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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
109/134

無意識な傲慢

 



 意識を失ったカマエルの頭に触れたネルヴァは「ふむ」と零した。



「魔族の気配はまだある……ということは、下手に起こしてもアメティスタ家の当主が出るだけだから……」

「どうするの?」



 ジューリアが興味津々とばかりに訊ねるとカマエルの頭から手を離し、左手の平を上に向け人差し指の第一関節を曲げた。指の動きに呼応してカマエルの身体が宙に浮かせられる。



「堕天使になった天使を元に戻す方法はない。人間達を助けた後始末する予定だったんだけど……」

「ヴィルの兄者でも?」

「私でもさ。一度堕天すれば、神族であろうと元に戻せない。仮令神の座にいた私でもね」



「ジューリア」と呼ぶのはヴィル。こっちと手招きをされ、ネルヴァからヴィルの側に移動した。



「ヨハネスの様子を見に行くけどジューリアも来る?」

「うん。神官様やケイティは気になるけど、ヴィルの兄者ならどうにかしてくれそうだもん。甥っ子さん、宿にいてくれてるかな」

「いると思う」



 感覚でヨハネスは自身の身の危険を察知し、外に出ないとビアンカに告げたのだ。ヴィルかネルヴァが戻るまで意地でも外には出ないだろう。



「ビアンカさんも戻りますか?」

「そうね。どうせ此処にいてもやる事はないもの。それに……」



 瞼を微かに伏せ、意識がなくネルヴァに色々とされているカマエルを見やる。

「……お父様とはもう話せないでしょう?」とヴィルに問うたビアンカ。



「異空間に閉じ込められた人間達を助け次第、兄者はカマエルを消す。君の父親の思念も同時に消える。話したい事があるなら、兄者に言えば良いさ」

「しないわ。……意識を取り戻したお父様と話したところで、お父様はきっとお嬢さんを殺して魔力を奪えと言ってくるわ」



 ジューリアと出会っていなくても強大な魔力を得る為に鼓動を打つ心臓を食らう気にはなれなかったとビアンカは恐ろし気に、それでいて落ち込んだ風に否定した。魔王の妃を夢見ていたビアンカにとって強大な魔力を得るのは必要だったかもしれない。家族が存命中差し出されれば、別の方法を要求していた。



「はあ」

「じゃあ、宿に戻ろうビアンカさん。ヴィルも」



 声を掛けたヴィルの手を握り、ビアンカを促しジューリアは歩き始めた。





 ——父リゼルに寄り添うリシェルは「行かないのか?」と言われ、ネルヴァを見ながら頷いた。



「ネロさんが異空間に閉じ込められている人達を助けたら私も戻る。パパはどうするの?」

「ああ……そうだな。エルネストが魔界に戻ったなら、おれがいなくても魔界は回る。あいつがいなかった分の休暇でも貰おうか」



 この場にエルネストがいれば涙目になって期間の短縮を願い出ただろう。宙に浮かせたカマエルの前に立ち、考え事をしているネルヴァに話し掛けようとリシェルが口を開いた時。突如カマエルの身体が光を帯び、小刻みに震え始めた。宿るアメティスタ家の当主が意識を戻したのかと身構えるも「違うよ」と、ネルヴァは内側から強制的に操って異空間を開こうとしているのだと説明。意識の深層部分を探り、既にカマエルの意思はなく、アメティスタ家の当主が眠ってしまっていると分かり、強引な方法に出たのだ。



「特別な権限を与えられた智天使だったんだろう? 死ねば天界にとって大きな痛手になるぞ」

「なるねえ。というか、以前私が多数の天使達に神罰を下したから、ぶっちゃけるとその時から天使不足にはなってる。加えて、天界に戻れない状況で悪魔狩りの再追試を行うものだから、堕天使になる天使は今後も増えていく」



 強制的に堕天使にさせられた多数の天使をネルヴァが消したとは言え、まだまだ堕天使は増えていく。



「神力を完全には戻せていないとは言え、ヴィルを元の姿に戻した。ただなあ……」

「ネロさん?」



 悩むネルヴァ曰く、二代前の神がジューリアの魂を狙っていると判明した以上、ヨハネスを連れて天界に戻ることに躊躇があるのだと言う。



「私やヴィル、ヨハネスがいることを向こうだって恐らく気付いている筈だ。私達が一度天界に戻ったタイミングでお嬢さんの魂を奪う算段を立てているとすれば、下手に動けないのだよねえ」

