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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
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ジューリオの心の声

 

 皇帝直属の魔法士部隊を連れてのジューリオの登場は、大きな反感をジューリアに抱かせた。ネルヴァの姿を見たジューリオが天使様だと気付いたお陰で強制連行は防がれた。



「私は先にお世話になっている天使達の()()()()()で伯父さんでもある。この子は弟が気に入っていてね、事情があるのなら私が聞こう」



 お兄ちゃんの部分だけえらく強調したネルヴァに敢えて突っ込まず、ネルヴァの後ろに隠れたジューリアは気まずげな表情をするジューリオの出方を窺った。言い難そうにするジューリオに代わって、一番偉そうな態度の魔法士が説明をした。

 皇帝の命令により、今までのジューリオのジューリアへの態度を改めさせる為に誓約魔法を交わさせるとした。帝国では馴染みのない魔法で、別大陸の王国の貴族や王族は必ず結ぶ婚約の誓約魔法がある。ジューリアがジューリオを信頼する為にと皇帝が命令を下した。

 ジューリオと魔法士部隊が態々出向いたのもジューリアが嫌がろうと強制的に連れて行く為。


 事情を聞いたネルヴァは「呆れたね」と苦笑した。



「ヴィル達からも大体は聞いてる。初回のやらかしというのは相手に大きな衝撃を与える。相手の信頼を得ないまま、強硬手段を取るのはスマートじゃない。止める事をお勧めするよ」

「これは皇帝陛下の命令で」

「それに、だ。一つ聞きたいのだけど、はっきり言ってこの子は魔力だけが取り柄の子だ。帝国の為なら、次女を婚約者にしたらいい」

「メイリン嬢には既に婚約者が決められています」



「実際のところどうなの?」とネルヴァに訊ねられたジューリアは「メイリンの婚約者には、別に好きな人がいます。決められた婚約にその方を諦めると言ってましたが、もしもメイリンとの婚約が無くなっても落ち込んだりしません」と言い切った。メイリンがまだ相手を知らない今が最も良い機会とも付け足した。



「仮にジューリオ殿下とメイリン嬢が婚約しても、ジューリア嬢が」

「言ったろう。私の弟が気に入っていると。この子の生家はこの子を不要としているそうだし、そこの皇子も無能の娘を押し付けられずに済むのだから、私の弟が貰ってもいいだろう」



 多分ネルヴァが詳細を知っているのはヴィルや魔王が定期的に連絡を送っていたからであろう。ジューリアは口を挟まず、事の成り行きを見守った。

 ジューリアがジューリオの婚約者で無くなっても困り事はないとハッキリではなくてもネルヴァは言う。言葉が出ず、俯いたジューリオから掠れた声が出た。



「……ジューリアは魔力しか取り柄がないのですよ」

「さあ? 君達人間にとっては、魔力しか取り柄がない子でも、ヴィルにとっては面白くて一緒にいて退屈しないから欲しいだけなんだ。君や帝国にとっても、次女を婚約者にする方がいいだろう? 君の本心は次女が良い。無能じゃないから」

「ぼ……僕は……」

「私が言っているのは君の事実。君の心を読んだだけ」

「っ」



 心を読むと言われた瞬間ジューリオの顔が強張る。他の魔法士も同様。艶笑を見せ、足にしがみつくジューリアをヴィルのところへ置くと一番偉そうな魔法士の肩を叩いた。



「私が皇帝と話をしよう。あの子は弟が気に入っているから、私としてもあの子には今のままでいてほしい」

「わ……分かりました。天使様がそこまで仰るなら」

「ありがとう。代わりに天使から帝都全体にお礼をしよう」



 言うが早いか、魔法士から離れたネルヴァの足下に純銀の――相当濃度が濃い神力が集まる。その濃さにビアンカは震え、魔王は……平然としていた。

 何をするのかと困惑するジューリオ達に構わずネルヴァの神力は、何かを紡いだネルヴァの声に呼応し、瞬く間に帝都全体へ広がった。純銀の光に包まれたのは一瞬。銀を纏った光の粒子が雪のように降り注いだ。



「天使からの祝福さ。神官に属する者なら分かるから、確認させるといい」

「た、直ちに!」

「さあ、皇子様。私を君のお父上の許へ案内しておくれ」



 初めて見た天使の祝福を恐々とした様子で見ていたジューリオは肩を叩かれ、重く頷きネルヴァや魔法士達を連れ城へ向かった。

 去り際ジューリアを見たような気はするも、ジューリアは全く興味がなかった。


 ジューリアは冷静にお茶を飲むヴィルに興奮気味に話し掛けるも、冷静なままお茶を飲まれ続けた。ティーカップをソーサーに置いたヴィル曰く、先程のあれは神の祝福だと話した。



「え? そうなの」

「そうだよ。兄者、俺に良い顔をしたいから祝福を授けたの」

「でも良かったの?」

「良いんじゃない? 人間には、神や天使の授ける祝福の違いを見抜く目はないから」

「そっか」


「悪魔には、ちょっとキツいかな。今のは……」と困ったよ、と言いたげなのは魔王。



「今のネルヴァくんの祝福で怪我を負った悪魔はいるだろうね」

「突然過ぎて防御する暇もなかったせいだろ」

「ぼくやビアンカは此処にいるから何ともないけど他の悪魔達が心配だな」



 ふむ……と呟いた後、確かめるか、と多数の通信蝶を呼び出した魔王は一斉に空へ飛ばした。悪魔の魔力を辿るので何処にいるか分からなくても見つけられる。

 ふとジューリアは、ネルヴァがいなくなったのを良いことにパンケーキを食べ始めたヨハネスに苦笑した。



「食欲は消えて無かったんだ……」

「ネルヴァ伯父さんが戻る前に食べないと勿体ないだろ。はあ……さっきのネルヴァ伯父さん、怖くはないけど明らかに楽しんでた」

「楽しんでたって?」

「君の婚約者の心の声を聞いたのは事実だよ。僕もしようとすれば人間の心の声を聞ける」



「ヴィルも?」と振り向くとお茶を飲みながら肯定された。



「周りから君との関係を修復しろと言われて来たけど、皇子様の心の声は不満だらけで君の妹の方が皇子としても顔が立つって愚痴愚痴うるさかったよ」

「皇帝陛下や皇太子殿下に言えばいいって何回も言ったのに」

「ネルヴァ伯父さんがどうにかしてくれるみたいだから、君にとっては良い方へいくんじゃない?」

「やったー!」



 もうこれでジューリオと関わらずに済むのなら大万歳。大喜びするジューリアの側、お茶を飲み続けるヴィルはジューリオの心の声を聞いた際に出た言葉を教えなかった。多分ヨハネスも聞こえただろうにジューリアには話さない。



 “ムカつくのに……ジューリアの綺麗な瞳の色が忘れられない……”


 



読んでくださりありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄ちゃんを強く押してるとこ。よっぽど呼ばれたいんだな~。まあ、兄者だもんね。 [気になる点] 王子に強制させるはずなのに、主人公に強制しようとしてない?令嬢に対する扱いが雑。お兄ちゃんが…
[一言] 結局手に入らないものへの執着かあ
[一言] いくら綺麗な瞳の色が忘れられなくてもムカつくのなら結局は嫌いなのでは? 好きでもないのにそんな理由で執着されるジューリアが不憫なので早く王子と縁が切れてほしいです
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