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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神の企み。そして――
150/152

人外達の遊戯5

 



 大地が悲鳴を上げる強力な魔法のぶつかり合い、空気が震え空が乱れる魔力の乱高下。大教会の客室でテミスの治療を漸く終えたミカエルは額に浮かぶ汗を袖で拭い、窓を開けて外を見た。帝国の象徴たる城の崩壊はリゼルとネルヴァが手加減無しで怪物と戦っているせいで半壊どころの話ではなくなっている。人間を殺しても罪にならない魔族と違い、罪を犯していない人間を殺すと罪になる神族が派手に力を出しているのは——……作戦通り、ヘルトを見つけネルヴァの人間殺しの罪を押し付けるのに成功したのだ。天使が崇拝し、守るべき神族が魔族と共闘して一つの敵を倒す等、長き歴史の中でたった一例しかない。



「ん……」



 ソファーに寝かせられているリシェルの声が聞こえ、このタイミングで起きるか? と緊張が走るも、身動ぎをしただけでリシェルの瞼は上がらなかった。リゼル=ベルンシュタインが愛娘を置いてまで怪物の所へ行ったのは、野放しにしては人間界だけではない魔界にも影響が及ぶと即座に判断したのが理由。見ると傷はほぼ塞がっており、最初の時と比べると顔色も戻ってきている。遠隔で治癒魔法をかけていたのなら、やはりリゼル=ベルンシュタインは化け物だ。そんな化け物に幼少期喧嘩を売って瀕死の重傷を負ったのにも関わらず生還したネルヴァも同類である。まあ、ネルヴァの場合はエルネストの献身的看病のお陰で生き延びたとも言っていい。

 このまま此処にいては、何れ火の粉が降りかかる。帝都に安全な場所はもうどこにもない。——思った直後、突然扉が開いた。人払いの結界をヴィルが張ったのに誰かが突破した。ミカエルが咄嗟に身構えると……相手を見て呆然とする。



「イ、イヴ様……?」



 ふんわりとした銀の髪を揺らし、女性によく間違えられる美顔はミカエルの顔を見るなりふわりと笑む。



「やあ、ミカエル。久しぶりだね。一体全体何が起きているのさ」



 名前は女性名だがしっかりと低い男性の声を持つイヴ。ベッドで寝ているテミス、ソファーで寝かせられているリシェル、テーブルに突っ伏して眠っているヨハネスの三者を見るなり片眉を上げた。



「ヨハネスに、多分リゼル=ベルンシュタインの娘、それと……人間じゃなさそうな子が寝てるなんて何をしたの」

「私は何も」



 ミカエルは治療を終えたばかりのテミスの側に行き、主天使キドザエルの姪アスカだと話した。心臓発作で亡くなったことにされたが実はヘルトやセレナの命令で動いたユリアに誘拐され、洗脳と成長促進によって帝国の魔法使いにされていたと話す。リシェルは帝国の魔法使いによって重傷を負わされ置いて行かれたこと、ヨハネスについてはミカエルは重く語った。大体の事情を知ったイヴは空いている椅子を引っ張って座り、考えていた以上に事態が最悪だと零した。



「兄者とリゼル=ベルンシュタインが負ければ人間界は終わる。天界や魔界もね」

「あの二人が負けるとはとても思えません」

「私だってそうさ。妙な胸騒ぎが消えていたら、信じてやれるのに」



 胸の奥をざわつかせる雑音が何時までも消えず、苛々しているイヴは声を漏らしたヨハネスを見る。泣いていたのか、目元には涙の跡があり、時折ユリアを呼んでいる。



「ヨハネスに睡眠魔法はかけた?」

「いえ……ネルヴァ様が眠らせましたので何も」

「ふむ……見た感じかけていないね。念の為、かけておくか」



 もしも途中で起きられれば、ヨハネスは迷うことなくユリアを探し飛び出す。神力が強かろうと戦いの経験がないヒヨッコが戦場へ行ってしまえば、一瞬で餌食となり死ぬ。



「眼鏡が死んだのって本当なの?」

「あの切羽詰まった声……とても嘘とは思えません。そんな嘘をつく必要があるのでしょうか。それにアンドリュー様はユリア様によって重傷を負わされたと聞きました」

「……」



 口煩く、神経質で、怒りっぽく、弟達が自分より強い神力を持って生まれて強い劣等感を抱き、挙句息子まで強い神力を持って生まれたとあってアンドリューはヘソを曲げていた。長兄はアンドリューを除いた弟達を構いたがりうざいが何だかんだ好き。次兄は誰に何を聞かれようと嫌いの一言しかない。三番目の兄は一番構ってくれた上に長兄と違ってうざいとは思わない距離感で接してくれるので大好き。イヴが兄達に抱く気持ちはこんなところ。

