ネルヴァ②
流麗な銀糸と同じ色の瞳。ヴィルによく似た顔立ちと声。誰と聞かずともヴィルの兄ネルヴァだと即判断した。ジューリアにヴィルの兄者と呼ばれ、些か不満げに端正な顔を歪められた。
「女の子にまで兄者呼ばわりか。イヴが私を兄者と呼ぶのも、そもそもヴィルが私をそう呼ぶのを真似したのが始まりだったな」
「うーん……お兄様? お兄ちゃん? 兄さん? 兄上?」
「ヴィルはイヴにお兄ちゃんって呼ばれてるから、私もヴィルにお兄ちゃんって呼ばれたいねえ」
兄の呼び方を一通り出すとお兄ちゃん呼びを希望するネルヴァ。見目的にお兄ちゃんより、お兄様がピッタリだが本人はお兄ちゃんが良い。
近い内に会えると以前からヴィルに言われていたが、あまりに突然過ぎた。普通に会話が成立しているのはヴィルのお知らせがあったから。
「兄者」
「ヴィル。――いった!?」
下からヴィルの声がし、ネルヴァが視線を下にした直後急に痛がりだした。ジューリアを抱いている腕はそのままに、膝を地面に付けたネルヴァに降ろされた。
再び地面に立ったジューリアが何をしたのかとヴィルに問うと足を踏んだとか。
「なんで?」
「うん? なんとなく」
視線を逸らしたヴィルの声は気のせいか不機嫌だ。ヴィル? とジューリアが呼ぶと振り向いてくれた。
「どう? 俺の兄者」
「ヴィルにそっくりだね。ヴィルがそっくりなんだっけ」
「まあ、そうだね。ジューリアの好きそうな顔をしてるだろう」
「うん!」
今ヴィルに踏まれた足を痛そうに触れて情けない表情をしているものの、言われた通りジューリアの好きな顔だ。面食い故に美形は好み。それもヴィルに似た。声も似ているとなると興奮は増すばかり。
「いたた……ヴィル、酷いじゃないか。久しぶりに会えたのに足を踏むなんて」
「ジューリアを降ろさないからだろ」
「なあに? お兄ちゃんに焼きもちかい? 自分は抱っこ出来ないから」
「うん」
「認めるんだ……。やれやれ、随分とこの子にご執心なようだね」
足から手を離すも地面に膝を付けたまま、視線を合わせて話す。揶揄われてもムキにならず、淡々と認めたヴィルに呆けたのは一瞬。ジューリアへの執着ぶりに呆れた。
「面白いからジューリアは」
「ヴィルも面白いよ」
「俺のどこが?」
「私に付き合ってくれるとこ」
「そう」
「うん」
「……」
まだ会って日は浅いと聞いていたネルヴァだが、二人の様子を見ていると事実なのかと疑ってしまう。
「ネルヴァくん」
カフェのテーブル席にいた魔王も此方へやって来た。
「やあエル君。私の弟と甥っ子が世話になっているね。ヨハネスは?」
「ネルヴァくんの姿を見た瞬間あっちに……」と魔王が指差しのはテーブルの下。
椅子にしがみついて恐々とした表情でネルヴァを見つめていた。違う呆れの相貌を見せたネルヴァがテーブルの下に隠れているヨハネスの許へ行ってしまい、連れ戻されると心配したジューリアが駆け出す前にヴィルに手を掴まれた。
「様子を見ようよ」
「でも、無理矢理連れ戻されるってパターンもあるよ」
「兄者がその気なら、最初ジューリアに接触はしないよ。まあ、俺も気になるから一緒に行こう」
心配は消えないがヴィルが言うのならとゆっくりヨハネスが隠れているテーブル席へ行き、ネルヴァに無理矢理引き摺りだされるのを見て焦った。椅子に座らせ、自身も座ったのを見て取り敢えず様子見とした。
「ヨハネス。私が来た理由が分かるね?」
「う……! だ、だって、伯父さんじゃないと無理だよ……! 僕に神の役割なんて最初から無理だったんだ!」
「お前にその気がないからだろう。神になる為に育てられていたんだから、無理な筈がない」
「無理だよ! 大体、僕は神になりたいなんて一度も言ってない! 僕や伯父さん以上に神の座に就きたかった父さんにさせればいいじゃないか!」
「それについては私も賛成。だが、うるさい天界上層部はそうはいかない」
ネルヴァやヨハネスよりも神力が弱いアンドリューでは神の座には就けない。というのが、天界上層部の考え。単純な神力だけならネルヴァやヨハネスが上。気持ちだけで天界の頂点には立てない。
「ヴィルの兄者がもう一度神の座に就くことは出来ないの?」
「兄者にその気がないから絶対にない」
「お嬢さん、ヴィルが私を兄者と呼ぶからって君までそう呼ばなくていいからね?」
先程から気にしていたらしく、なら何と呼ぶかと考え……やっぱり兄者がピッタリだと言い放った。
「……ピッタリ?」
「はい!」
「そっか……」
読んで下さりありがとうございます。




