを発した。



「私自身、存在を知っている程度で実際に『異邦人』と接した事がない。ヴィルが初めてであるように、私にとっても初めてなんだ」

「私以外の『異邦人』って見つけられますか?」

「見つけようと思えば見つけられるけど……」



『異邦人』は、前世不運だった事が転生して幸運となるのが基本。ジューリアの場合だけ不運なままだが他の『異邦人』は幸運となっている。一人不運なのに、他の幸運な『異邦人』を見て落ち込まないかと心配されたジューリアは「ない」と言い切った。



「七歳の時の魔力判定から散々な目に遭ってるけど、絶対にフローラリア家から出て行ってやるって決めた私に落ち込んでる暇なんてないよ。そんな暇があるなら、少しでも早く家を出る術を考える」



 最低限の衣食住が保証されていたからこそ、じっくりと、確実に策を練る時間だけはあった。

 カフェに滞在して既に数時間以上が経過しており、その間各々注文をしているが流石に長居し過ぎとなって会計をする流れとなった。ヴィルとヨハネスが世話になっているからとこの場ではネルヴァが全額支払い、更に長居した詫びとして多目に渡した。

 上機嫌に見送る給仕の視線を受けつつ、こっそりと逃げ出そうとしたヨハネスの首根っこを掴んだネルヴァがジューリアとヴィルに一緒に来る? と訊ねた。



「まだまだヨハネスには聞きたい事があるから、暫く借りるよ」

「好きにしたら?」

「ヴィル叔父さん!! 僕一人ネルヴァ伯父さんのとこに行くのは嫌だよ~!!」



 ネルヴァに首根っこを掴まれながら、泣き言だけは欠かさないヨハネスに仕方ないと呆れるヴィルは一緒に行くとし。


「ジューリアは?」と訊かれ、ジューリアも一緒に行くとした。

「あ」と発したジューリアはビアンカの許へ駆け寄った。



「明日も魔法の練習に付き合ってくれますか?」

「わたくしがその時暇なら、考えてあげる」



 言い方は冷たいがビアンカの表情は満更でもなく、明日必ず来ると宣言したジューリアに少し苦笑交じりに笑って見せた。


「暇だろどうせ!?」とヨハネスに叫ばれると「うるさいわね!? 貴方よりマシよ!!」と言い返し、ネルヴァに首根っこを掴まれながらも応戦するヨハネスにヴィルと揃って呆れた。最近呆れる回数が増えている気がしてならない。



 ――あ……



 ジューリアは言い合いをするヨハネスとビアンカを銀瞳を丸くして見つめるネルヴァに気付いた。そうだ、ネルヴァからしたらビアンカは魔王の補佐官やその娘を陥れようとした敵で、ヨハネスは天界の現神。敵対する種族が人間のようにぎゃあぎゃあ喧しく言い合う光景等初めて見たに違いない。


 ネルヴァの足元へ行き、呆けているネルヴァの空いている手を握った。ジューリアに気付いていなかったネルヴァの手がピクリと反応し、丸くなっていた銀瞳がどうしたの? と言いたげにジューリアを見下ろした。



「人間の私が言うべきではないと思うけど言わせてほしいの。甥っ子さんは、ヴィルやヴィルの兄者や周りが言う程甘やかされてないと思うよ。寧ろ、逆かもしれない」

「何が言いたい?」

「あくまで人間の感覚だから当てにならないかもだけど……少なくとも、ゆっくりと成長するのに無理矢理体を成長させる薬を飲まされている時点で全然甘やかされてないよ」



「ちょっ」や「はあ……」というヨハネスやヴィルの声がしたがジューリアは話した。ネルヴァには話さない方が良いと二人に言われていたヨハネスの強制成長の話を。



「……」



 話をした時点からネルヴァを纏う空気が瞬時に凍り、息をすると冷気が肺に染み渡り全身が凍えてしまいそうになった。銀瞳から消えた灯りと人当たりの良さそうな笑み。ヨハネスの首根っこを掴んでいた手が離された。



「ヴィル」

「……なに」

「どういう事だい?」

「俺が聞きたい。まあ、元凶は間違いなく眼鏡だろうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 意味深な言葉を紡いだヴィルに疑問の視線が刺さり、あっけらかんと答えた。



「多分ヨハネスが飲まされていたのは、俺が一度眼鏡に飲まされた肉体成長の薬を薄くしたやつだと思う」



読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 次回「眼鏡死す」 いやシャレ抜きでそうなりそうだなw ヴィルも大概な目にあっとるねえ……
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