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お首様(ホ)

「み……みかんなんて一生食べるもんか……」

顔面蒼白の白。こたつに頭を乗せている。

「お腹でも痛くなった?」

代が白の顔をのぞき込む。

「いや……何か気分悪い」

あんな危険なみかんを食べたのだから当たり前だ。

「得体の知れないもの食べるからだよ〜……」

「うん………。でも、前に食べたときもこんな感じになったし………」

「前にも食べたんだ……」

「とにかくお茶入れて……」

こんな時にお茶は如何なものかと思ったが、取りあえず用意した。

「ほい、お茶」

「ああ、ありがと……」

白は熱いお茶を一気に飲み干した。

「っー………。よし、治った!」

「熱いお茶には悪を払う力があるのか!?」

「熱いお茶かけられたら何だって逃げ出すわよ」

白はそう言って立ち上がると、うーんと伸びをした。

「さて、じゃあ私は先に風呂にでも入ってくるわ」

「あれ?もうそんな時間だっけ?」

代は壁掛け時計を見た。四時半過ぎだ。

「いやいや、昨日入れなかったから今日二日分入ろうと思ってね」

白は居間から出て行ってしまった。

「私はどうしようかな………。そうだ、境内の掃き掃除やったらお風呂行こっと」

代も立ち上がる。

居間には誰もいなくなってしまった。まあ、二人しかいないので当たり前なのだが。



代は境内にでると、箒を取りに本殿裏の倉(倉庫)に向かった。

古い木の引き戸を開ける。

「うっ……。まったく、いつ来ても埃っぽいなぁ、ここ」

代はそう呟いた。

「………あら?」

いつも置いてある場所に箒が無い。

「おかしいなぁ……………あ、あんな所に……」

箒は倉の奥にあった。多分いたずら好きの妖怪か何かが移動させたのだろう。

「ったく……色々邪魔だなぁ。今度掃除しないと」

得体の知れない壷をどかしたり、訳の分からない箱を跨いだりして、やっとの事で箒を手にした。

「………ふう。よし」

代は出入り口に向かって歩き出した。

すると突然、目の前に逆さまの顔が現れた。

「あわっ!…………ん?山嵐……さん?」

「その通り。うん。正解正解」

山嵐はどうやら天井から逆さまにぶら下がっているようだ。

「……そんな風にしてて大丈夫なんですか?」

「いや…………かなりきつい。頭に血ィのぼってきた……」

山嵐はそう言うと、トンと着地した。

「あー頭痛ぇ」

山嵐はそう言って頭を押さえる。

「見た感じ、まだ大丈夫そうだね」

山嵐は頭を押さえながらそう言った。

「まだ大丈夫って………何かあるんですか?」

代はちょっと心配になってきた。

「いやいや、特に言うべき事はないよ。それより、万が一の時のことなんだけど……」

「……と言うと?」

「どんな死に方したい?」

山嵐は真顔でそう聞いてきた。

「どんな死に方って……一体何でですか?」

代はますます不安になってきた。

「いや、だから、万が一お首様に体乗っ取られたときにどう始末してもらいたいかって」

「な………え、縁起でもないこと言わないでくださいよ!怖いじゃないですか!」

すると山嵐は右手の人差し指を顔の横にたて

「ところがどっこい。万が一とは言うものの、実際乗り移られる確率は六分の一なんだよね」

と言った。

「えーッ!?」

「さらに、君の場合はちょっと不具合があったから三分の一くらいになってるんだよね」

山嵐は他人事のようにさらっと言った。

「ちょ、そんな他人事みたいに言わないでくださいよ……」

代の元気はほぼゼロになった。

「ま、安心してよ。いざとなったらこの刀でそのかわいい頭をスパッとね……」

と、山嵐は代の首を見ながらにやにやした。

「乗っ取られる前から切る事考えないでください!」

代は箒の柄で山嵐をつっついた。

「ま、今から心配しても何も変わらないから、普通に過ごすことをおすすめするよ。ま、最後の日になるかもしれないけどね」

そう言い残すと、山嵐は消えてしまった。

「最後、か………」



代は上の空ですっかり暗くなった境内を掃いていた。頭の中にはずっとあの言葉が再生されている。


『ま、最後の日になるかもしれないけどね』


「はぁ………」

境内を無意識のうちにうろつく。その時

「うわぁ!」

ふと我に返る。周りがスローモーションになったように見えた。目の前には長い階段がある。が、何かおかしい。いつもなら階段の下の道を見るときは顔を下げるのだが、今は見上げるようにしている。

