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お…お兄さまであらせられますかっ!

「んー………ふう。あー気持ちいい」

この山の神様、山神白は神社の境内でひなたぼっこをしていた。

「もうすっかり春ねー………」

白はくるっと回って山の木々を見回した。すると視界の片隅に、階段を上ってくる人物が映った。

「あら、お客さんなんて珍しい。しかも若い男」

白は顔が少しにやけた。まあ、これは山の神様の特性上仕方のないことなのだが。

階段を上ってきた男に、白は妙な感覚を覚えた。何か、知っているような感覚を………。


「あの〜、ここに御社代はいますか?」

男はそう聞いてきた。よく分からなかったが、背は白よりも高い。多分代よりも高いのだろう。手には紙切れを持っていた。たぶん、ここまでの道でもメモしてあるのだろう。

「あの〜」

「あっ、はい。何でしょうか?」

「御社代はここにいますか?」

代の知り合いなのだろうか?しかし、何かこう……言葉では言い表せない雰囲気がある。

「ええ………。たぶん、中にいると思いますけど……」

そんなわけで、白は男を神社にあげたのだった。



「オゥ、マイプリティーシスター!!」

男は代を見つけたとたんガバッと抱きついた。

「うわっ!!!」

急な事態に少々戸惑う代。

「えっ!」

白も小さく叫んでしまった。

「お……お兄ちゃん?」

代は恐る恐る聞いてみた。すると、男は代から離れ、こう一言

「久しぶり」



代は、とりあえず兄を座らせ、お茶を出した。こたつには代の兄と白が向かい合うように座っている。

少し落ち着いてから、代は兄を

「この人は、私の実の兄で、要っていうの」

と、白に軽く紹介した。

「ほ〜……みやしろのかなめか」

白は何だか感動しているようだ。

「………で、聞きそびれたんだけど何の用でここに?」

代は少し首をかしげた。

すると要は驚いた表情で

「そりゃ、行方不明になった妹を心配するのは兄として当然だろ」

と返してきた。

「え?なに?私は行方不明扱いになってんの?」

代も驚く。

「ああ。父さんと母さんが失踪する一日前に」

「へー………。そりゃ大変だぁ。でもどうしてここだって分かったの?」   「ん?俺の彼女に教えてもらった」

要は少し胸を張った。

「ええ!?お兄ちゃんに彼女が!?あの『顔とかスタイルとかは最高なんだけど挙動不審なのが残念』って言われて二十年のお兄ちゃんに彼女が!?」

驚愕事実に代は固まった。

「代………お前兄だからってそこまで言う必要ないだろ……。ってか、そんなこと言われてたとは………」

一気に要のテンションが落ちた。話が切れたのを察知した途端、白が気になることを言った。

「あのさ、何で要さんの彼女はここに代がいるって知ってたの?」

「あー……なんか、妹の友達から聞いたとか言ってたよ」

要は顎に手を当てながら答える。

「じゃあ、その彼女って………人間?」      「いや、違う」

要がそう返した途端、代は自分の両手で自分を抱きしめると

「そんな!お兄ちゃんが妄想世界の彼女とつきあってたなんて!」

代は要から一歩退く。

「いやいやいや!そうじゃないから!」

要は必死に否定する。その間、白は黙って何か考え事をしていた。



「要さん」

白が口を開いた。

「んぃ?」

「今、どこに住んでる?」

「東京」

「………彼女の背はどのくらい?」

「代足す五センチくらいだね」

「髪は?」

「長い」

この妙なやりとりを代は黙って聞いている。

「歳は?」

「さあ。妖怪だから分からないくらい生きてるって言ってた」

「じゃあ、最後に………名前は?」

 「名前?御社要だけど」

「違う違う。彼女の名前」

「神谷くろ」

「やっぱり…………」

白はまた手を顎に当てた。何か考えているようだ。

「………知ってるの?神谷って人」

代が居ても立ってもいられずに聞いた。白は

「うん………。神谷くろは、私の姉だわ」

と答えた。

「お?おお?おお。じゃ、くろちゃんの妹さんか」

要は白に顔を近づけた。

「でも、大して似てないなぁ………。白ちゃんはカワイイ系で、くろちゃんは麗しい系だな、うん」

代の驚愕事実二号。兄は妖怪と付き合っていた。さらに、その相手は白の姉だったという。

「ちょっと待ってて。本当に姉上なのか確認してくる」           白はそう言うやいなや、どこかへ行ってしまった。

「いや、でも代が巫女さんやってるなんて全く知らなかったよ」

要はお茶をすする。

「巫女じゃない。代わり人とか言う変な仕事」

こたつで暖まりながら、代はそう答えた。

「かわりびと?…………ああ、変人的なアレか」

「アレかって………そんな仕事の心当たりあるの?」

「ない」

「無いんなら言うな!」

「あ、じゃああっちか」

「あっち?」

「うん。変態的な……」

ゴスッと言う、鈍い音が居間に響いた。


「痛ぇ………俺が何したってんだ」

頬を押さえながらそう問いかけてくる要。

「心当たりは?」

代はまた拳を固めている。

「………あります」