「ねえ……ネロさん」

「どうしたの」

「もしも、ネロさんのご両親がジューリアさんのご両親に術を掛けていなかったら、ジューリアさんは幸せな生活を送れていたのかな」

「お嬢さんに聞いてみるといい」



 ジューリアなら包み隠さず話してくれる。そしてこう言う。



『公爵様の“お前は娘じゃない”発言は、ヴィル達の両親の術のせいでも何でもない。本心から出た言葉。一切許す気はありません!』と。

 容易に浮かぶジューリアの拒絶の言葉にリシェルは落ち込み何も言わなくなった。



「リゼ君人間界に残るって? なら、エル君が滞在していた宿に泊まる? 長期滞在のつもりで料金は前払いで多目に払ってるって言ってたから、滞在者が君に代わっても問題ないだろう」

「アメティスタの娘がいるだろう」

「接触しなければ良いじゃないか。彼女だって、自分から君に接触しようだなんて思わないよ」



 軽口を叩きながら作業を進めているネルヴァは視線をリゼルからカマエルへ移した。深層意識の占領は完了し、次は強制的に異空間を開かせる作業に入る。


 


 


 ヨハネスが待っている宿に戻る為、東の草原からヴィルの力で街へ入ったジューリア達は先に大教会へ足を向けた。初めカマエルが掛けた結界が解き、異常事態に気付き始めた人々が集まり出し、戦いの場を変えた訳だが。建物の破壊具合から絶対に大きな騒ぎになっているとジューリアは恐る恐ると言った風に近付いて行った。

 視界に映った光景が予想していたものと大きく違って青緑の瞳が瞬きを何度も繰り返す。



「あれ……直ってる?」



 ネルヴァやカマエルの戦いによって破壊された大教会の建物が元通りになっており、神官達はいないのに参拝者は列を成し、周辺には観光客で賑わっていた。混乱するジューリアの視線の先に、長椅子に寝転がる銀髪が映る。ヴィルの手を離れ近付くと——ヨハネスが寝ていた。



「ヴィル。甥っ子さんだよ」

「ヴィル……? ふあ……叔父さん戻ったの……?」



 ジューリアの声でヨハネスは目を覚ました。上体を起こし、大きな欠伸をした。



「ヨハネス」

「ヴィルおじ……ん? 目が合わない…………あれ!? 元に戻ってる!? なんで!?」



 視線を下にしていたヨハネスは大人の姿に戻ったヴィルに気付くと眠そうな顔を一転させ、周章した様子で動いてしまい、長椅子から落ちてしまった。



「痛たた……」

「なにしてんの」

「だ、だって、お、大きくなってるじゃん!」

「兄者がした。とは言っても、神力は完全には戻ってない。よくて半分くらい」

「そ、そう、なんだ。……え? 待って、ヴィル叔父さんが戻ったってことは、ぼ、ぼく、天界に……」



 無理矢理連れ戻されると想像し、青褪めた表情で立ち上がったと思えばジューリアを盾にして情けない声で帰りたくないと泣くヨハネス。呆れが盛大に込められた大きな溜め息を吐いたヴィルは銀色の頭に拳骨を落としてジューリアから引き剥がした。



「状況が変わったんだ。天界に戻るのはその後だ」

「っ〜! いったああ……! か、変わったって、何が」

「お前、前に聞いてきただろう。ジジババが何処にいるか知らないかって」

「う、うん」

「そのジジババがジューリアを狙ってる」

「なんで」



 推測であってもほぼ当たっているであろう理由をヴィルに聞かされたヨハネスはどうでも良さげに「ふーん」とだけ漏らし、連れ戻される心配がないと分かると長椅子に座り直した。



「じいちゃんやばあちゃんがね……。力ってそんなに欲しいもの?」

「さあ。ところで、大教会の建物の修復や人間達の意識を逸らしているのはお前の力?」

「うん。あんまりにも叔父さん達が戻って来ないから、様子を見に来たんだ。そうしたら建物は破壊されてるわ、人間達は混乱してるわで騒々しかったんだ」



 生まれた時から恵まれた力を持つヨハネスの手にかかれば、建物の修復も人間達の意識を逸らすことも簡単に可能で。大した力を使わずともできると言ってのけたヨハネスに疲れはない。


 不意にジューリアがこれをアンドリューでも出来るかと訊くとヴィル、ヨハネス二人揃って否定した。



「眼鏡には無理」

「父さんだと片方ずつしか出来ないと思うよ」

「そっか……」



 膨大な魔力を持っていても扱う術がなかったジューリアはこの時だけアンドリューの劣等感を何となく解してしまった。



 


読んでいただきありがとうございます。



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