(あ………ああ。落ちてるんだ。しまった、不用心だったかな〜……)

代はそんな事を考えた。

次の瞬間、白山に妙な、何かが階段を転がり落ちるような音が響いた。




代はまたあの真っ白な空間に漂っている。

「またここか………」

辺りを見回すと、まだ『代』がいた。

「あれ?何やってんの?成仏への道を進んだ方がいいんじゃないのかな」

代はそう話しかけてみた。すると『代』は

「あ、……うん。そうしたいのはやまやまなんだけど……」

と言って、代から目をそらした。

「やまやまなんだけど?」

「あんたの中から出られなくなっちった」

『代』は、突然悪戯っぽく笑った。

「え?それって……」

「じゃ、しばらくあんたの中でお世話になるとするわ」

「えっ!?それって、まさか私がにじゅ」

「二重人格にはならないわ」

「じゃあ私の体があなたにのっ」

「乗っ取らないわよ!!あんなナイスバディでもないものを」

「ナイスバディでない………!?」

「昨日も言われてたでしょ」

その言葉を聞いた代は、少し考えてから

「……やっぱり、あの時私の近くにいたの?」

と『代』に聞いてみた。答えは

「もちよ」

だった。

「……と言うか、私の中から出れないってどう言うこと?」

代は一番の疑問点を口にした。

「どう言うことって、あんたらが私をあんたの中に封じ込めたんでしょ?」

『代』はそう返す。

「で、出られなくなったと」

「そゆこと。瓶に詰められたトカゲ状態よ」

「トカゲは瓶に詰めるものじゃないよ?」

「閉じこめられたって言った方がよかったかしら……?」

『代』は首をかしげた。

「まあいいじゃない。中で悪さするって訳じゃないんだし」

「ん〜……何か心配だなぁ……」

代は手を口に当てた。

「まあまあ、タダで居座る訳じゃないんだからさ」

『代』はそう言った。

「そうなの?何かくれるの?」

代がそう聞くと、『代』はニヤッと笑って消えていった。

「あ!ちょっと!」

代は何もいなくなった空間に右手を伸ばした。




「……!………ろ!……よ代!」

自分を呼ぶ声がして、代はうっすら目を開けた。白の顔と夜空が見える。どうやら代は仰向けに寝ているらしい。

「………ったく、驚かせないでよ!心配したじゃない!」

強めの口調でそういう白。どうやら少し怒っているようだ。

「ご………ごめん」

代がそう言った途端、全身に強い痛みがはしった。

「痛っ…!」

階段の一番下にいることから、どうやら転がり落ちたらしい。

「っー………。でも、どうしてここって分かったの?」

「俺が教えたから」

代の問いに答えたのはなんと山嵐だった。

「い……いたんですか!?」

「落ちる瞬間もばっちり見てた。ま、だからすぐに山神呼べたんだけどね」

「すぐ………?じゃあ、私はさっき落ちたんですか?」

「うん」

「じゃあ………そんな短時間にあれが起きてたんだ……」

代は煌々としている月を愛おしそうに見ながらつぶやいた。

「あれ?あれって………まさか、『対話』とかじゃないよね?」

山嵐は興味津々で聞いた。

「分からないけど、多分お首様と話しました」

「何て言ってた?」

「確か、私の中から出られなくなっちったとか何とか」

「………と言うことは、お首様の取り込みは一応成功したわけだ。よかったよかった」

山嵐はとたんに笑顔になった。

「ひとまず大丈夫そうだし、今日の所は神社に帰るか」

「そうね。明日の朝、あの医者でも呼ぶとするわ」

白もそう言って立ち上がった。

「立てますか?お嬢さん」

山嵐が右手を差し出す。代はその手を握ろうとするが、痛くてあまり体が動かない。

「あ……ちょっと無理です」

代は申し訳なさそうにそう言った。

「ふーん……じゃ、仕方ない。運ぶか」

そうつぶやくと、山嵐は代の背中とひざの裏に腕を回し、いわゆるお姫様だっこをした。

「うわっ!ちょっと!あ……あいててててて!」

「ほら、我慢我慢〜」

「無理です!」

月明かりが、階段を上る三人を照らしていた。

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