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まあ、いいか【連載版】  作者:
魔王の探し物
55/133

誰も悪くない

 


「ねえ! 起きて!」

「ん!?」



 夜中に目が覚める事はなく、熟睡していたジューリアを起こしたのは一気にカーテンを開けて室内に陽光を差し込んだヨハネスだった。眩しい、とデューベイを頭の天辺まで引っ張るがそれすらもヨハネスに剥ぎ取られた。仕方なく起きたジューリアは眠そうな目でヨハネスをじっとりと見た。



「何ですかこんな朝っぱらから……」

「何時まで寝てるのさ! 君が来ないから僕もヴィル叔父さんも朝ご飯が食べられないじゃないか!」

「へ」



 時計を見たらいつも起きる時間より遥かに遅い数字を指していた。



「うそ」

「ほんとだよ! お腹減ったから早く来てよ!」



 ヨハネスに急かされたジューリアは慌てて寝台から降り、髪を手櫛で整え、早く早くと急かすヨハネスに手を引っ張られ食堂へ駆け込んだ。既にパンを食べ始めていたヴィルが慌ただしく入った二人へ少々険しい目付きをやった。



「うるさいよ朝から」

「だってお腹減った……なんで食べてるの!? ヴィル叔父さんがこの子が起きるまで待てって言ったのに!」

「気が変わった」

「酷い! 待たなくて良かったじゃん!」



 騒ぐヨハネスを「うるさい」の一言で黙らせたヴィルの隣にジューリアが座るとケイティが保温している鍋のスープをボウルに注いで置いた。ジューリアがあまりに気持ちよく寝ていた為、起こすのが忍びなかったと謝られるも気にしないでと首を振り、早速頂こうとした——ら、ケイティに止められた。



「お嬢様、その様子だと顔も洗っていませんよね?」

「あ、あ〜そうだね……」

「スープは後で温め直しますから、まずは朝の準備を終えましょう」

「そうだね」



 ケイティに促され、ジューリアは椅子から降りて一旦部屋に戻った。


 まず、ケイティに微温湯を運んでもらい、洗顔用石鹸で顔を洗った後、フローラリア家から持ってきた化粧品でスキンケアを終えた。次に歯磨きを終わらせ、化粧台の前に座ってケイティに髪を櫛で通してもらう。ゆっくりと丁寧に通されていく髪を見ていると以前セレーネにされていた時を思い出してしまう。雑で二度三度梳いたら終わる。髪が櫛に絡まっても強引に引っ張られ何本の髪が無残に落ちたか。家庭教師だったミリアムは現在街を襲撃した犯人ということで未だ牢獄にいる。ミリアムの実家である伯爵家は既にミリアムを勘当し、襲撃の一件も無関係だとミリアムを助ける気は一切ない。


 セレーネについては以前聞いた以外の情報はない。セレーネもセレーネで何時かミリアムと同様に報復しにきそうだ。



「あ、お嬢様。今朝早くにフローラリア家の家令がお嬢様に伝言があると来ていました」

「伝言?」

「はい。皇后陛下主催の茶会にてお嬢様が着るドレスを新調するので、今日の昼に屋敷に戻ってほしいと」

「今あるドレスで良いんだけど……」

「皇后陛下主催となるとそうもいかないのでは?」

「そうよね……」



 嫌で仕方ないが参加するのは決定しまっている。何より、ヨハネスがとても楽しみにしているのを見ている手前、今になって行かないという選択肢はないのだ。

 フローラリア家御用達のマダムビビアンを呼んでいると知らされ、どんなドレスを頼むか髪を梳かれながら一応考えた。


 髪を整えた後は寝巻から普段着に着替え、再び食事の場に移動した。ヴィルとヨハネスは既に食べ終えており、ヨハネスに至っては満腹で机に突っ伏して寝ていた。側で食後の紅茶を飲むヴィルの隣に座って改めて朝食を食べ始めた。



「今日はどうする?」

「一旦、フローラリア家に戻るよ。今度のお茶会に着ていくドレスを新調するから帰って来いってさ」

「俺が預かってるドレスで着ていく予定だったのにね」

「一応、セレーネが盗ったってなってるから、着ないで正解だったかも。ドレスの新調か……」



 屋敷に戻るのが面倒かつ、新しいドレスに興味もなければ変なデザインでなければ拘りもないジューリアは内心面倒で仕方ない。仕方ないが無防備な寝顔を晒すヨハネスの子供のような顔を思い出すとやっぱり参加するしかない。



「何時戻るの?」

「お昼くらいに戻るよ」

「なら、それまで俺に付き合って」

「何処か行くの?」

「俺と逢引しよう」

「逢引?」



 一緒に街を歩こうという意味らしく、前世ジューリアの知る言葉で表すとデートのお誘いとなる。すぐに満面の笑みで了承したジューリアに釣られヴィルも柔く笑んだ。決まったら朝食をなるはやで食べ終えたジューリアは呆れながらもジューリアの手を握ったヴィルと街へ行くことに。

