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お首様(ニ)

「くっー………」

朱祢は首のあたりを抑えながら立ち上がった。

「そうそう、今日は山神さんにおもしろい話をしようと思って来たんですよ」

「おもしろい話?」

白は朱祢の方を向いて、布団の上に座った。

「さて、御社さんはいったいどこに行ったのでしょうね?」

朱祢が意味深な事を言った。確かに、いつもなら目を覚ますとなぜかすぐに代が駆け寄ってきた。

が、今回は来ない。何故か。

「アンタ、まさか……」

「ええ。どんな反応をするのか楽しみだったので、御社さんは私が預からせて頂きまし」

「ただいまー」

朱祢の話が終わる前に、玄関の方で代の声がした。

「ん?」

白は朱祢の方を見た。朱祢は

「ぐぁぁぁぁぁ!ウチの計画が台無しですぅぅぅ!」

と叫び、頭を両手で抱えていた。


ドタドタ廊下を走る音。異変に気づいた代が急ぎ足で居間にやってきたのだ。

「白!目、覚めたんだ。よかったー………。で、この方は?」

代は頭を抱えながら畳の上でフリーズしている少女を指さした。

「ああ、彼女は朱祢っていうの。ちなみに死神さん」

白はそう軽く説明した。

「ん?今、死神って聞こえたような気が………」

代は白にもう一度聞いてみた。白は黙って頷いた。

「………お友達?」

代が小さな声で白に尋ねると、しろは首をぶんぶんと横に振った。

「じゃあ、他人以上お友達以下?」

白は首を縦に振る。

「何で喋らないの?」

「あ、いや、特に意味は無いよ」

二人の会話が終わっても、朱祢はさっきのポーズのままだった。

「まあ、お客さんに変わりはないんだしお茶でもいれてこよ」

代はそう言って台所に向かった。

「安いのでいいわよ」

白は布団を畳みながらそう付け足した。



「あ、何かお茶までいれていただいてありがとうございます」

朱祢は代に軽く頭を下げてから湯飲みを受け取る。

「熱っ!」

朱祢が湯飲みから口を離した。

「ちょっと代、足邪魔」

「私の足何にも触れてないよ」

「じゃあ朱祢の足か」

「大正解〜。山神さんに十ポイント差し上げま〜す」

「いらないわよ。大体、ポイントなんか貯まったところで何の役に立つわけでもあるまいし」

白はそう言うとゆっくりお茶をすすった。

「いやいや、ありますよ。百ポイント貯まると天国に行けなくなって、地獄で暮らすことになるんですよ」

朱祢が笑顔でそう言った。白の方は、えっ?と言うような顔で固まっていた。

「にしても、こたつっていいモンですねぇ。うちの職場こーゆーの無いんですよ」

朱祢がこたつをとんとん叩きながらそう言った。

「へぇー……。朱祢さんの職場って、どこにあるんですか?」

代は何となく聞いてみた。

「ウチの職場ですか?異空苑にありますよ」

「い……いくうえん?」

「あら?山神さん、代さんに異空苑の事教えてないんですか?」

「えっ?……ああ、まあ、教えてないけど……」

白がやっと動き出した。どうやら、神様の類は何かあるとすぐにフリーズしてしまうようだ。

「説明してあげてください」

「自分で説明すればいいじゃない」

「いや、なんかホラ、自分の職場のこと話すのって、恥ずかしいじゃないですか」

「そう?」

「それに、私話し下手ですし」

「あ、そーいやそーだ」

そう、朱祢はものを説明するのが下手なのだ。

「しょーがないなー……」

白は横目で朱祢を見ると、代の方を向いて説明し始めた。

「えっとね、異空苑と言うのは、この世界とある一点で繋がっている別世界のことよ。異空苑は冥界、天界と繋がってるの。で、彼女は冥界にある閻魔邸に勤めてるのよ」

「ふ〜ん……。じゃあ、異空苑にある、じゃなくて冥界にある、の方がいいんじゃないの?」

代が首をかしげる。

「この世界、いわゆる人界ね。人界からは、冥界に直接行けるんだけど、冥界から人界には直接これないのよ」

白はそう言い終わると残っていたお茶を一気に飲み干した。

「代、今何時?」

「今?えーっと、十時十五分」

「もうそんな時間なんですか!?大変!帰らなきゃです」

そう言って立ち上がる朱祢の足を、白の手ががしっと掴んだ。

「タダじゃ帰さないわよ」

白はのそっと立ち上がると、朱祢の両肩を笑顔で掴んだ。

「ひ……ひえぇぇぇぇ」

朱祢は早くも何かを察したようだった。



「じゃあねー」

白が笑顔で見送る。朱祢は疲れた顔で

「はい……お邪魔しました」

と言うと、ふらふらした足取りで境内から出て行った。

「朱祢さんって凄いね。たった三十分で、あれだけのこと出来るんだもん」

代は感心していた。

「ま、彼女はそんくらい速く動けるのよ。多分今まであの力、仕事にしか使ったことなかったんだろうけど、さっきので掃除洗濯炊事を一気に出来ることが明らかになったわけだ」

