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まあ、いいか【連載版】  作者:
魔王の探し物
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茶会前の修羅場④

 

 金の長髪と青の瞳。背から生える六枚の羽が淡い赤に包まれている。天界最高位の天使にして、神族の次に尊き存在でその身は清らかではないといけない。

 とヴィルに説明されても、この場を逃げる策を論じる話題でもない為ジューリアは頭を悩ませた。周囲の時間が止まっているのはガブリエルの力。一定範囲内に時間停止の結界を展開させたのだ。



「最高位の天使ってだけですごそうなのに……どうしようヴィル。魔王さんいないのに」

「どうするかな」



 此処にいるのは現神であっても戦い方を知らないヨハネスと唯一対抗出来そうなのに子供姿になって戦えないヴィル、高位魔族のビアンカ。顔が強張っているビアンカに近付くと「そこの子供」ガブリエルが声を上げた。



「その女はこの世で最も汚らわしい生き物である悪魔だ。死にたくなければ近付かない事だな」

「あー……まあ……魔族なのは知ってますけど……」

「……何? 魔族だと知って共にいるだと?」



 ピクリと形の良い眉が動いた。熾天使相手にビアンカが魔族だと知りながらいると答えたのは拙かった。案の定、魔族と知っていて共にいるなら人間であろうと汚れた存在だと荒げられた。

 ビアンカからも「馬鹿じゃないの!? 熾天使相手に馬鹿正直に言うなんて!」と叱られる始末。



「あはは……。……どうしようヴィル」

「はあ……」



 頼みの魔王が不在の今、頼りになるのはヴィルしかいない。ジューリアに呆れつつも、椅子から降りたヴィルは空に浮かんだままのガブリエルを見上げた。

 その間、ジューリアはビアンカに小声で熾天使の相手は出来ないかと訊ねた。高位魔族であるビアンカなら、倒せなくても足止めなら可能なのではと。


 しかし——



「……無理よ。わたくしでは。まともな戦闘訓練を受けているならまだしも。高位魔族の令嬢で戦えるのは騎士や魔導士の家系に生まれ、育てられた人くらいよ」



 となると、やはり魔王が必要となる。



「相変わらずの偉そうな態度で何よりだよ、ガブリエル」

「ヴィル様。アンドリュー様から、ヴィル様がヨハネス様の力で幼くなったとは聞いております。幼くなったとしても貴方はヨハネス様の叔父。何故ヨハネス様を説得してくださらないのです」

「俺が言ったってこの駄々っ子は聞きやしない。飽きるまで人間界にいさせる方が俺も楽でいい」

「なんという体たらく! それでも天界を統べる神族ですか!」



 神の役目を果たそうとしないヨハネスにも、ヨハネスを説得する気のないヴィルにも失望するガブリエル。ガブリエルの気がヴィルにいっている内に魔王を呼びに行こうとジューリアが動き出すと「わたくしも行く」とビアンカも同様に動いた。


 しかし——



「あっ!」



 ある程度の距離まで離れると突然見えない壁にジューリアは弾き返された。後ろに飛んだジューリアを咄嗟にビアンカが受け止め、地面に倒れはしなかった。



「ありがとうございます!」

「ふん……」



 お礼を述べただけなのに不機嫌そうにそっぽを向いたビアンカに苦笑しつつ、見えない壁に手を当ててその弾力性に肩を落とした。



「これじゃあ、先へ進めない。ビアンカさん破れないですか?」

「……」



 後ろに下がらされ、壁に向かって電撃を帯びた光線を放った。が、壁は破れずビアンカが放った光線を飲み込んだ。



「無駄だ」



 後方から聞こえた声に振り向くと未だ宙に浮いたままのガブリエルが嘲笑う目でジューリア達を見下ろす。



「それは私が作った特別な結界だ。たとえ高位魔族の攻撃だろうとすぐに吸収する」

「ヨハネスを逃がさない為にしては随分な気合の入れようだ」

「ヨハネス様を捕らえ、天界に帰還せよとの事がアンドリュー様からのご指示です。ヨハネス様、私と天界に戻って頂きます」

「お前の主はあの眼鏡か? それともヨハネスか? どっちなの」



 未熟で経験が浅くても現神はヨハネス。けれどガブリエルにとって重きに置くのはヴィルの言う眼鏡ことアンドリューだ。アンドリューが絶対にヨハネスを連れ戻せとガブリエルに指示をしたなら、ガブリエルはその指示を遂行するまで。

