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まあ、いいか【連載版】  作者:
元神による悪魔狩と天使喰らい
114/133

ジューリアにとって

 


「はあ」



 ミカエルの吐いた大きな溜め息が広い室内に響いた。机の上に山の如く積まれた書類の量に頭が痛くなる。ヨハネスが天界から逃げ出し、神の代理の座に就いたアンドリューの暴走が多数の天使と智天使カマエルを殺してしまった。半分以上ヨハネスが原因とは言え、アンドリューが強引に悪魔狩りの再追試を決定してしまった。人間界で蓄積された汚れを落とすには天界に帰還するしか方法は無く、悪魔との戦いでも汚れは付着してしまう。



「ミカエル」



 カマエルや他の天使達の死は、少し前に処刑された高位魔族の思念がカマエルの身体を乗っ取り、それを人間界にいるネルヴァ達が処理した為。更に魔王の補佐官リゼル=ベルンシュタインまでもが人間界へ降りた。魔王は魔界に帰還したと聞いたので入れ替わりとなった。

 ミカエルの部屋を訪れたのはネルヴァに情報提供をしている主天使。椅子から立ち上がりかけたミカエルを手で制し、彼を見張っている天使に振り向いた。



「ミカエルは私の茶飲み仲間なんだ。少し席を外してくれるかな?」

「はっ! しかし、アンドリュー様から……」

「アンドリュー様には私から言っておく。お前もずっと見張っていては気が滅入るだろう。私が誤魔化しておくから、少し休憩してくるといい」

「ありがとうございます」



 見張りは主天使に何の疑問も抱かず、敬礼をするなり部屋を出て行った。



「ありがとうございます……お陰で空気が軽くなりました」

「仕方ないさ。事が事だ」



 主天使とミカエルは部屋の真ん中へ移動し、ソファーに座ると主天使は持って来たマグカップをミカエルに手渡した。



「疲れを癒す効果のあるハーブティーを淹れた」

「有り難くいただきます」



 口に広がるハーブの香りと味が疲労が溜まったミカエルの身体にじわりと広がり、久方ぶりの癒しに深い息を吐いた。



「ネルヴァ様からつい先程連絡が入った」

「どのような?」

「……ミカエル。事態は、我々が思っている以上に深刻だ」



 只ならない空気を悟ったミカエルは、主天使がネルヴァに知らされた話を聞き戦慄した。

 二代前の神……ヨハネスの祖父母にあたる神族の二人が『異邦人』特有の純粋な魂を持つジューリアを狙っていると判明した。

 皇族が代々管理するブルーダイヤモンドやフローラリア家が保持する“浄化の輝石”から祝福が盗まれていると判明し、犯人は二代前の神であるとネルヴァやヴィルは確信。早々に対処をしなければならず、主天使がネルヴァに命じられたのは二代前の神が天界を出奔するまでの過程を知ること。神族で頼める者はおらず、主天使にしか連絡を送れない現状頼れるのは彼しかいない。



「アンドリュー様には、決して気取られぬようにというお達しだ。ミカエル、少し手伝ってくれるか」

「私で良ければよろこんで」



 ジューリアの側にはネルヴァや鬼畜補佐官がいる。ヴィルが子供の姿でいようと強い力を持つ者が二人もいれば取り敢えずは安心だ。リゼル=ベルンシュタインに関しては、恐らくネルヴァが無理矢理巻き込むのである意味で味方になる筈。



「あのお二方がジューリアを狙うのはネルヴァ様への復讐ですか?」

「ネルヴァ様はそう仰っていた」



 嘗て、幼いヴィルに虐待に近い教育を施し、熾天使ガブリエルに命じ大怪我を負わせた抑々の元凶。ネルヴァによって瀕死の重傷を負わされた挙句、力の大半を奪われた。ネルヴァが神の座に就いていた頃はほぼ幽閉状態に近く、ヨハネスが生まれると孫を大切にする祖父母となったのでネルヴァもヴィルも二人を危険視しなかった。



「ヨハネス様がお二方の行方についてネルヴァ様やヴィル様に訊ねられた際は重要視しなかった。まさか、人間界に逃げ込んでいたとは誰も思わんだろう」

「先々代方の居場所の見当は?」

「現在調査中とのことだ。天界で手掛かりを掴めれば良いが……」

「ふむ……」



 天使が主たる神族を調べる等前代未聞。アンドリューに見つかればどうなるか……。


 


 


 ——人間界では。カフェで今後について難しい表情で話すネルヴァとヴィル。情報を提供する主天使に二代前の神がジューリアを狙っている件について連絡を送った後、ネルヴァはパンケーキを十枚頼み半分を食べたヨハネスへ向いた。



