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まあ、いいか【連載版】  作者:
魔王の探し物
59/133

理解されても事実は消えない

 


 ご機嫌斜めで大教会に戻ったジューリアを最初に迎えたのはヴィル。魔王が滞在している宿から戻ってすぐにフローラリア邸に行ったので、戻ったら機嫌は悪いだろうとは予想していたが予想していた以上に悪い。

 ある程度の推測は出来ており、だがヴィルは口にせず。お帰り、とだけ発した。


 ヴィルの顔を見ると若干不機嫌なままだが表情を柔らかくしたジューリアは「ただいま」と返した。



「ドレスは作ってもらえそう?」

「多分。あの人達、やっぱりどこかで頭を打った可能性が大きいわよ」



 どうもフローラリア家の面々(妹と不在だった父は除く)はマダムビビアンのドレスをきっかけにジューリアとの交流の機会を見ていたようで、皇后主催の茶会に出席するドレス一着でいいとデザインを伝えるなり、すぐに屋敷を出て行こうとしたジューリアを追い掛けてきた。有りの儘の言葉をぶつけてそのまま帰ってきたと話すジューリアからはもう苛立ちは消えていた。



「ミリアム先生とセレーネの一件だけで態度が変わり過ぎなのよ」

「そうだね」

「三年間放置されて、今更になって掌返して仲良しこよしをする気は私にはない。前世の記憶を持っていなかったら、案外受け入れていたかも」

「どうだろうね。ジューリアが『異邦人』じゃなくても、散々冷遇してきた家族を受け入れるか受け入れないかはまた別の話になるよ」



 前世樹里亜だった時の人格が強いのだろうが、元々のジューリアの人格は既に樹里亜と言っていい。説明されても頭に大量の疑問符を飛ばすジューリアに分かりやすく説明をした。



「ジューリアは赤ん坊の頃から既に自我があったんだろう?」

「うん。前世の兄に川に突き飛ばされて意識が消えた後、目を覚ましたら赤ちゃんになってた」

「赤ん坊の頃から自我があったのなら、今の人格がジューリアという個人を作った。前世の記憶が多少影響していても、君は多分変わらなかった筈だよ」

「そうだといいな」

「そうだと思う」



 ジューリアが侍女ケイティを連れてフローラリア邸に戻っている間、寝ると言って本当に寝てしまったヨハネスの近くで人間の絵本を読んでいたヴィル。毎日魔力の波を探してはそれを掴み、解呪に臨む。少しずつだがヨハネスが突発的に掛けた力は徐々に薄まっている。地道にコツコツ解呪をしていけば半年か年内で元の大人の姿に戻れる。


 大人に戻ったらすぐにでも帝国を出て行きたいとジューリアに訴えられたヴィルは侍女はどうするのだと訊ねた。態々大教会に居候するジューリアに付いて来て世話をしてくれる、無能の烙印を押されたフローラリアの長女でも見下さない数少ない人間。ジューリアも言われて困ったと言いたげに眉を寄せた。



「さすがに帝国の外まで付いて来てほしいとは言えないよ。ケイティにだって生活はあるし、フローラリア家を出て行った私に付いて来ても給金が支払われるわけじゃないから」

「ジューリア。これは俺の提案」

「提案?」



 話を聞いて受けるか、受けないかはジューリアの自由だとヴィルは前置きをして語った。



「俺が元に戻ってもジューリアを連れて人間界をふらつく事にするんだ。条件として……あの馬鹿に帝国に特別な祝福を授けさせると言えば、国の利益を第一と考える皇帝なら納得してくれる。皇帝の命令なら、臣下である公爵は逆らえないだろう」

「そんなに上手くいくかな」

「まあ、俺の体が元に戻ったらの話だから、ゆっくり考えて」



「うん」と頷いたジューリアから、ふと視線を貰ったヴィル。首を傾げて見せるとふにゃりと笑われた。



「ヴィルって不思議」

「ジューリアが言う?」

「どういう意味? まあ、いいわ。だって、まだ会って日もない私の為に色々してくれるじゃない」

「言っただろう。ジューリアの隠す気のない下心が気に入ったって」

「だから言い方!」



 もう、と口を尖らせつつも最後はまた笑ったジューリアにヴィルも微笑を見せた。



 ――その日の夜。後は寝るだけとベッドに潜り込んだものの、妙に目が覚めて眠れないジューリアは寝室を出て外に出た。辺りは真っ暗で殆ど何も見えない。前世では電灯があったから夜でも歩ける。田舎だとそもそも電灯もないから都会よりずっと真っ暗だと友人の小菊は話していた。