 テーブルの下に隠れて震えていたヨハネスは恐る恐る出て来てヴィルの側へ素早く移り、小さくなった体にしがみついた。



「お、叔父さんっ、なんとかしてよ」

「一番手っ取り早いのはお前が天界に戻ることなんだけど」

「何回でも言うけど嫌だって言ってんの!! 僕は絶対天界には戻らない!!」

「だってさ、ガブリエル」



 断固として天界への帰還を拒否する姿勢を崩さないヨハネスと説得する気も引き剥がす気もないヴィル。二人を見下ろすガブリエルの顔から表情が消えている。美形の無表情は怖いと知っているジューリアの背中に冷や汗が流れ、嫌な予感を抱かせた。



「それが……天界を統べる神と神族ですか」

「何だったら、お前が眼鏡に進言すればいい。神に相応しいのは眼鏡だって」

「ヴィル様。貴方がアンドリュー様を軽視するのはネルヴァ様の影響が大きいのは知っております。ネルヴァ様さえアンドリュー様を気に掛けていれば、貴方やイヴ様は……」

「へえ? 天使風情が神族の兄弟関係に口出しするの? どんな権利があって」



 ヴィルの声色が数段低くなった。子供と言えど、中身は大人。僅かな時間発せられた圧倒的神力と上の者に立つ強者特有の威圧感。両方をガブリエルに向けられたと言えど、周囲にいるジューリアももろに食らった。普段のヴィルから考えられない威圧と怒気に膝が震え、額から頬に掛けて雫が零れ落ちた。座り込むもんかと足に力を入れて立ったままを保ち、隣にいるビアンカも震えてはいるが意識を保ち体勢を崩さない。

 ガブリエルもヴィルの気に圧倒され顔色が悪い。ヨハネスに関しては泣いたままなので変化に乏しい。だがいざ戦いとなると神力に波があり、戦闘中はその波を見分ける時間がないからまともに戦えない。ヴィルがガブリエルの気を引いている内に魔王を探しに行きたいと考えるジューリアだが、謎の結界を突破する方法がないと先へは進めない。


 見えない壁を凝視しながら考えているとビアンカが声を掛けた。



「ねえ……一つだけ、方法があるわ」

「え」

「あの熾天使が貼った結界よりも強力な攻撃魔法なら、結界を破るチャンスがあるかもしれない」

「本当ですか!?」

「貴女の魔力をわたくしに貸しなさい」



 そんな事ならどんどん使ってほしい! とジューリアは手を出した。



「……ちょっとは疑いなさいよ。貴女を騙して自分一人逃げようとしているかもしれないのに」

「結界を破らないと逃げられないのはビアンカさんも同じでしょう? 私の魔力が必要って事は、私の魔力を使わないとビアンカさんだって逃げられないじゃない」

「ふん。変わった人間ね」

「魔力しか取り柄がないから、私が手伝えるのはこれしかないの」

「魔法が使えるようになって、家族を見返してやりたい気持ちはないのかしら?」

「ない! 魔法が使えるようになったって分かった途端、関わりまくるのは目に見えてるもの! 私はあの人達と関わりたくないの!」



 寧ろ、関わらないなら魔法が使えるようになったと自慢したい。


 ジューリアが出した手をビアンカが握った。その直後——「ジューリア!」ヴィルの声が飛ばされた。咄嗟にジューリアを後ろに隠したビアンカは迫りくる光の熱線を己の魔力で構築した結界を展開。強い力に押され気味になるもジューリアが背を押し、更に前へ突き出すビアンカの手に自身の手を重ねた。

 瞬く間に強度が増した結界とビアンカの魔力。ジューリアの魔力をビアンカが吸収することで爆発的に結界の強度を上げた。押され気味だったビアンカに余裕が戻り、熱線を振り払い、そのままガブリエルの元へ戻されていった。




 


読んで頂きありがとうございます。



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