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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
78/133

ネルヴァ④

 


 前世不幸な境遇にいた人間が『異邦人』として生まれ変わると不幸の境遇が幸福となるのが常。数は少なくともネルヴァが見てきた『異邦人』は皆幸せな人生を過ごし、軈て幸福なまま生涯を閉じた。

 ジューリアだけが異例の幸福じゃない『異邦人』。前世家族運に恵まれなかったジューリアは、今世でも家族運がなかった。原因としてヴィルが挙げたのは、前世のジューリアの肉体が完全に死んでいないからと指摘した。



「おれが初めてジューリアを見た時から、今と前世の魂がぶつかり合って反発し合っていた。魔法や癒しの能力が使えなかったのもそれのせい。反発し合う魂を一つにしたから魔力の流れが正常になったけど、前世のジューリアの肉体はまだ完全に死んでない」



 今のジューリアの魂と融合させた事で前世の肉体に戻る魂が無くなってしまっても、まだ微かに肉体に魂の欠片が残っている為死なない。

 ただし、前世の肉体は二度と目を覚まさない。絶対とは言い切れなくてもほぼ目覚めない。



「そういうことか。『異邦人』が不幸だなんて初めて聞いたから驚いたけど、理由が理由ならそうなるか」

「魔法が使えないと判断されるまでは、ジューリアが前世になかった家族に恵まれてはいたけどね」



 七歳の時の魔力判定で無能の烙印を押されて以降は、前世と同じで不幸な目に遭っている。

 元々の本人の性格が幸いして悲壮感はなく、割り切りも早く既に家族を見捨てている。ヴィルと出会った事でより家族はジューリアにとって不要となった。



「で、彼女の実家は彼女とどうしたいの?」

「妹を除いてやり直したいみたいだよ。ジューリアは断固お断りだって毎回突っ撥ねてるけど」

「妹は何故?」

「あくまでおれの予想」



 無能の烙印を押される前のジューリアは生まれつき魔力量が高いせいで体が弱く、周囲に過保護に育てられていた。大して妹のメイリンは普通の健康体で将来癒しの女神と期待を掛けられつつも、常に周囲の注目がジューリアに向けられていたのが気に食わなかった。


 一番ジューリアが無能と判った時、安堵したのがメイリン。今までジューリアに構ってばかりいた両親も周りも、いざ無能と判ったジューリアを揃って見捨てた。

「人間ってさ……」とヨハネスがぽつりと零した。



「自分に利がない相手に対して掌返すの早くない?」

「合理的と言えばそうなんだろう。あらゆる手を使ってもジューリアは魔法を使えなかった」

「それで見捨てられて、挙句あの子が距離を取ったら接近って都合が良いよね」

「ジューリアが意固地なのもあるけど、今更ごめんだって気持ちは分からないでもない」



 少しも絆される気配がないのがジューリアという個人であり、前世で培った性質。気を許したところで裏切るのは何時だって相手だとジューリアは分かっているからこそ、絶対に許そうとしない。

 何度か謝罪ややり直しを受け入れない自分が悪いのかと悩んだりもするがヴィルの「ジューリアの好きにしたらいい」という言葉を受けて和解は却下の方向でいっている。



「魔力しか取り柄がなくても、フローラリア家は帝国の名家。彼女自身に能力がなくても血筋に利用価値を見出す輩はいる筈だ。ヴィル、あの子に婚約者は?」

「いるよ。帝国の第二皇子様」



 いてもネルヴァは大して驚かなかったが、次にヨハネスが発した台詞で少し吃驚する羽目になる。

「ヴィル叔父さんが自分の王子様だって言われてあの皇子様落ち込んでたっけ」

「ヴィル……」



 婚約者とは案外関係良好で、なのにヴィルが邪魔をしている? と過ったネルヴァの思考をヴィルはバッサリと斬った。



「皇子様は、魔力しか取り柄のない無能の令嬢を婚約者にされて大層嫌だったみたいだよ。初対面の時にジューリアを拒否して、今になって皇子様もジューリアと仲良くしたがってるんだ」