 ユリアは急所を外したと認識していたが実際は外していなかったというのが他の意見。イヴは別の考えがあった。



「眼鏡が死んだと聞けば、ヨハネスはどうすると思う?」

「え? それは天界に戻ってアンドリュー様の——あ……」

「そういうこと」



 人間界へ逃げ出したままのヨハネスを自主的に天界へ帰還させる嘘という可能性がある。



「確かに眼鏡は私やお兄ちゃんより弱いよ。そう簡単に殺される程弱いかと言われるとそうでもない気がする」

「つまり、アンドリュー様はヨハネス様を帰還させる為に天使達に指示をした可能性があると?」

「あくまで予想の話ね。実際に天界に帰還して確認をしないとだけど……」



 話の最中でも建物全体が揺れ、轟音が届く。人間達の悲鳴も遠くから聞こえてくる。



「状況が状況だ。後回しにしよう」

「キドザエル様が天界に帰還しました。あの方に連絡を取って確認をしていただくというのは」

「駄目。私の予想が当たっているなら、眼鏡は熾天使以外誰も近付けさせはしない。主天使如きじゃ話にならない」

「……」

「かといって、他の上位天使に確認もさせられない。やっぱり眼鏡は最後。私達がすべきことは、怪物となったユリアを殺すことだ」



 あっさりと殺すという言葉を使ったイヴはふとヨハネスへ向いた。意識は深層部分に落ちているお陰でユリア殺害の言葉を使っても反応しない。

「ミカエル」と呼んだイヴは一枚の紙切れを渡した。



「此処に書かれている宿にエイレーネーっていう女の子が泊まってる。私の名前を出して暫く一緒にいてあげて」

「お、女の子? イ、イヴ様まさか人間の娘に……」

「妙な勘違いをしないように。私の友人の娘さ」



 キッとミカエルを睨んで牽制し、役に立たない三人をエイレーネーのいる部屋まで運び、事態が終息するまで留まる様命じた。



「帝都を出たって行き場はない。それなら、魔族も見たら秒で逃げる祝福満載なエイレーネーのいる部屋にいる方が安全だ」

「なんですか、その特別な人間は」

「いや? そういうのじゃない。私の友人が娘を守る為に掛け続けたんだ」



 但し、祝福の魔法を掛けた魔法使いは人間なのに人外級の力を持つ。安全健康第一を考えて掛け続けたそれはエイレーネーにとって害になるなら些細なものでも排除してしまう飛び切りの代物へと進化してしまった。ある意味では特級呪術だとイヴは呆れながら笑う。



「何にせよ、エイレーネーの側にいれば非常に安全ってこと」

「私は構いませんがイヴ様はこの後どうなさるのですか」

「私? そうだね」



 立ち上がり、窓に近付いたイヴは銀の瞳に千里眼の術式を走らせ城周辺の景色を映した。上空で怪物を相手にするネルヴァとリゼル=ベルンシュタインの魔法のせいで地上の人間達は巻き添えを食らい、死傷者が爆発的に増えていく。時折怪物は若い男を見つけては抱き潰し、血肉を食らって心臓を握り潰し地上に血の雨を降らせ箇所によっては血溜まりが完成している。



「……」



 魔族でもない、神族でもない、別次元のナニカが良からぬ企みをしているのは明白。ネルヴァとリゼル=ベルンシュタインには怪物だけに集中してもらわないと——直後、イヴは瞠目し、イヴが纏う空気が一瞬で変わったと感じたミカエルは身を強張らせた。



「イヴ様?」

「……ミカエル、私も城へ行く。君はすぐに三人をエイレーネーのいる部屋へ行くんだ」

「一体何を見たのです」



 緊張の度合いが格段に増したミカエルの声に応えないまま、窓の縁に足を掛け、外へ飛び出たイヴは城へ向かった。


 イヴが目にしたのは血溜まりの水面が泡を吹きナニカを形作っている光景。



「上空にいる兄者やリゼル=ベルンシュタインはきっと気付けない。だとすると、ユリアの皮を被った怪物の狙いは——」





読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
スーパー棗大戦感
リシェルの怪我を遠隔で治すくらいなら治癒してから魔力回収すれば良かったのにと思うけど、治す気はなかったのに怪物さんが想定以上だったから移動を見越して治したってことなのかな? ヨハネス椅子で寝かされて…
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