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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神による悪魔狩と天使喰らい
132/133

嫌な予感

 

 


 ——その頃の魔界では、今現在人間界で行われている『悪魔狩り』が何時終わるのかという住民達の声が魔王に寄せられていた。リゼルと入れ替わるように帰還した魔王エルネストは多数寄せられる声に困っていた。今執務室にはエルネスト一人にしてもらっている。誰かがいては気が散るのもあるがゆっくり考えたい事があった。



「なんだろうこの感じ……」



 長く生きていたが徐々に苛立ちを孕む胸のもやもやを抱えるのは初めてだった。魔界に帰還して大した時間は経っていないのに。

 人間界にはリゼルがいる。あのリゼルに余程の事は起きないとエルネストが誰よりも知っているのに嫌な予感がしていた。



「ふむ」



 試しにリゼルやネルヴァに連絡を試みたが応答はなかった。どちらも相手からの連絡には必ず応えるのにないという事は、人間界で何かが起きている。



「リゼルくんやネルヴァくんがいるなら、僕の出番はないのだろうけど」



 自身が留守の間の仕事は大方リゼルが処理をし、魔王の決裁が必要な分については先程終わらせた。魔王たる自分が何度も不在とあっては周りへの示しがつかない。現在、天界は魔界に構っていられないだろうが何時隙を突いてくるかもまた不明。



「こういう時、身分が重く伸し掛かるな」



 魔王の座に就いて後悔はない。

 身軽さでいうと圧倒的に不都合が多い点を除いて。



「やめよう」



 人間界へ行くのを諦めた。リゼルやネルヴァがいるのだ、余程の事が起きようとあの二人なら無理矢理にでもどうにかする。仕事を溜めたらリゼルが帰還した際雷を落とされる。彼に暴言を吐かれないようエルネストは気持ちを切り替え、仕事を再開したのであった。


 


 


 ○●○○


 


 触手に拘束され、地中深く引き摺り込まれたリゼルとリシェルの二人は容赦なく魔力を奪われていた。服を貫通した棘が肌を刺さり、全身から血を流し、激痛によってリシェルは悲鳴を上げ続けていた。


 目の前で愛する娘が苦しんでいる。

 己の命よりも大事だと豪語する愛娘が——リゼルの怒りがあっという間に頂点に達し、隠れて様子を見ていた赭面の老女は引き攣った顔を見せながら姿を出した。



「な……なんなんだいお前っ、何故平然としていられる」

「……今すぐにリシェルだけを解放するなら、お前等の娯楽に付き合ってやる」



「何を——」と赭面の老女が言い掛けた直後。リゼルはリシェルを抱き寄せ、素早く口を動かす。魔法を使ったせいで触手はより多くの魔力を搾取するべく稼働を強め、二人を包む光の輝きが増した。余計リシェルに苦痛を与えるだけの行い……なのだが、リシェルの悲鳴が止んだ。ぐったりとリゼルの肩に頭を置き、荒い呼吸を繰り返す。



「言え。リシェルを解放すると」



 地獄の王も泣いて逃げ出す憤怒の面を真正面から放たれた赭面の老女は腰を抜かしてしまう。リゼルの目に見える肌は血管が浮き出し、黄金の瞳も瞳孔が開き、一言間違うだけで己の首が吹き飛ぶと錯覚させる。相手は魔王級の魔力を持つ魔族とシメオンからの説明を受け、奇襲作戦をネメシスが提案した。



『私が囮になっている間、ティアは魔法植物の召喚をお願いします』



 あらゆる生物の命の源たる魔力を吸い取られれば、いかに魔族といえどただではすまない。一度捕らえると二度と逃げ出せない魔法植物をティアが召喚している間にネメシスが囮になってリゼルの意識を逸らす作戦に出た。結果は大成功と両手を挙げて喜べるのにティアは喜べなかった。

 優位はティア。

 劣勢は魔族。の筈なのに。爪先から脳天を駆け巡る恐怖に縛られ、心は恐怖という名の色に染まり意識が朦朧としてきた。


 その為ティアは気付いていない。

 二人を拘束する触手が吸収する魔力量に耐え切れず次々に膨張しては——破裂していっていると。


 


 


 地中へ深く引き摺り込まれたリシェルとリゼルの消えた先が何度も発光し、その度にリシェルの悲鳴が地上まで届いていた。青褪めた面持ちで見えない先を見つめるしかないビアンカはそっと穴から離れた。



「ベルンシュタイン卿がいるのに一体何が……」



 リゼルが側にいるのにも関わらずリシェルが攻撃されている。本来であれば絶対に起こらない事象が自分の目の前で起きてしまっている。

 触手が出現する間際リシェルの張った魔力の膜によって安全な場所へ飛ばされ、引き続きテミスの治療を行っているミカエルへ意識を変えたビアンカはその場にへたり込んだ。



「まだ掛かるのかしら?」

「リゼル=ベルンシュタインをまともに相手取っての重傷なんだ。簡単には治らない」

「そのベルンシュタイン卿がリシェル様を助けられていない状況に追い込まれているなんて……」



 魔界で暮らしていた頃なら信じられない現実で、あの時の自分ならいい気味だと亡き父と嘲笑っていた。


 なら今は? ——そんな気が起きる事は二度とない。



「リゼル=ベルンシュタインとその娘を捕らえた植物は、恐らく皇帝お抱えの魔法使いだろう。一目見ただけで詳細までは識別出来ないが高位の魔法植物と見た」

「どんな植物なの?」

「私の予想に過ぎないがあれは——」


 

「あ、あの」



 二人を捕らえた魔法植物についてミカエルが説明を始めた矢先、突然第三者の声が耳に入る。瞬間的に振り向いたビアンカとミカエルの視線の先には、帝国魔法使いのローブを纏ったブロンドの女性が所在なさげに立っていた。



「そこの、女性の方。貴女、魔族ですよね?」



 一見するとビアンカよりも弱い女性であるが、纏っているローブが正体を現している為油断ならず、気弱な態度で接して来る女性に最大限の警戒を持つ。


「だったらなんだというの」


 どうせバレているなら誤魔化しても意味はなく、素直に認めて相手の目的を知るのが一番だ。

 己に活を入れて立ち上がったビアンカは堂々とした佇まいで女性と対峙した。



「えっ、ええと。魔族にいてもらっては困ります。速やかに排除させていただきますっ」

「わたくしが何をしたというのかしら」

「ええっと。ええっと、魔族が私の同僚に重傷を負わせて、それから同僚のご息女を攫ってしまって……」

「その魔族がわたくしだと言いたいの?」

「ああう、ええと、そのお」



 ハッキリしない女性の物言いに段々と苛立ちが募る。視線を忙しなく動かし、ビアンカの問いに対する言葉が何時までも見つからず最後は俯く始末。本当に皇帝直属の優秀な魔法使いなのか甚だ疑問だ。


 ——動くなら今。


 まともな戦闘訓練を受けていないビアンカが戦い慣れている魔法使いに仕掛けるなら今しかない。


 ビアンカが動き掛けた直後——ミカエルが「待て!!」と叫んだ。





読んでいただきありがとうございます。



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