「ヨハネス。お前が最後にあの二人を見たのは?」

「覚えてないよ。気が付いたら、じいちゃんもばあちゃんもいなくなってたんだ」

「だとすると認識阻害の力を使ったか……」



 ジューリアは自身が頼んだケーキを食べ終え、飲み物も尽きていた。新しく注文をするか、また今度にするか悩んでいて、ふとヴィルに話し掛けた。



「甥っ子さんのお父さんも気付いてなかったのかな?」

「どうだろう。眼鏡は兄者に力を奪われたジジババを居ない者として扱ってたから、いなくなろうと探そうとはしなかっただろうね」

「なんで?」

「兄者やヨハネスより、自分の方が神になる意欲が強いとジジババに直談判して、罵倒されまくってそれ以降はジジババに何が起きようが見て見ぬふりしてた」



 その何かとはヴィルは話さず。ネルヴァも然り。

 やっぱり新しい飲み物が欲しくなったジューリアは、空いた皿を回収しに来た給仕に「レモン水をください」と注文した。

 ヨハネスの教育に関してアンドリューは前世の言葉で毒親に匹敵する。

 しかし、ヴィル達の両親はアンドリューを上回る毒親な気がしてならない。

 生まれながらに弱い神力しか持たず、どれだけ知識を得ようと力がないなら無意味と突き付けられたアンドリューの気持ちをジューリアは解してしまう。


 


 


 大教会に戻ったジューリアとヴィル、ヨハネスは正面出入口付近が騒がしいことに足を止めた。



「どうしたんだろう」

「もう、ぼく眠いのに」

「あれだけ食べてればね」



 パンケーキを十枚食した後、追加で五枚注文し完食したヨハネスの食いっぷりにリゼルが引いていたのが印象深い。笑いを堪え、リゼルを揶揄うネルヴァは鬱陶しそうに睨まれていた。



「あれって……」

「どうしたのヴィル」



 ぽつりと零したヴィルに「あそこ」と指を指され、ジューリアと釣られてヨハネスもそこを見た。襤褸を纏った女性がセネカに抑えられていた。女性が手を伸ばす先にはケイティがいる。



「ケイティとセネカさんを助けないと!」

「その前に、あの女に見覚えがあるんじゃない? ジューリア」

「へ」



 ヴィルに言われ、ジューリアは襤褸を纏った女性を見つめた。



「……あ!」



 身形が大分変わってしまい、初見では気付けなかったが騒ぐ女性はセレーネだった。

 今朝、ケイティにセレーネの話を聞いたばかりだったのに、こんなにも早く会うとジューリアは思いもしなかった。



「知ってるの?」とヨハネスに問われ、以前自分の専属侍女をしていた女性だと話した。

「今は解雇されて、実家も勘当されたとかで苦しい生活を送ってるとは聞いてた」



 セレーネが二日前大教会に現れた話をケイティから今朝聞いたことを話し、改めてセレーネへ視線をやった。



「また現れたってことは、目的は私で間違いなさそう……」

「どうする? 追い払おうか?」

「追い払ったってまたすぐに来るよ。それなら、私が直接会ってセレーネが言いたいことを言わせて満足してもらえば……」

「満足なんてしないよ。ジューリアにもう一度フローラリア家で働けるようしてもらうのが目的のようだから」



 人間の心の声を聞けるヴィルが言うのなら多分事実。呆れて言葉が出ないとはこういう時に出る。



「嘘……私のことを散々フローラリア家の無能とか言ってたくせに。平民出身なら、平民のお店で我慢して働けば良かったのに」



 ケイティ曰く、金遣いが荒かったと聞く。フローラリア家で侍女をしていた時の金銭感覚でいたのなら、平民の店で働いて貰える賃金は知れている。



「はあ……」

「此処はジューリアの侍女や神官に任せて裏口を回って戻ろう」

「ねえヴィル」

「なに」

「こうなったのも、結局ヴィル達のご両親が原因なのかな」



 セレーネや家庭教師をしていたミリアムを始め、屋敷の使用人達がジューリアを下に見ていたのは、当主たるシメオンやマリアージュがジューリアを無能の娘と嫌っていたせい。

 その二人がジューリアを嫌っていた原因は二代前の神による仕業。


 直接的な原因はなくても関わっている。



「似たようなものだね」

「まあ、いいけどね。どっちみち、公爵様は本心から私を無能扱いした訳だし、やっぱ同情する価値なし」



 ヴィルの提案通り、ジューリアは裏口を回る道を選んだ。



「……」



 遠目からしでしか見えないがセレーネは明らかケイティに何かを喚いている。

 長年されてきた仕打ちを考えると——助ける、という選択肢がジューリアには浮かばなかった。




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― 新着の感想 ―
ヨハネスの環境を正確に把握しないで甘やかされてると思ってきたミカエルの孫を大切にしてた祖父母認識、当てにならなさそう。 実際力の大半を奪われてるのにヨハネスに認識阻害かけてるようだし。最後に会った時に…
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