表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まあ、いいか【連載版】  作者:
元神の企み。そして――
153/153

人外達の遊戯8

 



 破壊された建物の周辺には、怪物のものなのか、犠牲となった人間達のものなのか分からない血液が大量に飛び散っており、不気味な静けさを醸し出す場に足を着けたイヴは閉じていた瞼を上げた。銀瞳には複雑極まる術式が刻まれており、自身を中心として広範囲の景色を映し出した。



「人間達は逃げて、お兄ちゃんや兄者は城の中、か」



 此処に人間達が来ないのは賢明な判断と言っていい。イヴは全身に神力を纏わせることで周囲に漂う濃度の濃い魔力から身を守っている。魔王よりも強いリゼル=ベルンシュタインや長兄ネルヴァが遠慮の頭文字さえ窺えない力加減で戦ってくれるせいで空気中に漂う魔力濃度が明らかにおかしい。



「お兄ちゃん達は一体何をしてるのやら」



 詳しくは見えないが何かを探しているように見える。



「ふむ」



 帝国が管理する神や天使に纏わる秘宝は父が身体を乗っ取った人間によって既に神力を抜かれている筈。その二人さえ知らない秘宝がまだあると至ったのか。



「そういえば……」



 一つ思い出した。代々、皇帝に受け継がれる秘宝で禁忌指定されている代物がある。何だったかとイヴが思い出していた時だ——あちこちに飛び散っている血液が鯨の潮吹きの如く噴き上がった。驚く様子もないイヴは、寧ろ漸くか、と言った風に右手を腰に当てた。



「ユリア……否、化け物の血、か」



 血色の人型の怪物が次々に誕生する中、イヴの銀瞳に解析の術式が即座に刻まれた。イヴ一人なら難なく対処可能な力だが、人間であるとどうだろう。皇帝直属の魔法使い達なら何とかなっただろうがそれ以下なら……。

 溜め息に近い吐息を一つ零すとイヴの周囲を覆っていた異形の怪物達が一斉に襲い掛かった。

 微動だにせず、一度の瞬きをした直後、神力を雷に変えて放電した。神力に当てられた怪物達は悍ましい悲鳴を上げ消滅。後には赤黒い水溜まりが残った。近付き、ジッと観察するイヴ。



「一度倒すと血に宿っていた力は消えるのか」



 無限に再生されるなら厄介だと考えていたが一度きりなら数が多かろうと問題ない。但し、これが人間達の前に現れると厄介だ。



「レーネには、絶対宿を出ないよう言い付けてあるし、ミカエル君ももう着いているだろう。取り敢えず、あの子の安全さえ確保されていればいいか」



 ダグラスと宿の前で別れる際、エイレーネーの身に危険が迫らないよう宿全体に守護の魔法を掛けて行った。あまりやり過ぎるのも良くないとイヴは知っているものの、ダグラス自身はそう思っていない。本人は普通にしているつもりでも、魔力の量も濃度も人間のそれを遥かに凌駕してしまっているせいで人外級の効果を発揮してしまう。そのお陰でエイレーネーは今まで悲惨な経験をせずに済んでいる訳だが。



「ダグラスは帝都全体を見たいとか言って何処かへ行ってしまうし、私は何処に行こう」



 恐らく帝都を見渡せる高い場所にいるダグラスか、それとも城内にいるヴィルやネルヴァ達の所に行くか。

 悩むイヴを容赦なく血色の怪物達は襲う。が、神力を放電するイヴに触れることもなく消滅していった。



 


 城内にいるジューリア達はというと。一度外に出てきて危機一髪の目に遭ったジューリオと皇太子を安全な場所へ飛ばした際、追跡可能な跡を残していた。力は微量なせいで感知されにくく、現在も気付かれていない。いきなり目の前に飛んでは吃驚させてしまうだろうと近い場所に到着した。柱に掛かる灯りによって照らされる無機質な空間は妙に居心地が悪く、地下のせいか空気が冷たい。姿と気配を消す結界を張っているお陰で警備に当たる騎士に彼等の姿や声は届かない。



