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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神による悪魔狩と天使喰らい
118/134

回って、廻って

 



 天使見習いや天使の子供の行方不明……これらが何を意味するのか。ネルヴァとヴィルは判っているようで重苦しい雰囲気を醸し出し、ヨハネスに至っては給仕にパンケーキを十枚とトッピングをジャム、生クリーム、チョコレートソース、ナッツを注文している。緊張感がないというより、自身の空腹を満たすことしか考えていない。



「参ったな」

「ね、ねえヴィル、行方不明になった天使の件もヴィルのご両親が関わってるの?」

「まず間違いない。行方不明の見習いも子供も、もう生きてはいない」

「嘘っ」



 ネルヴァによって神力の大半を奪われたと言えど、二代前の神の座に就いていた尊き存在。そんな相手に声を掛けられて付いて行かない天使はまずいない。仮令、見習いだろうと子供だろうと。



「将来有望な子供や見習いの神力を奪うのが目的だったんだろう。天使や神族は、根こそぎ神力を奪われると死ぬ。私があの二人の神力の全てを奪わなかったのもこれが理由なんだ」



 認識阻害の術を使っていたのが誰かと調べるには、天界にいる主天使に頼るしかなく、ネルヴァが早速連絡を送ろうと動き掛けた途端、光る球形がひらりひらりと舞い降りた。ネルヴァの掌に乗ると動きは止まった。



『ネルヴァ様、私です』

「知ってる。丁度良かった。こっちから連絡を送るつもりだったんだ」

『何かあったのですか?』



 声の主はネルヴァが連絡を取り合っている主天使。



「天使見習いや子供の行方不明者がどの程度出ているか調べてほしい」

『行方不明? そんな事が起きれば、上層部で問題になる筈では……』



 熾天使、または神族の誰かが騒ぎにならぬよう認識阻害の術を掛けたせいで天界にいた者は誰一人覚えていない有様。ヨハネスはネルヴァやヴィルの話を聞き、自身の力で認識阻害の術を解いた。



「主天使の君ならギリギリ解ける」

『解りました。やってみます』

「ああ。それともう一つ、アンドリューはどうしてる」

『カマエル様や他の天使達が魔族の手によって堕天使になってしまったことで、人間界にいる天使の数は激減。アンドリュー様は、上層部と今後の対策を練られております。ネルヴァ様、ヨハネス様に天界に戻らずとも一旦扉だけでも開けてもられるよう説得して頂けませんか。このままでは、人間界にいる天使達が全滅してしまいます』



 だってとネルヴァがヨハネスに目をやれば、すぐに逃げの体勢に入ったヨハネスを捕まえた。



「すぐに逃げるな」

「絶対に嫌だからね!? 天界の扉を開けた途端、ぼくを天界へ連れ戻す気だろ!!」



「とヨハネスは言ってるけど?」と主天使に聞けば、球形の向こうから大きな溜め息が届く。



『私にヨハネス様を無理矢理天界へ連れ戻す力はありません。ヨハネス様に戻って頂きたいというより、天使達を帰還させ、体内に溜まった汚れを落としてやりたいのです』



 悪魔との戦いだけではなく、人間界に滞在しているだけで汚れが蓄積し、限界に達すると堕天してしまう。

 ネルヴァの大粛清、先日のアメティスタ家の当主が引き起こした大量の堕天使化によって、これ以上天使の数が減るのは天界側として避けたい。主天使の主張には一理あると呟いたネルヴァが未だ逃げようとするヨハネスの頭に手を置いた。



「ヨハネス。天界に戻らなくていい、一旦天界への扉を開けるんだ」

「そんな事言ってぼくを引き渡す気でしょう!?」

「私は嘘は言わない。ほら、さっさと開ける」



 ネルヴァに促され、何度も天界へは戻さないと確認後、漸くヨハネスは重い腰を上げた。

 ガブリエルを撃退する際にも出した天界への扉を出現させた。巨大な純銀の扉は二度目に見ても美しく、天使の彫像が掲げている杖の先端に大きなダイヤモンドが埋め込まれている。鍵となるダイヤモンドに神力が注がれ、目を開けるのが難しい眩い光が発生。輝きを失うと扉が開かれた。



「ね、ねえ、ほんとにぼくを帰したりしない?」

「しないってば」



 ネルヴァが念押ししようとヨハネスの心配は消えず、ネルヴァの腰に抱き付き何が何でも帰らない意思を主張。ジューリアを抱っこしたまま席から離れたヴィルは呆れつつ、天界の扉に近付いた。



「天界の人達は扉が開いたって気付いているかな?」

「門番達は気付いているだろうね。兄者、兄者はヨハネスを天界に戻さないと言ったところで誰かしら来るよ」



 扉は出現したまま。ヨハネスに扉を消させたネルヴァは光の球形に意識を変えた。



「キドザエル。天界への扉は開けたんだ、ちゃんと私のお願いを聞いてね」

『勿論です。しかし、認識阻害の術を掛けた者に心当たりはありませんか』

「熾天使か神族の誰かだ。こんな真似をあの二人に頼まれてするのは……」


 ネルヴァの口から出た名前に反応したヨハネスは否定するも、熾天使だと神族を完璧に騙せる確率は低くなり、可能性が高いとなると——ヨハネスの母となる。



「母さんにそんな度胸ないよ。祖父ちゃんや祖母ちゃんに言われたって」

「私にヴィル、イヴやアンドリュー、お前を除いた神族で可能となるのはお前の母ユリアだけ。度胸が無かろうとあの二人に強要されれば、ユリアに拒む術はない」

「ええ……でも……強要されたって母さんが手を汚すメリットが何もない……」

「……」



 母親に対しては情があるヨハネスは落ち込んでしまい、ヨハネスの言葉に一理あり過ぎてネルヴァはこれ以上言葉が出なかった。


 


