表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まあ、いいか【連載版】  作者:
悪魔狩、再追試
101/133

堕天使②

 



 リゼルから送られた緊急事態の報せを受け、智天使をネルヴァに任せた魔王エルネストは早々に魔界に帰還した。突然の魔王の帰還に周囲の驚きは小さく、寧ろ安堵が大きい。人間界と魔界を行き来する魔族の管理者達は挙ってエルネストに駆け寄った。



「魔王陛下! よくお戻りに」

「人間界にいる魔族達は皆戻ったのかな?」

「まだ把握しきれておりませんが大多数は戻ったかと」

「そうか。リゼルくんは魔王城かな?」

「恐らく。上空にいた天使を始末するとすぐに戻られました」

「分かった」



 居場所を教えてくれた管理者の一人に礼を言うと早足で魔王城に戻り、リゼルがいるであろう彼の執務室に入った。



「リゼルくん」

「戻ったか」



 予想通りリゼルはいた。執務机は整理整頓がされゴミ一つもなく、綺麗な状態が保たれている。エルネストが長期間留守にしてもリゼルがいれば問題がないと安心するのは仕事の速さを知っているからだ。



「リゼルくん、緊急事態だって聞いたけど」

「ああ。実は——」



 訳をリゼルが説明しだした直後、建物内にいても聞こえる鍵を閉める大きな音が鳴った。二人が窓へ近付き、エルネストはしまったと言わんばかりに額を手で覆った。



「鍵を閉めちゃ駄目って言うのを忘れてた……」

「悪魔狩りの再追試が開始されたんだ。魔界の門を閉めるのは妥当だろうな」

「まだ戻っていない魔族がいるかもしれないのに」

「今回に限ってはあまり心配しなくてもいいだろう」



 天界側は現神たるヨハネスが逃げ出した際、天界への扉を閉めてしまった為、多数の天使達が天界に戻れない事態となっている。ヨハネスを捕らえるついでに悪魔狩りの再追試を行ったのはいいものの、天使は基本汚れに弱い。一定量以上の汚れを纏った場合は一旦天界に戻って身を清め、再び人間界や魔界へ飛ぶ。

 悪魔狩りの再追試に臨む天使達は天界へ戻れず、汚れを溜めている者が多い。



「堕天する天使が続出し、再追試どころではなくなるだろう」

「そうなると悪魔に構っていられなくなるね。リシェルちゃん達の側には、ネルヴァくんがいるから大丈夫って思おう」



 それより緊急事態とは何なのかと改めてリゼルに訊ねたエルネスト。「ああ」と発したリゼルは執務机に戻り、細長い引出しから一枚の書類をエルネストに手渡した。

 渡された書類に目を通すエルネストの瞳が次第に開かれていく。



「これは……」

「墓守から届いた報告書だ」

「リゼルくんへの恨みだけでこうなるなんて」

「まあ、ネルヴァがいるなら不安にならずともいい」



 高位魔族、特に貴族は亡くなった身内を自領にて埋葬する。呪いや感染症で亡くなった場合は二次感染を恐れ火葬する時もある。墓守は処刑、獄中死した罪人の遺体の墓を管理し、今回リゼルに緊急の報告書を送った墓守によると以前リゼルが魔法攻撃無しで公開処刑したアメティスタ家の当主がリゼルへの憎しみを糧に思念となって蘇ったというもの。

 今迄にも同じ例はあったらしいが殆どは墓守が処理をして終わり。……なのだがアメティスタ家の当主だけはそうならなかった。元は高位魔族にして公爵家の当主。なまじ魔力が強かったばかりに墓守では対処出来なかった。



「アメティスタ家の当主は墓守を襲った後人間界へ消えた。目的は恐らく……」

「ビアンカに、会いに行ったのかな……」



 処刑する前に、ビアンカだけは嘗て自分達がリシェルを売り飛ばす先に決めていた加虐趣味な魔族に売り飛ばす旨だけは伝えた。

「違う」とリゼルは否定した。



「お前の言っていた魔法の使えない魔力だけが異様に強い人間の娘のところだ」

「……ああ……そういうことか……」



 生前からジューリアの魔力を狙っていたアメティスタ家当主が何を思って人間界へ行ったか、リゼルの言葉でエルネストは察したのだった。


 



 


 人間界側では、ネルヴァに外へ出してもらったジューリアとヴィル、リシェルの三人は一旦魔王が滞在している宿へ向かうこととなった。大教会の外へ出て出発、という時にビアンカと出会う。



