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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神による悪魔狩と天使喰らい
120/121

お断りです!①

 


 魔族にとっても面倒とはどういう意味か。それをジューリアが訊ねようとした時、ある事を思い出した。生物学上の父シメオンは魔法騎士の称号を持つ、皇帝直属の魔法使いの一人だと。



「公爵様なら、他の魔法使いについて詳しいと思いますけど」



 馬鹿正直には聞けない。途中で言葉を切ったジューリアは頭に手を置いたネルヴァを見上げた。



「それだ。君の御父上は、普段何処に?」

「屋敷では、主に書斎にいる率が高いです。城になるとちょっと分からないですけど……」

「それでいい。なあに、態々直接聞かずとも魔法を使って引き出せばいいさ」



 ね? とネルヴァに同意を求められたリゼルは肩を竦めるも、否定はしなかった。



「お前がするよりおれがしよう。神族が紛れているなら、お前の神力を感じ取って公爵に何かしたかすぐに悟られる」

「リゼ君の場合でも、魔族の魔力は人間とは違う。すぐに気付かれる」



 するとリゼルの黄金の瞳はジューリアに移った。え? と零すと「ああ、そういうこと」とネルヴァは納得。どういうこと? と問えば、ジューリアの魔力を操ったリゼルがシメオンに尋問をするというもの。ジューリアの魔力ならば、魔族の魔力だと気付かれずに済む。逆にジューリアの魔力だとバレそうと言えば、それに関してはリゼルが別人の魔力と偽装すると説明。魔力の持ち主の偽装が出来るのかと瞳を輝かせれば、ジューリアでは到底無理と言われ落ち込んだのは言うまでもない。



「あ、ねえ、さっきヴィルの兄者や補佐官さんの言った魔族にとっての面倒ってどうしてですか?」

「ネルヴァ達が帝国にいると二代前の神が知っている以上、当然見張りを付ける。皇帝直属の魔法使いとあらば、誰にも気付かれずにな」

「はい」

「神族は人間の振りをした魔族を見抜ける。おれやリシェル、アメティスタの娘が帝都にいることも奴等は当然気付いている。お前の周りを無人にするなら、帝都に高位魔族が潜んでいると知らしめ、更にその魔族がおれ達だと示せば帝都にはいられなくなる」

「私を連れて行かれるとは思いませんか?」

「人間とて馬鹿じゃない。お前の安全の為、保護を最優先とするだろう」



「もう一つ」と今度はネルヴァに疑問を投げた。



「二代前の神はどうして今まで私を狙わなかったの?」

「こればかりは、本人達を捕まえて吐かせないとなんとも」



 ジューリアなりに考え、成人を待っていたか、或いはジューリオに嫁ぐのを待っていたか、と出してみるもしっくり来ないと否定された。

 ジューリオとの婚約は、膨大な魔力を持つジューリアが嫁ぐことで、皇室にフローラリアの癒しの能力と強い魔力持ち二人から生まれた子を期待してのもの。癒しの能力についてはフローラリアの血を引く女性限定となるものの、男性であってもジューリアとジューリオの子ならば強い魔力を持って生まれるに違いない。



「『異邦人』の私がもしも子供を産んだら、その子供も神族にとって御馳走になるとか?」

「『異邦人』の魂が御馳走であって、我が子と言えど魂が清廉とは限らない。まあ、可能性で言えばなくはない……かな」

「うーん」



 何にせよネルヴァの言う通り本人達を捕まえて問い質すのが最も手っ取り早い。

 “浄化の輝石”に祝福が無くなってしまった以上、誕生日当日フローラリア家に戻るつもりのなかったジューリアは、今から行くぞと立ったリゼルに目を剥いた。現在シメオンが屋敷にいるかまではジューリアとて知らない。不在なら城に行けば良いだけと言うリゼルの言葉に「なるほど?」と納得し、そのまま首根っこを掴まれて転移魔法でフローラリア邸のジューリアの私室に飛んだ。



