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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神による悪魔狩と天使喰らい
121/134

お断りです!②

 



 前世では乗り物酔いがあってジェットコースターといった絶叫系アトラクションに数える程しか乗らなかったジューリアは、片腕で自分を抱いてシメオンとテミスと魔法戦を繰り広げるリゼルが縦横無尽に空を駆け回ろうと酔いがないことに酷く安堵した。相手は人間と言えど、皇帝直属のエリート魔法使い。それもテミスはリゼル曰く人間ではないときた。実父の実力は知らないが魔法騎士という、帝国でも名誉ある称号を持っているだけあり、魔界最強の魔族相手に引けを取っていない。



「何者か知らぬが姿を見せろ!」



 異空間より出現した魔力が込められた剣の切っ先から一直線の紫電が放たれた。姿を見せないリゼルへ放たれた紫電は難なくリゼルが片手で防ぎ、シメオンやテミスに返した。二人もまた結界で紫電を消滅。



「姿を見せないということは、貴様悪魔か」

「間違いないかと。何者かから感じる魔力は悪魔のものです。ただ、もう一人の魔力については解析ができません」

「もう一人は攻撃をしてこないからな」


「なるほど。どうも奴等、魔力だけでおれ達を見ているな」

「補佐官さんが私を抱っこしながら戦ってるとは分からないって事ですか?」

「そうだ」



 テミスの目に浮かぶ魔法陣とシメオンの目に浮かぶ魔法陣は、魔力を捉えるのが同じだけで他の能力についてはテミスが一枚上なだけ。ジューリアはふと下を向いた。ジューリアの目でも分かる、フローラリア邸に展開されている結界が濃くなっていた。



「おれを相手するのに屋敷の結界を強化したんだろう」



 先程からの攻防で屋敷に被害が出ていないのは結界のお陰。楽しい思い出はないに等しいフローラリア邸だが、消えて無くなってしまえとまでは思わない。



「ん?」



 シメオンの耳元に突然小さな魔法陣が現れた。次の一手か、とジューリアは警戒すると知っている声が届いた。



『シメオン!』



 この声は——母マリアージュの声だ。



「マリアージュか。屋敷に被害は出ていないな」

『ええ。念の為、グラースやメイリンは貴方の部屋にいさせています』

「ああ。マリアージュ、君もそこにいなさい。私達が戻るまで決して外に出ないように」

『ええ。ジューリアの保護は?』



 それだ。ジューリアもそれが気になっていた。



「心配ない。今、魔法士長が大教会に向かっている。仮令、悪魔がいようと彼女ならジューリアを無事に保護してくれる」



 役職名しか分からずとも、シメオンの言う彼女が恐らく帝国最強の魔法使い。



『ネメシス様なら……そうね』

「マリアージュ。グラースとメイリンを頼む」



 そう言って通信を切ったシメオンは再びリゼルとへ向き合う。

 帝国最強の魔法使いの名前はネメシス。名前を聞いたジューリアは前世小菊の兄が好んでプレイしていたゲームシリーズに登場したストーカーと同じ名前、と呑気に考えた。のも束の間。シメオンとテミス、リゼルが同時に動いた。



「あ!」



 シメオン、テミスの二人が同時に魔法陣を展開。二つは一つになり、フローラリア邸を覆う巨大な魔法陣となった。結界を強くしているとは言え、やりすぎではと感想を持った直後、ジューリアを抱くリゼルの腕の力が増した。



「口を開くな」



 強く頷いたジューリアは強い力で後ろに引っ張られる感覚に陥り、すぐに上へ引っ張られる感覚に襲われ、リゼルに抱っこされているだけで絶叫系マシーンに乗っている気分になった。



「急げテミス!」

「分かってる!」



 シメオンとテミスの焦り声を聞きながら、急下降する感覚にリゼルにしがみついた。

 途端、響く大きな硝子の砕けた音。瞑っていた目を開ければ、巨大な魔法陣は無数の欠片となって空を舞っていた。呆然とするシメオンやテミスを見るに、呆気なく砕かれた魔法陣に衝撃を受けているのだ。



