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まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
108/134

元の姿に

 



 魔族が魔力を得る方法を聞いてドン引きしていれば、突然大きな物体がリゼル目掛けて飛んで来た。ひらりとリゼルが避けたことで物体は浮遊力を無くし、地面を巻き込みながら遠くへ行ってしまう。驚く前に「あー疲れた」と全然疲れていない声がすぐ近くで発せられ、リゼルの側を見やればいつの間にかネルヴァが立っていた。無傷で衣服に汚れすらない。



「兄者」

「やあヴィル。リゼ君を呼んで正解だったろう」

「兄者が呼んだんだ」

「堕天使となったカマエルを相手にヴィル達の方まで手が回らないからね。エル君は呼び戻されて魔界へ行ったなら、次はリゼ君がおいでって伝えたんだ」



 態々リゼルを呼ばずともまた魔王を呼べば十分に済んでいた。ジューリアやヴィルからするとリゼルが呼び出されて正解だった。

 遠くへ飛ばされたカマエルが襲い掛かる気配が一向にない。



「殺したの?」とヴィル。

「殺してない。異空間に閉じ込められた人間達を助けてないからね」



 意思をアメティスタ家の当主に乗っ取られているが、意識させ奪えば後はネルヴァが神力を使って無理矢理カマエルから情報を引き出すだけ。そうしなかったのは、リゼルが来ているところに合流したかっただけと語る。はあ、と溜め息を吐いたのはヴィル。「兄者」と呼ばれたネルヴァは、今し方リゼルから聞かされた話をヴィルに教えられ、盛大に呆れ果てた。



「そうだったのか……」

「俺も予想すらしなかった。ヨハネスがジジババの姿を見ていないと聞いた時点でもう少し疑うべきだったんだ」

「私もヨハネスから聞いてはいたが、大人しくしている分なら放置一択だと気にしなかったんだ。まさか、人間界に来ていたとは」



 更に『異邦人』特有の魂を持つジューリアを狙っている始末。神の座に就いていた神族だろうと規則を破れば、待ち受けるのは処罰。人間の魂食らいは発覚すれば即重罪決定だ。

 魔力判定の儀以降両親から見捨てられ、周囲にも見捨てられた理由が身内にあったと知り、ネルヴァは膝を折りジューリアと目線を合わせた。



「気付かなかったとは言え、私達の身内がとんでもない事を君にしていたようだ。代わりに謝るよ」

「気にしてませんよ。ヴィルに最初、術を掛けられているって聞いた時も言ったけど、公爵様が私をお前は家族じゃないと言った台詞は、術の影響もあったかもしれないけど本心から来てる言葉だった」



 前世、伊達に父や兄達から冷遇され、虐められていない。人間が本心から口にする言葉の声色や表情をジューリアは嫌と言うくらい知っている。



「お詫びと言ってはなんだが私で叶えられるお嬢さんのお願いを聞こうと思う。何かない?」

「いきなり言われても……」



 物欲が少なく、叶えてほしい願いは既にヴィルが叶えてくれた。後はジューリア自身の努力によってどうにかしないとならない。焦らず、と言い掛けたネルヴァに待ったを掛けたジューリアはヴィルに向いた。



「ヴィルの兄者でも、ヴィルを元の姿に戻せない?」

「無理」



 即答された。

 しかし。



「うーん……完全には無理でも案外……」



 腕を伸ばしたネルヴァに抱っこをされてしまい、相当嫌そうに顔を顰めたヴィルは凝視してくるネルヴァの顔を殴ろうと腕を上げ、させまいとネルヴァに身体を反転させられ後ろから抱っこをされる羽目に。

 頭に顎を乗せられ、重い、と毒を吐いてもネルヴァは退いてくれない。



「兄者」

「あー……そうかそうか……」

「いい加減降ろせ」

「ちょっと待っててヴィル。今ヨハネスに掛けられた封印を解いてあげてるから」



 ヴィルは無理だと即答したが、実際は可能なのだ、と期待に満ちた眼でネルヴァを見上げるジューリア。



「面倒くさいパズルを解いている気分だ。よくもまあ律儀に解除していったね」

「一気に解除したくても、子供姿の神力だと全然足りないんだ」

「知ってる知ってる。……あ、そろそろ……」



 半眼になりながらも大人しくネルヴァに封印を解除されるヴィル。「小さいヴィルともっと触れ合いたいところだけど、あの二人が関わっていると知った以上、子供姿だと不便だろうからねえ」と上機嫌にネルヴァは歌うように紡ぐ。



 封印の解除を始めて小半刻が経過。「これで半分かな」とネルヴァが口にした直後、抱っこをしているヴィルの全身が眩しい光を放つ。カマエルは現在も起きず、退屈になって草の上に座ってビアンカに魔力操作の練習を見てもらっていたジューリアが反応した。地面に下ろされたヴィルから光が消えると——違いは一目瞭然。ジューリアと同じ歳くらいの子供姿から、最初に出会った時の大人の姿に戻った。

 怠そうなのに色気溢れる危険な美貌。「ヴィルー!」と腰に飛び付くと難なく抱き留めて、今度はジューリアが抱っこをされる側になった。



「最初に会った時と同じだー!」

「元に戻ったからね。神力の方は、完全に戻れてないけど」


 声も元の低い声に戻った。

 初めネルヴァが言っていた通りだ。



「ああ……小さいヴィルともっといたかった……」



 ヴィルを元に戻した張本人は個人的理由で落ち込んでおり、リゼルの肩を掴んで離さない。鬱陶しいと顔に出ているリゼルが片足を上げかけて漸く離れた。



「半分以上は戻ったし、ジジババがジューリアに手を出してもどうにかはなる」

「そっか。あ、でも」

「うん?」

「ヴィルは子供の姿になっちゃったからって設定で大教会に滞在してるでしょう? 元の姿に戻ったら使えなくなるんじゃ……」

「神力は完全に戻っていないから、これを理由にする。人間達だって、俺達がいた方が通常より多くの祝福を得られるんだ、嫌じゃないでしょう」

「そうかも」



 食事を多く作ってだのと我儘を言うのはヨハネスだけでヴィルは受け身。お世話のしやすさで言うとヴィルが断トツだ。

 思ったより早く元の姿に戻れたヴィルと一緒にいられるとは思わなかったジューリアは、抱っこをしてくれているヴィルに強く抱き着いたのだった。



「ヴィルが一番!」

「うん」




読んでいただきありがとうございます。


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