「じゃあそれよ」「ふーん………お茶飲んだだけで殴られるなんて、どんなルールがあるんだよこの神社」

「殴られた理由がお茶飲んだからだと思ってるの!?」

「いや、だってそれ以外に思い当たる節ないし………」

代の兄はあからさまに考えていますよというポーズを取った。

「本気で考えてないでしょ」

兄を横目でにらみつける代。

「いや………変人的なとか変態的なとかしか言った覚えないんだけど、他に何か言ったっけなー………」

「それだよそれ!覚えてるじゃん!」

「あ、それが気に障ったの?」

要はやっと気づいた。

「いやー……俺はてっきり代のぶんのお茶を飲んだからそれで殴られたのかと思ったよ」

「あっ!ほんとにない!このー!楽しみにしてたのに!返せお茶!結構高いんだぞ!」

また、さっきの音が居間に響いた。


「おぅ………二度はないだろ、二度は」

心なしか要の声が震えている。

「……ったく、また殴られたくなかったら変なこと言わないでよね」

怖いぞ、御社代!

「へーへー。我が妹ながら恐ろしい奴だ。………で、何でまたこんな神社でおくりびとやってんの?」

「……ねえ」

「お……おほん。あー……が、学校はどうしたん?」

「学校?……ああ、実は………辞め(させられ)た」

「辞め(させられ)たーーーー!?」

「うん……。事業に失敗して、借金取りから逃げてるお父さんとお母さんを助けるためだったから仕方ないんだよ……」

代はうつむいた。

「なあ、代……」

要はいつになく真剣な表情でそう話しかけてきた。

「な……なに?」

「その話だが……本当に信じてるのか?」

「信じてる………って?」

「父さんと母さんが逃げたって話」

「え…………」

「どうやら、その様子だと信じ切ってたようだな」

要は薄笑いを浮かべた。

「じゃ…じゃああの話は全部う」

「実話だ」

「おいぃぃぃぃぃ!何だよさっきまでのタメは!変なこと想像したじゃないかぁ!」

代はまた兄につかみかかった。

その様子を影から見ていた少女が一人

「代って………あんな一面もあったんだ」

その様子をカメラで撮っていた。



代が要をボコボコにしていると、やっと白が戻ってきた。

「あ、白ちゃん。どうだった?」

代の下敷きにされたままの要がそう言った。

「うん。『神谷くろ』は、やっぱり姉上だったよ」

「……でもどうやって調べたの?」

代が口を挟む。

「どうやってって………電話で聞いただけ。ほら」

白は二人に携帯電話を見せた。電話の相手は『神谷九六』となっている。

「『かみやきゅうろく』………?誰?」

要が白の携帯の画面を見ながらそうつぶやいた。

「いや、だから要さんの彼女だって。これで『くろ』って読むの」

「へ〜………意外だなぁ。俺はてっきり苦しい風呂で『苦呂』だと…」

「そっちのほうがないよ!」

代がズバッとつっこんだ。

「と言うか、白って携帯持ってたんだ」

意外なことにうんうんとうなずく代。

「そりゃ、持ってるわよ。最近はみんな持ってるんじゃなかったかしら?ほら、銀次さんとかは仕事の都合上すぐに連絡とれた方がいいからって、結構前から持ってるよ」

「携帯………携帯?」

要が何やら思い出そうとしている。代たちはそれを黙ってみていた。

「携帯……………あ、思い出した。代、今日君に会いに来たのは他でもない。これを渡すためなんだ」

要はそう言うと、手のひらサイズの小箱を鞄から取り出し、代に渡した。

「何………これ」

「開けてからのお楽しみ。じゃ、当初の目的は達成したから、俺はこれでおいとまさせていただくよ」

要は鞄を肩に掛け、玄関に向かった。

「えっ………。もう帰っちゃうの?」

「ああ。午後から講義あるしな」

「もっとゆっくりしてけばいいのに〜……」

「いや、いい。また代に殴られるのは嫌だからな」

振り返りざまに、要は代の額を指ではじいた。

「っ!?」

突然の攻撃に驚く代。

「はっはっは。いい顔だ。じゃ、またな」

要は颯爽と境内を後にした。



今に戻ると、白がさっきの箱をつついていた。

「お、代。早く開けてみて」

白はなんだか嬉しそうだ。

「………何で私より代の方がワクワクしてるの?」

「さあ。それよりほら、早く」

白がせかすので、仕方なく代は箱を開けた。中には黒い四角とコードが入っていた。

「なんだそれ?」

白は未確認物体に興味津々だ。

「これ………携帯の充電器だ」

代は少しがっかりした。


「ま、せっかく届けてくれたことだし、使ってみるか」

代は放置していた携帯を充電器に接続した。そのとたん、溜まりに溜まっていたメールの数々を一気に受信した。

「………。こりゃすごいや」

学校の友達からのメールもいくらかあったが、七割がた要からのメールだった。

「ほお………要さんはよっぽど代が心配なのね」

「いや、ただのシスコンってだけだよ」

代は苦笑いした。



「代ー!メール来てるよー」

しばらくして、居間の隣(パソコンのある部屋)から白がそう叫んだ。

「んー?今行くー」



送信者:バカ

件名 :\(^o^)/

内容 :電車止まった。講義に遅刻するorz

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