「な……何者なんだ、一体」


「あ、あの、補佐官さん」

「なんだ」

「公爵様やあの魔法使いの女の人……重傷を負わせる方向でお願いしたいです……死なれるとフローラリア家の人達が悲しみます……」

「安心しろ。人間界で人間を殺した魔族は、人間界を荒らした罰として罪に問われる。仮令それがおれだろうとな」

「よ、良かった」



 重傷を負わせても死ななければ良いらしく、ジューリアは取り敢えず安心した。重傷だろうとマリアージュがいる。



「姿を見せてくれませんか」



 片頬に冷や汗を一筋流したテミスが姿を見せないリゼルに問うた。



「悪魔ということは分かっています。帝国に一体何の用があるというのですか」



 馬鹿正直に答える輩はいない。「とっとと片付けるぞ」と言うリゼルの言葉に頷いたジューリアは、再び襲ったジェットコースターの感覚に耐えた。小さな両腕をリゼルの首に回し、勢いが強くて爪を立ててしがみつく。

 氷の刃、炎の槍、強風、紫電の矢、多数の属性が武器となってリゼル目掛けて飛び、全て躱せばシメオンとテミスの表情は絶望に染まる。シメオンの目前に迫ったリゼルはジューリアを抱いていない手でシメオンの腹に拳を捻じ込んだ。



「シメオン!!」



 テミスの悲鳴が響く。


 フローラリア邸を守る結界へシメオンが飛ばされた為、大きな罅が走った。



「うぐっ!」

「近くで見ればより人間に見えないな」



 テミスの顔を鷲掴み、リゼルが魔力を注ぐとテミスの絶叫が響いた。リゼルにしがみつくのに必死なジューリアは耳を塞ぎたくても塞げず、また急下降する感覚が襲い、リゼルに必死にしがみついた。


 シメオンが飛ばされた衝撃、テミスを結界に押し付けた衝撃によって、フローラリア邸を守る結界は砕け散り、テミスの顔を鷲掴んだままリゼルはそのまま屋敷にぶつけた。


 


 


 ——場所は変わってリストランテ。場所が離れていてもリゼルの強大な魔力は感じ取れる。



「パパ……」



 心配そうにリゼルの魔力を感じる方向を見つめるリシェルを気遣うのはネルヴァ。



「安心しなさいリシェル嬢。リゼ君、全然本気を出してない。相手の力量を計っているのか、試しているのか、そのどちらかだろうね」

「うん……」



 魔王以外でリゼルの力をよく知るネルヴァが言うのなら、リシェルは多少の心配は残せど取り合えず安心する。



「此処にいたのね」



 声のする方を向けば、流麗な白髪をハーフアップにし、今日は薄黄色のワンピースを着たビアンカがいた。腕を組んで一行へ向ける紫水晶の瞳は険しい。



「その言い方、まるで俺達を探してたみたい」

「みたいじゃなくて、実際に探していたのよ」



 ビアンカはリゼルや他の魔力が発せられる方角を向き、何と戦っているのかと訊ねた。

「さてね。ただ」とネルヴァは、皇帝の側に二代前の神とその妻が紛れ込み『異邦人』特有の純粋で清廉な魂を持つジューリアを狙っている旨を話した。

 最後まで聞き終えたビアンカは「……貴方達……あのお嬢さんの言葉だけど神族のくせに物騒ね……」と零した


 此処にやって来た理由をヴィルに問われるとジューリアの居場所を訊ねた。



「お嬢さんはリゼ君に連れられて一旦実家に帰っているよ」

「ベルンシュタイン卿と? ……それなら良いわ……」

「何か用があったんじゃないの?」

「暇潰しでお嬢さんの魔法の練習に付き合ってあげようと思って大教会に行ったら、帝国の魔法使いっていうのがあの子を保護しに来ていたわ」



 ビアンカは遠目で見ていただけのものの、ジューリアの居場所を神官に訊ねていた魔法使いから只ならぬ気配を感じ取り、こうしてジューリアを探しに来たのだ。



「思っていたよりも早く動き出したか……」

「神族が皇帝の魔法使いに紛れていると言うけど、人間の振りをしているってこと?」

「協力者がいるんだ。それが誰か知る為にリゼ君とお嬢さんが屋敷に戻ったんだ」



 未だ消えないリゼルの魔力。手掛かりを掴めれば、とネルヴァが口にした直後——。

 全員が一斉にある方へ向いた。


 魔法使いが着るコートを羽織っているが中の服は露出度が高く、豊満な膨らみの胸元がしっかりと見えており、腰まである長い新緑色の髪は風に靡き、彼等を視界に収める橙色の瞳は優し気であるのに女性からは得体の知れない不気味さを醸し出している。



「驚かせてしまい申し訳ありません。わたくし、帝国魔法士団のネメシスと申します。少々、お時間を頂けませんでしょうか?」


 


 


読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
リゼルとネルヴァが超絶かっこいい 強いし大人の余裕(笑)
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