 当然ジューリアは断固お断り。皇帝による命令であれ、自分が嫌なら皇帝が納得する相手を見つけろとも突き放している。最適な相手はいる。ジューリアの妹メイリン。

 メイリンは第二皇子ジューリオを慕っており、将来癒しの女神と名高い。相手が妹に変わろうとジューリアより将来性のある相手だから、皇帝も納得する筈。現状メイリンには婚約者がいるものの、まだメイリンは相手を知らない。相手は親戚なのだがメイリンではない相手に好意を持っており、ジューリオが頑張れば円満にメイリン達の婚約は解消され、晴れてジューリオとメイリンは婚約を結べる。



「皇子様を可哀想とは思うけど、選ぶのはジューリアだ。おれはジューリアの意思に任せるよ」

「そこまで言われるとその第二皇子を見て見たくなった」



 話題の中心にいるジューリアはビアンカの隣に椅子を置き、再びハンカチを浮かし続ける練習をしていた。

 魔力量を一定に保つ操作能力の練習といったところ。

 リシェルの一件でビアンカがどんな性格をしているか大体知っているだけに、人間相手に真面目に教えているビアンカが意外でならない。



「エル君はどう思う?」



 ビアンカの実父である魔王——エルネストにあの二人を見ながら問う。



「どう、だろうね。ビアンカが今まで接してきた魔族は、皆アメティスタ家の娘という目でしかビアンカを見ていなかった。ビアンカ個人と交流を持ちたいって相手は……きっといなかった」



 ビアンカを見上げるジューリアの青緑の瞳は、太陽によって光る海面を彷彿とさせ、相手への純粋な好意とヴィル曰く隠しきれていない下心が丸見えなせいで毒気が抜かれているのだ。

 魔族にさえ同情される家庭環境というのも人間ならではなのか。



「あ」



 ジューリアが浮かせていたハンカチが風が強く吹いたせいでまた道へ飛んで行った。またか、という顔をしながら椅子から降りてハンカチを拾いに行った。



「今日はここまでにしようかな」



 風が吹く度にハンカチを飛ばされ、練習を中止させられると集中力が切れる。ハンカチについた汚れを払い、ポケットに仕舞った。


 ふわり、と体が浮いてくるりと反転させられた。

 またネルヴァに抱き上げられていた。



「うーん」

「なんですか?」

「君の事をヴィルに聞いてね。一つ聞いていい?」

「はい」

「ヴィルが元の体に戻ったら、君はどうするの?」

「もう決めてます」



 ヴィルと一緒に帝国を出て行く。初めはネルヴァを探す振りをしながら大陸をのんびりと歩く予定だったが、ネルヴァ本人がこうして現れた為目的は変わる。それでも一緒に帝国を出る予定は変わらない。



「そう。ヴィルから聞いたけど、婚約者がいるんだって?」

「いてもいないと同じだから気にしないで良いですよ」

「一度拒絶されたから?」

「逆に聞きますけど、一度拒絶してきた相手に後から仲良くしたいって言われて信用しますか?」

「相手によるかな」

「私が意固地なのは解ってますけど……絶対嫌です」

「そっか」



 ただただ疑問だっただけなのを問うただけでネルヴァに強制するつもりは一切ない。

 ネルヴァに降ろされたジューリアが戻ろうと足を向けた時——「ジューリア!」と呼ぶ声が。


 声の主に心当たりがあり過ぎるジューリアがうんざりとした面持ちで振り向くと……やはりジューリオがいた。

 いつもはジューリオとお付きの従者二人だけなのに今回は違った。金と銀で鷹の刺繍がされた黒のローブを着る男を四人従えていた。



「物々しいですが何か御用ですか殿下」

「お前と重要な話がしたい。すぐに城へ来てもらう」



「嫌です」と即お断りしたいがジューリオの側に控える謎の四人組から感じる雰囲気が口を開かせない。四人の内の一人が動き出し、ジューリアの腕を掴もうと手を伸ばすと「待った」とネルヴァが阻止した。



「無理矢理連れて行こうとすると嫌われちゃうよ?」

「邪魔をしないで頂こう。これは皇帝陛下の命でもあるのです」


「ま、待て!」



 ネルヴァを見て大層慌てたジューリオが男を退かせ、恐々とした面持ちでネルヴァを見上げ、天使様かどうか確認をすると意味ありげに微笑まれた。


 意味を察したジューリオが顔を青くし、男に「こ……この方は天使様だっ、無礼な真似をするな」と掠れた声で引かせた。





読んで下さりありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらず性格悪いし、部下まで無礼だな王子 王子自体、たいして能力もないくせに。
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