白がにやけながらそう言った。そう、朱祢は三十分の間、掃除洗濯炊事をほぼ同時にやって(やらされて)いたのだ。

「ま、朱祢が来たおかげで朝御飯も食べれるんだから、その点は感謝しないとね」

白はそう言い終わると、台所へと移動し始めた。代もその後に続いた。



朱祢がさっきまで料理していた鍋のふたを開ける。中にはビーフシチューが入っていた。

「あら、いい匂い。朱祢結構料理うまいんだ……。次来たらご飯作らせよっと」

白はまた何か考えているようだった。

「とにかく、ご飯にしよ」

二人は朝食にしては遅く、昼食にしては早い、ブランチのような食事をとることにした。

「あ、美味しい!……けど、昨日はカレーじゃなかったっけ?なんだか、煮込み料理が多い気が……」

代がそう言った。

「そう言えば……そうね。一昨日の夜カレーで、昨日の朝も残ったカレーだったなぁ……」

白も同感な様だ。

「でもまあ、材料買ってきたの私だし、仕方ないか」

「ふーん………、そうだ。首の調子はどう?」

白が聞いてきた。

「首?大丈夫。でも、山嵐さんは今夜が山だとか何とか……」

「何で今夜かわかる?」

白は聞いてみた。代は首を傾げた。どうやら分からないようだ。

「代がもう一人の代………あー、つまり、お首様と初めて会ったのは夢の中なんでしょ?」

「うん」

「ってことは、山嵐は代の中にいるお首様が代と接触してくるのは夢の中だと思ったんじゃない?」

「でも、それじゃあもしお昼寝とかして夢見たら、山は夜じゃなくて昼になるんじゃ?」

「馬鹿ね〜……。妖力や霊力は夜間の方が強いの。力の弱まってる昼間に接触しに行く奴なんて誰もいないわよ」

「なーるほど。だから山は夜なんだ」

パッと笑顔になる代。どうやら納得したようだった。

「山……ヤマ……どっちだろう?ま、いいや」

白は食事を再開した。




二人はまったりしている。食事はどうやらとうの昔に終わったようだ。

「うーん………まずい」

代が時計を見ながらそう言った。

「何がまずいの?」

白はこたつの上にみかんを積み重ねている。

「何か、今日も一日を無駄にしてるなーって」

「仕方ない仕方ない。それも代わり人の仕事のうちだから。と言うか、ここにいること自体が職務なんだけどね」

白はみかんの一つを代に向かって放り投げる。代がそれを華麗によけると、みかんは畳に叩きつけられた。

「何で避けるのよ」

「あ、いや、何か飛んできたからつい」

代は畳に着地したみかんを拾い、皮を剥いたかと思うとそのまま一口。

「行儀悪いわね」

白はそんな代の姿を見てついそう言ってしまった。

「ん〜………このみかん、まあまあ」

代はさっきまで口をもごもごさせていたが、どうやらもう飲み込んだようだ。

「ま、そうだろね。このみかん、この山に生えてる木からとった奴で、その木のまわりは自殺者多いからね」

白はさらっとそう言った。

「ふ〜ん………この山って、意外と大変なんだ」

代は至って冷静だった。

「あ、見て見て。ほら、このみかん人の顔の形してるよ」

白がそう言って代にみかんを向けた。

「うわ、いいよそんなの見たくないよ」

顔を逸らす代。

「自殺したんだけど、無念の思いがみかんに取り憑いたんだね〜……」

「へぇ〜……みかんにも怨念こもるんだ……って、食べるのそれ!?」

「当たり前よ。みかんなんだから」

白はみかんの皮を荒く剥くと、口へと運んだ。

「こういう風に、食べ物に取り憑いたやつを浄化するには食べちゃうのが一番よ」

白はみかんの皮をまとめて掴むとゴミ箱に向かって投げた。みかんの皮はゴミ箱の縁に当たり、畳の上にみかん皮が散らばった。

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