「私とヴィルが行こう。リゼ君達は此処で待ってて」



 天使様の振りをして一応の信頼を得ているネルヴァやヴィルなら警戒心を薄くしてもらえる。



「ジューリアについて聞かれたらなんて答える?」

「魔族のお嬢さんに攫われたままにしておこうか。保護してるって言って居場所を聞かれるのは今は面倒だ」



 ネメシスを捕える為、態と魔族に捕まった振りをしたジューリアは現在も攫われたままにしておく設定にするらしく、ヴィルに下ろされたジューリアは呑気に行ってらっしゃいと手を振った。


「呑気ね」と呆れるビアンカ。



「こんな状況前世じゃありませんよ。今世でもなかったけど……いっそ開き直った方が却って冷静になれるなって」

「皇子や皇太子のいる場所に皇帝や皇后はいないようね」



 先に居場所を特定した際、人物特定をすると厳重な警備を敷いてはいるが同じ場に皇帝と皇后の気配は感じられなかった。



「殿下はともかく、皇太子殿下なら二人の居場所を知っているかもしれませんね」



 緊急時の皇族の避難経路は二人共に叩き込まれている筈だが、幼いジューリオより皇太子は冷静な判断力を持っている。と思いたい。怪物の手は此処まで及んではおらず、二人が戻るまで結界の範囲内でならうろちょろしても良く、ジューリアは二度目に訪れることはないだろう城の地下を興味津々に見つめた。



「皇后陛下の記憶を見たヴィルが言っていたけど、此処って緊急時にしか使われないみたいですね」



 正式な入口を使用するには、皇族の身体に刻まれている魔法式が必要。その為、転移魔法で一気に飛ぶこととした。道を知っているのは皇族と極僅かな重鎮のみだが、避難場所を使用するには皇族が要る。



「補佐官さん。甥っ子さんのお母さんはまだ出て来ませんか?」

「さあな。おれやネルヴァの予想では後二十分程度だが、それよりも早く出て来ている場合はある」

「そうなっていたら……」

「人間だけでは対処しきれんな」



 今現在地上に舞い戻っていたとしても目的を達しない限り、戻るつもりがないのはジューリアとて肌で感じている。あの怪物を野放しにしては、人間界だけではない、魔界や天界にも手が伸びる。そうならないようリゼルやネルヴァが身体を張っているものの、二人ともに怪物を倒す為には人間の犠牲は被害の範囲内だと考えている。魔族のリゼルは抑々人間への気遣い等皆無。ネルヴァに関してはこれ以上の被害を出さない為の犠牲と考えている節がある。



「怪物の中には、素となった母親の子への愛情が歪に残っている」

「と、言うと?」

「歳の近い男を見つけては、母性を感じさせ生きたまま喰らって殺している」

「ひえっ」



 グロテスクホラー映画を彷彿とさせるリゼルの台詞に思わず想像してしまったジューリアは戦慄し、背中から頭に掛けて冷たいものが走った。



「解せないのは、毎回心臓を取り出しては握り潰していることだ」



 魔族、人間の魔力の源は心臓と言っていい。喰らうならまだしも、握り潰す怪物の思考はリゼルやネルヴァにさえ読めない。



「血を浴びたいだけなのか、他に目的があるのか。……ただ、あの怪物を見るに知能があるかは甚だ疑問だがな」

「甥っ子さんのお母さんが素になっているのに?」

「素がどうであれ、怪物に変異した時点で理性も知能も全て上塗りされたなら、元からあった物は全て消えて無くなったか、意識の深層部に押し込められたかのどちらかだ」

「つまり……もしも、甥っ子さんのお母さんの意識を戻すことが出来れば、怪物を止められる可能性がある……?」

「そうなった時にあの神族がいれば、有り得ない話ではない」



 語るのはどれも成功率の低い可能性の話で現実的ではない。ヨハネスと歳の近い男を喰らうのは、ユリアの我が子を思う深い愛情が歪になって現れたせい。


 


 


読んでいただきありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