「あ、ビアンカさん」



 息を切らし、似合わない汗を流している様子から只事ではないと判断。滞在先で何かあったのかと訊くと魔界から送られたリゼルの通信蝶を魔王に託しに来たのだと聞かされる。



「魔王陛下はまだこの中に?」

「補佐官さんからの連絡を受け取ったら、結界の外に出てすぐに魔界へ帰ったって聞きました」

「そ、そう。なら……いいわ」



 疲れを滲ませた息を吐いたビアンカはジッとジューリアを見つめる。カマエルや天使と遭遇したせいで服か顔に汚れでも付いているのかと身嗜みを整えようとするも、此処に鏡はないから自身の目に見える範囲でしか出来ない。恐る恐るビアンカに凝視してくる理由を訊いてみると……驚愕の言葉を放たれた。



「……リゼル様が魔王陛下に送られた通信蝶に、わたくしの父が思念となって蘇り人間界へ逃げたとあったわ」

「え? ど、どういうことですか」



 獄中死や処刑で死んだ罪人の中には、この世の未練が強いと稀に思念だけとなり現世に蘇る場合がある。殆どは墓守が処理をして外へは行かないのだが、今回は相手が悪かった。高位魔族にして公爵家当主の思念を墓守は止められなかった。

「人間界へってことは……ビアンカ様を探して……?」とリシェル。



「わたくしは魔族に売り飛ばされたのよ? わたくしを探すのなら人間界へは来ない」



 ビアンカの紫水量の瞳が真っ直ぐジューリアに注がれ、目的はジューリアの可能性が高いと言った。生前からジューリアの魔力に目を付けていたのなら、リゼルへの復讐を果たすべくジューリアを狙うのは何らおかしくない。



「嘘……」

「カマエルは兄者に任せていいとして……高位魔族の思念か。かなり厄介だな。こっちも兄者に押し付けるか」

「い、いいのかな」

「ジューリアが宿に戻るのはなし。おれともう一度大教会に戻ろう」



 危険はあれどもしも思念が現れた場合、子供姿のヴィルでは戦えない。ネルヴァの側が一番安全と言っていい。

 リシェルを見上げたジューリアは、先に宿に戻っていてほしいと告げた。……が、一緒に大教会に戻ると断られてしまった。



「も、もしも、アメティスタ家の当主がジューリアさんの前に現れたら私がなんとかします」

「不安しかない……!」

「う……じ……自信はないけど、パパに教わった魔法を使えばどうにかなるよ……きっと……」



 声や言葉に自信が無さ過ぎてジューリアは再度同じ気持ちを述べた。折角大教会の外へ出してもらったというのに、逆戻りになってしまう状況に肩を落としたジューリアは複雑な眼で見てくるビアンカへ振り向いた。



「ありがとうございますビアンカさん。ビアンカさんはすぐに宿に戻ってくださいね」

「……わたくしも行くわ」

「へ」



 まさかのビアンカも同行の宣言。一驚するジューリアと違い、ヴィルは面倒くさそうにしつつ若干険しい。



「言っとくけど自分の身は自分で守れよ。おれはジューリアだけで手一杯」

「ふん。誰も神族の手を借りたいなんて一言も言ってないでしょう。言われなくても、自分の身は自分で守るわ」

「ビアンカさん、大教会より宿にいた方が……」

「……わたくしの勝手でしょう。それに……思念と言えどお父様に変わりないなら、どうしても聞きたいことがある」



 俯き、暗くなった紫色の瞳から読めるのは強い疑念と不安。生前ジューリアを狙っていた理由が魔力に目を付けてだが、ビアンカの為に狙っていたのか知りたいのだと思う。危険を承知で行くならジューリアはもう何も言わない。



「ヴィル。行こう」

「分かった、行くよ」



 結界に手を触れ、神力の波を見極めたタイミングでヴィルが神力を込めた直後。

 硝子の割れる音が響く。ヴィルが触れた結界は砕け、欠片は光の粒子となって消えていく。呆然としていれば、結界によって変わっていた景色が元通りになっていった。ネルヴァとカマエルの衝突で建物に被害が及んでいたと言えど、外に出る前より損壊が酷い。

 音と気配、二つとも感じさせず登場したネルヴァにヴィル以外驚き、面倒くさそうに顔を顰めているネルヴァからは嫌な予感しか感じない。



「兄者、結界を破った?」

「私じゃない。かと言って、カマエルでもない」



 気絶したカマエルを叩き起こそうとした直後、黒い靄が出現しカマエルを連れ去った挙句、結界を破ってしまった。

「それってまさか……」とジューリアがつい先程知った心当たりを出せば、ネルヴァの麗しい面は険しさを纏う。





読んでいただきありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