 ケイティも連れて赴くと朝からでも街は活気に満ち溢れ、今の時間だと市場が賑わっているとケイティに言われ、市場に足を運んだ。



 〇●〇●〇●



「わあ…!」



 新鮮な野菜や果物、魚介、調味料や飲み物、あらゆる食料が集まる市場の規模に目を輝かせ忙しなく周囲を見るジューリアは早速気になった店へヴィルの手を引っ張って行った。

 ジューリアがまず最初に選んだのは木箱の中に一杯に積まれたリンゴ。リンゴの甘酸っぱい香りについ嗅いでいると店主が顔を出した。



「美味そうな匂いだろう!」

「とっても。そうだ、大教会の人達に幾つか買って行こうよ」

「いいよ」



 店主にリンゴを二十個程選んでもらい、代金を支払った後大教会へ届けるやり取りをして次の店へ。次に足を止めたのは数種類のナッツを売る店で、おやつに丁度良いんだよとジューリアに説明を受けたヴィルは興味が出たようで、全種類を一キロずつ購入した。



「一キロって多くない?」

「食いしん坊が今はいるし、俺だけじゃなく神官達にも渡したらいい」

「そうだね」



 ナッツも代金を支払った後、大教会へ届けてもらうようやり取りを終えて更に次の店へ向かった。途中、買い食いをしながら店を回るジューリア達。ケイティは遠慮したが三人で来ているから三人で分け合うのが当たり前だとジューリアが譲らずケイティにも食べてもらいつつ、三店目は深夜葡萄という、その名の通り深夜にしか収穫が出来ない葡萄を販売するお店を見つけた。


 どんな葡萄なのか試食したジューリアは前世でよく食べた葡萄よりも濃厚で甘い味に感動し、値札を見た。リンゴやナッツよりも高いがそれだけの価値は深夜葡萄にはある。神官達へのお土産も入れて二十房を購入し、深夜葡萄も漏れなく大教会へ届けるよう手配を完了させた。



「お嬢様、あまり買い過ぎてしまうと大教会の方々がいても食べ切れなくなります。大量買いはここまでにしましょう」

「そうだね。じゃあ、後は私達が食べる分を買おうよ」



 次なる美味しい食べ物を探すべく、ヴィルとケイティを連れてジューリアは市場巡りを続行した。


 


 ——その頃、一人置いて行かれて拗ねていたヨハネスは先触れもなくやって来たジューリオを見て銀瞳を丸くした。



「あ、あの子の婚約者の皇子様。何してるの?」

「天使様……ジューリアはいますか?」

「今朝早くに叔父さんと侍女を連れて市場に行ったよ」

「そうですか……」



 ジューリアに会いに来たらしいジューリオは目的人がいないと知り相貌が暗くなる。ジューリアからの話を聞いていた限り、ジューリオは魔力しか取り柄のない無能な婚約者を嫌っている筈。先触れもなく会いに来るくらいなら、嫌ってはいないのでは? とヨハネスは思うもジューリアは絶対に否定する気がするので何も言わないでおいた。



「待ってたらその内戻るけど、待ってる?」

「……いえ。また日を改めます」

「待ってようよ。あの子は君が嫌いみたいだし、報せを送っても待とうとしないんじゃない?」

「……」



 ヨハネスが言う嫌い発言は事実なのにジューリオは見るからに落ち込んだ。昨日見た感じでもジューリオもジューリアを嫌っている風に見えたから、何故落ち込むのかと怪訝に感じた。



「嫌いじゃないの?」

「嫌い……ですよ。あんな無能」

「じゃあ、なんで落ち込むの? ……ああ、誰かに叱られたから?」

「……」



 ジューリオは答えない。つまり、そういう事なのだ。


 帝国の第二皇子が婚約者と不仲なのを快く思わないのがジューリオの身内。——皇太子と皇帝だ。皇后は同情寄りで、魔力しか取り柄のないジューリアより将来癒しの女神と期待が大きいメイリンを婚約者にさせたかったようだ。だが皇帝がジューリオの婚約者はジューリアと譲らないらしい。


 魔力量についてはジューリア以上の令嬢はおらず、癒しの能力と強い魔力を持つジューリアをジューリオの婚約者とすることでフローラリアの血を皇族に入れるのが皇帝の狙い。


 俯いて何も言わないジューリオから天井へヨハネスは視線を移した。



「でもさあ、あの子が魔法を使えないのはあの子が魔法の練習を怠けているとかじゃないでしょう? 周りもあの子本人も原因が分からないのに、魔法が使えない理由をあの子のせいにするって君達人間って視野が狭いな」


 ヨハネスは思った事を言葉にしただけでも、人間であるジューリオからしたら天使の嫌味と捉えかなり胸が痛くなった。





読んで頂きありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[一言] ヨハネス、ちゃんと神様なんですね~。最初は我が儘ボン、と思ってたけど、眼鏡に色々制限される毎日を送ってたら爆発するのも無理ないわ。 もう眼鏡、爆発しないかな。
[一言] よくぞ言ってくれたヨハネス!! それを後悔屑両親にも言って欲しいよ! 親が子を守らず虐げ 周りにまて影響して無能呼ばわりされてるんだから。 それまでは可愛がってころりと冷遇したんだから。 …
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