 以前、ヴィルに教わった明かりを試しに出してみた。魔力を込め過ぎたせいでかなり眩しくなってしまい、弱く弱くと心の中で唱え明るさを調節した。良い感じに明るくした明かりを持って大教会周辺を散歩した。


 夜は昼と違って人の気配が一切ない。昼は大勢の人で賑わっている大教会も夜になると静けさに包まれ、少し不気味だ。ホラー映画だと大体一人呑気に歩いている登場人物に怪物が襲い掛かって来る。ホラーが苦手だったので絶対観なかった。小菊はホラー好きだったなと思い出す。洋画と邦画でホラーはかなり違うと熱く語られてもホラーが嫌いな樹里亜は軽く聞き流していた。



「あ」

「うわ」



 不意に背後から声を掛けられたジューリアは吃驚して肩を跳ねた。誰かと振り返ると純銀の瞳を丸くするヨハネスがいた。



「ビックリしたじゃない!」

「君魔法使えたの? 使えないんじゃなかったの」



 そういえば、ジューリアが魔法を使えるようになったと知るのはヴィルのみ。ヴィルが魔法を使えるようにしてくれたと話すとヨハネスは意味が分からないと首を振った。



「家族に魔法が使えるようになったって話さないの? 君の婚約者だって君を見る目を変えるよ」

「今更感がすごいから言わないの」



 幼少期は体が弱いジューリアを献身的に看病し、七歳の魔力判定の際魔法が使えない無能と判断された途端、今まで可愛がってきたくせに掌返して冷遇しだした。魔法が使えるようになったと言ったらきっと彼等は今までの冷遇に対し涙ながらに謝罪するだろう。ジューリアはそれが嫌だった。向こうは泣いて許しを乞うて終わり。許さなければ心が狭いとジューリアが責められる。一度受けた仕打ちは忘れない、忘れられない。



「お父様、お母様って呼んだだけで魔法が使えるようになれって部屋に戻されて。挙句『魔法が使えないお前は私の娘じゃない』って父親だった人に言われた。それとメイリンと遊んでたお兄様にお兄様って呼んで側に行ったら『お前は妹じゃない』って言われて、メイリンを連れて何処かへ行ったわ」



 当の本人達はすっかり忘れていたようで、最近ジューリアが言うと思い出していた。自分が口にした言葉がどれだけ愚かか今になって知ったところでもう遅い。

 ヨハネスに変わった様子はなく、人間の話をしてもしょうがないかと苦笑したら「そっかあ……」と零された。



「人間ってさ、自分と違う人間に対して冷たいというか、冷酷というか。認めようとしない節があるよね」

「否定しない」

「君も意固地なんだろうけど、君を突き放した人間達も理解力が足りないんだよ」

「理解されたいって思わないから平気」



 永遠に来なくても良いとさえ願う。


 ついでだから散歩をしようと提案され、一人より二人の方が暗闇を歩く恐怖感が薄れるからとジューリアは了承した。



「貴方も眠れないの?」

「昼間寝すぎたせいかな」

「だと思う……」

「何時ガブリエルが来るか不安だよ……僕は天界に戻りたくないから、魔界の王様に絶対に撃退してもらわないと」



 そもそも、天敵たる魔族の王に天界最高天使である熾天使撃退を神が頼むはどうなのか。と、常識人なら突っ込むだろうが生憎とこの場に常識人はいない。

 ジューリアは過去にトラウマを持つヴィルの前に熾天使は現れてほしくなく、また、子供の姿になって力を制限されているヴィルでは太刀打ち出来ないのでやはり魔王に撃退してもらわないとならない。最も早いのはヨハネスが天界に帰還するだけなのだが本人に帰還意思は皆無なので不可能。


 大教会周辺を歩き終わり、正面入り口に来ると知っている男性がぼんやりと建物を見上げていた。声を掛けると——魔界の王様は目を丸くした。



「こんな時間にどうしたの?」

「貴方こそ。此処に来ても大丈夫なの?」

「魔力は制限しているし、何かをしに来たわけじゃないから大丈夫だよ」



 魔王も眠れなくて散歩? と訊ねると似たようなものだと返された。

 ところで、と魔王はジューリアが魔法で浮かせている明かりに目をやった。

 ヨハネスと同じなので同じ説明をすると興味深そうに見られた。



「不思議な子だとは思っていたけど……そういう事だったんだ」

「魔界にも『異邦人』は生まれますか?」

「どうだろう。生まれてもあまり気付かないんじゃないかな」


 

 


 


読んで頂きありがとうございます。



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