「良かった……誰もいない」



 いきなりジューリアや見知らぬ誰かが現れれば、部屋に他人がいた場合悲鳴を上げられた。誰もいなくて良かったと安心し、リゼルに下ろしてもらうと室内を見渡した。大教会に移り住んでから何も変わっていない。ベッドメイキングは完璧、床やテーブルも埃一つ落ちていない。帰って来ない部屋主の為に清潔さを保つのも使用人の仕事。

 外に人の気配がないのを確認後、リゼルの張った他人に認識されない結界で自由に歩き回った。今の時間シメオンがいそうな場所を見て回るも姿はない。どうやら城にいると思われる。場所を城に変えるか、とリゼルが零した直後。

 近くの部屋の扉が開いた。中から現れたのは落ち込んだ様子のメイリン。思わず声を出しそうになると「多少の声なら出しても平気だ」と言われ、良かったと安心した。



「メイリン様……」



 メイリンの侍女が落ち込んでいるメイリンに声を掛ける。メイリンは俯いたまま歩き、何も発さない。ちょっと前に分かれたメイリンの異変にどうしたのかと多少心配はする。

 メイリン達が出て行った部屋はサロンで中には誰もいない。

 テーブルにはグラスとスイーツ皿が一つずつある。メイリン一人でお茶をしていたらしい。



「うーん」

「なんだ」

「メイリンがあんなに落ち込んでいる理由はなんだろうって」

「知りたいなら後にしろ。お前の父親が何処か探るぞ」

「はーい」



 リゼルの言う通り優先するべきはシメオンの居場所を知ること。メイリンが落ち込んでいる理由は後回し。再びリゼルに首根っこを掴まれた時、慌ただしい足音が幾つも部屋の前を通って行った。リゼルと顔を見合わせ、部屋を出て使用人達が向かって行った方を目指した。

 着いたのは玄関ホール。目的人シメオンがいて、側には見慣れない女性がいた。帝国魔法使いのコートを羽織った女性は「シメオン、ご長女は?」と問う。ボブカットの暗紫色の頭には銀の蝶の髪飾りが着いており、女性が動くと蝶の装飾が揺れた。



「ジューリアは今大教会に身を寄せている。すぐに呼び戻そう」

「でしたら、此方から出向いた方が早いかと。事は一刻を争います。早急にご長女を保護しましょう」

「ああ、そうだなテミス」



 女性はテミスと言うらしい。それよりも、自身の保護がどうと話す二人にジューリアは焦りを禁じ得ない。ネルヴァやリゼルの話していた予想が見事に当たってしまっている。「補佐官さん」とリゼルを見上げれば、険しい相貌でテミスを睨み付けていた。



「どうしました?」

「……あの女、人間じゃない」

「へ」



 いきなり当たりを引いた? と思った直後、テミスが突然ジューリアやリゼルの方を見た。周囲には誰もいない。ほぼこっちを見ている。リゼルの張った結界は完璧だ、一瞬の隙もない。気付かれたということはリゼルの言った人間じゃない発言は当たってしまった。

 強い力でリゼルに首根っこを掴まれ、宙に放たれると片腕で抱き止められた。此処にリシェルがいたらリゼルに怒っていただろうが、生憎とジューリアは人外の美顔を間近で拝められるからと一切の文句がない。



「舌を噛みたくないなら口を閉ざしていろ」



 返事の代わりに首を大きく振った。転移魔法で屋敷内から上空に移動された。


 偶然と信じたかったが――……テミスとシメオンが向かいに現れ項垂れた。



「そこにいるのは分かっています。姿を見せなさい」

「この魔力量……ただの侵入者ではないな」



 よく見れば、テミスとシメオンの瞳に魔法陣が浮かんでいる。恐らく魔力感知の術式を刻み、見えないジューリア達の魔力量を見ている。



「しかも二人とは」

「ええ。姿を見せないのは、知られてはまずいということ」



 力づくで姿を出させると意気込むテミスとシメオン。リゼルに抱かれる腕の力が強くなったジューリアは咄嗟に目を瞑った。



「いい判断だ」



 上から降ったリゼルの低いと声と共に、魔法を使えないジューリアでも感じられる膨大な魔力が解放された。




 


 


読んでいただきありがとうございます。


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