お首様(イ)
「話は一通り聞いたわ。あなた、回し蹴り喰らったらしいわね」
里見先生はそう言った。
「私だったら一発でしとめるのに……」
「え?」
代は何を言ったのか分からず聞き返した。
「あ、いやいや、何でもないわ。それじゃ、聞くけど首はどんな風に痛いの?」
「えっと………何というか、首を動かしたら痛いですね」
代はそう答えた。里見先生はそれを聞いて
「はは〜ん。それでさっきから目だけしかこっち向いてなかったわけだ。それにしても可哀想だね〜あんなに雪積もってるのに」
と、境内の方を見ながらそう言った。
「えっ?雪つもってるのにどうやって車で?」
代は驚いたような目でそう言った。それを聞いた大宮は
「ハハハ。道路に積もった雪をそのまま放っておく人はここら辺にはいないよ。ちゃーんと、雪かきしてあった」
と答えた。その時、遠くから聞こえるお寺の鐘がお昼を伝えた。
「あ、いかん。もうこんな時間か。じゃ、俺はこれから部署対抗雪合戦があるから、これで失礼するよ」
大宮はそう言うと急いで玄関に向かった。
「あ、ちょっと!私はどうやって帰ればいいのよ!」
里見先生が慌てたように聞いた。
「車置いとくから後で役場に来い!送ってやる!」
向こうの方で、そんな声が小さく聞こえた。
「………里見先生って、足が悪かったりします?」
代がそう聞く。
「……どうして?」
里見先生はそう聞き返した。
「さっき廊下を歩いてくるとき、ドタドタって音とドッタドッタって音がしたから…」 「……あなた、洞察力が凄いわね。医者向きよ」
里見先生はそう言った。
「私ね、十六歳の時に交通事故に巻き込まれてね、左足を悪くしたの…」
「それで、まあ歩けるまでに治してくれたお医者さんに感動し、自分もお医者さんになった、と」
代はそう口を挟んだ。
「あなた……読心術でもできるの?」
里見先生は少し気味を悪くした。
「多分お首様が憑いてるのよ」
どこからともなく白が現れた。
「お首様…?何それ」
里見先生は首を傾げた。
「そんくらい名前で察しなさいよ」
白はツンツンしている。やはり、女性は嫌いなようだ。
「お首様って、何?」
代は白に聞こえるように聞いてみた。すると
「お首様ってのは、首塚の周りに怨念とかが集まってできる悪霊のことよ」
白は誇らしげに答えてくれた。
「へ〜」
と納得の里見先生。
「あんたに話した訳じゃないわよ」
白はやはり冷たい。ツンデレみたいになってきたな…。
「多分蹴られて気絶してる間に寄ってきたのね…」
白は一人で納得していた。
代が
「取り憑かれてるなら、早くとってほしい」
と言うと、白は
「分かった」
と言ってどこかに行ってしまった。
しばらくして、白が戻ってきた。手には何故か小豆の入った袋がある。
「じゃあ、祓うから目瞑ってて。ちょっと痛いけど我慢してね」
白はそう言うと小豆を一掴みして
「うりゃっ」
代に向かって投げた。
「痛っ」
「とりゃっ」
「痛いって」
「うりゃぁぁぁぁぁ!喰らえ!小豆アターーック!」
「あ痛っ!何だよ今の!必殺技!?」
代の顔やら首やらには小豆の当たった痕が残っていた。
「よし。もう目開けていいよ。お祓いは一応終わったから」
白は投げた小豆を拾い始めた。
「え?一応ってどういうこと?」
目を開けると代は白の方を向いてそう言った。その時
「あ、首治った」
と気がついた。
一時間後、小豆を全部拾い終えた白は代の目の前にやってきた。ちなみに里見先生は縁側で昼寝をしている。
「さっき、どうして一応なのかって聞いてたっけ?」
白はそう聞いてきた。
「うん」
と代。
「一応ってのは、祓いきれなかったからよ」
「……?」
「どうやら今回のお首様は大層代のこと、気に入ったみたいね。ぜんぜん離れようともしないもの。ほら、今も代の肩の後ろに」
「そう言うのやめて!」
「フフフッ。流石に方の後ろに…は嘘よ。でもそれまでは本当」
白は急にまじめな顔つきになった。
「え……じゃあ私は一体どうなるの…?」
代の顔が急に心配そうな顔つきになった。
「下手すりゃ死ぬわ。でも、上手く共存してけば何とかなるかも」
「……例えば?」
「例えば……そうね。代の中にお首様を取り込むとか」
白は指で宙にくるくると何か書き始めた。
「と……取り込むとどうなるの?」
代はやはり不安なようだ。
「外見的には変わらないけど、お首様によっては体を乗っ取られるかもしれない」
「ののの……乗っ取られるの!?」
「取り込むってのはそういう事よ」
「じゃあ……もし乗っ取られなかったら?」
「うーん……よくわからないけど、多分お首様の力を貰えるんじゃないかしら?」 代は悩んだ。このまま死ぬのは何か嫌だが体を乗っ取られると言うのも嫌だ。だが、うまく行けば特殊能力、エスパー的な何かが身につくかもしれない。
「んー………」
代がそう唸っていると白は
「まあとにかく、天狗の奴にでも聞いてみようかしら?」
と言った。
「天狗なら私みたことあるけど」
突如里見先生が口を挟んできた。
「うわっ!いつの間に起きてたんですか!?」
代は驚いていた。少しオーバーだな。
「天狗ってアレでしょ?羽生えてて狐のお面してるやつ」
「狐のお面………」
それは違うだろ、と代は思った。その時
「あら、あなた純人間のくせに天狗の奴に会ったことあるのね」
白がそう言った。
「えー!?天狗なのに狐のお面してるの!?」
代はそう言った。
「あれ?狸さんたちに天狗の話聞いてなかった?」
「いえ、全く」
代は首を横に振った。その時
グキッ
「あうっ!」
代はまた布団にパタンと倒れた。
「代ちゃんどうかしたの!?まさかまたそのお首様って奴に?」
里見先生がそう聞くと
「違うわね。今のは単に変な風に首を振ったから痛めたのよ」
と、白が答えた。