 ——扉の鍵が開錠された事実は天界側もすぐに察した。門番が急ぎ報せたそれにアンドリューは歓喜する周りを静かにさせた。

「ヨハネスは?」と門番に問えば、姿はないとのこと。



「つまり……扉の鍵を開けただけか……」

「ネルヴァ様かヴィル様が開けさせたのでしょうか?」



 以前、ヴィル達に天界へ戻されたガブリエルが疑問を呈する。



「だとするなら、ヨハネスを天界へ寄越さない理由が分からない……」



 別の思惑があると口にするアンドリューはざわめく周りを再度静かにさせ、一先ず人間界にいる天使達を帰還させるよう命じた。ネルヴァの大粛清や魔族による堕天使化のせいで天使の数が激減している現状、早急にしなければならないのは天使達の身の浄化。即刻ガブリエルに天使帰還の指揮を執らせ、他の天使や神族へ迅速に指示を飛ばしていった。



「……」



 微かに開いた扉の隙間から室内を見ていた女性はそっとその場を離れ、途中で歩みを止めた。



「ヨハネス……」



 長い銀色の睫毛に覆われた同じ色の瞳は憂いが帯び、俯けば純銀の髪が顔に垂れる。



「ユリア様」

「!」



 女性は自身の名を呼んだ主天使キドザエルに顔を上げた。



「天界の扉が今し方開きました」

「ええ……アンドリュー様も先程門番に知らされていました。ヨハネスは戻っていませんか?」

「はい。恐らく、ネルヴァ様かヴィル様が開けさせたかと」

「そうですか……」

「……ユリア様。少々お時間を頂けませんか? ヨハネス様のことで相談があります」

「私に? 分かりました」



 疑問を持たずキドザエルに付いて行ったユリアは人気のない場所へ連れて行かれ、立ち止まると急にキドザエルが深く頭を下げた。驚くユリアは「申し訳ございません。ヨハネス様の名前を出せば、ユリア様は付いて来て下さると考え嘘を言いました」と謝罪を受けた。



「嘘って一体……」



 その時——光る球形がユリアの前に現れた。


 


 


「私だ、ユリア」



 腰にヨハネスが引っ付いているのを引き剥がしたい気持ちを抑え、キドザエルを使ってユリアを誘き出したネルヴァは単刀直入に切り出した。



「ユリア、少し前に天使見習いや子供が行方不明になっている件を知ってる?」

『っ』



 息を呑む音が球形を通してハッキリと伝わった。



「知ってるなら話が早い。あの二人が関わってるね?」

『それは……だ、大体、どうしてネルヴァ様がそれを……』

「アンドリューが現状を君に話してないのは察していた。簡単に言うと……」


 


「あ」

「うん? どうしたの、ジューリア」



 行方不明の件をネルヴァが説明する最中、ヴィルに抱っこをされたままのジューリアが不意に声を漏らした。ヴィルに下ろしてもらうと「あれ」とジューリアが指差した。襤褸を纏い、顔を隠している人物は背を丸めて歩いていてかなり浮いている。周りの人々は好奇の視線を向け、意地の悪い者は足を引っかけて転ばせて笑いを取った。



「うわっ、最悪」

「あれがどうした……ああ、そういうこと」



 顔を見られないたくないのか、慌てて逃げ出した相手を見ていたヴィルは「あれ、ジューリアの元侍女だね」と納得。



「うん。ケイティがセレーネが何処にいるか貧民街に行ったんだけどこっちにいたんだ」

「どうする?」

「後を追いたいけど……」



 チラリと青緑の瞳をユリアと会話を続けるネルヴァにやったジューリア。セレーネも気になるがこっちも気になる。どちらを取るか選択肢が浮かんだ際、ヴィルの「兄者に後で聞けば?」という回答でセレーネを選んだ。



「一緒に行こう? ヴィル」

「ああ。ジューリア一人を行かせられないよ」

「うん」



 差し出されたヴィルの手を引っ張り、姿が見えなくなる前にとセレーネの後を追い掛けた。


 中央通りの奥を進んで行くと人が少なくなり、更に進めば建物も段々と古くなっていく。ずっと後を追って入れば、ゴミが地面に散乱し、セレーネと思しき人が纏っているのと同じ襤褸を纏った人が何人も地面に座り込んでいる。手足は栄養を摂っていないせいでほっそりとし、中には子供までいる。



「ケイティの言ってた貧民街って此処のこと……?」

「ジューリア、おいで」

「わっ」



 有無を言う前にヴィルに抱っこをされたジューリア。一瞬、光の膜が見えた気がした。



「俺達が見えない結界を貼った。これなら、何処へでも歩ける」



 明らかに貴族の子供の身形をしたジューリアと貴族じゃなくても人外の美貌を持つヴィルがいると浮いて目立つ。余計な輩を引き寄せない為の自衛である。



「ジューリアの侍女は一人で来て平気なのかな?」

「ケイティは、自分ならバレずに入れるって言ってたよ」



 万が一が起きれば魔法でどうにかすると言っていたのだ、大丈夫だと信じたい。



「セレーネは何処に行ったの……」



 老朽化が進み、荒れた建物の一つに足を踏み入れてみた。簡素なテーブルや椅子、ボロボロのベッドマットに薄い布を被せたベッドが置いて有り誰かが住んでいると推測。ヴィルに下ろしてもらった直後、目的の人であるセレーネがやって来た。ぶつからないよう慌てて横に逃げるとセレーネの他にもう一人入ってきた。



「待ってください! セレーネ!」



 ジューリアの現侍女ケイティだった。


 



 


読んでいただきありがとうございます。



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