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夏の終わりの(イ)

 色々な事があった夏が、終わろうとしている。

テレビで騒がれている異常気象が原因か、それとも神様の気まぐれか、今年は台風がサッパリやってこなかった白山神社。

 セミの鳴き声のBGMなしで、遠くの方にくっきり見える入道雲が、大きな手を振って、別れを告げているように見えた。直に、秋がやってくる。

 実りの秋とはよく言うもので、白山でもポツリポツリとウニを見かけるようになった。よく分からないキノコも生え始めてきた。地面に落ちているセミの数も、増えた。未だに生きているセミが、昼間にひっそりと鳴いているが、きっとあの声は相手を見つけるためではなく、先に死んでいった同胞たちを弔うための鎮魂歌なのではないだろうか。

 代は、境内から空を眺めながら、感傷的になっていた。すこし、肌寒いような風が、服の袖を小さく揺らした。



 先日の『例のこと』の後、一通の手紙が届いたが、まあ内容は大してよく分からなかった。一つ言える事は、代は何とか首の皮一枚で生き延びた、といったところだろう。といっても、そんな事は少しの慰めにもならないが。







「はぁ・・・・・・」


居間で、面白くもなんとも無い二時間ドラマの再放送をぼやーっと眺めながら、代はため息をついた。その様子を、心配そうな顔で見ている、白。


 あの日から、ずっとあんな感じだ。ふらっと出て行ったかと思えば、今度はずっとテレビばかり見ている。白との会話も少なくなり、食べる量も少なくなった。


「ねえ、代・・・。あなたにこんな事言うのも酷だろうけど、やっぱりさ、なんかこう、もう少し明るくした方がいいんじゃない・・・?」


恐る恐る話しかける白。すると、ゆっくりと濁った目をした代がこちらを向き、口を開いた。


「・・・・・夏がさ、終わったんだよ」


「・・・・・・・・・・・は?」


「・・・・・・高校の頃の友達はさ、みんな、『海行ったよー!』とか『彼氏と花火見に行ったよー!』とか、自慢のメールばっかり送ってくるのよ」


ん、なんかおかしいぞ?どういうわけか、なんとなく、話が理解出来ない白。そんなのも構わず、顔をテレビへと戻しながら代は話を続ける。


「私さ・・・・・・・・この夏何してたよ?」


どうやら代は、陰鬱な気持ちになっているようだ。一体、どうしたと言うのだろうか。





 とりあえず、当たり障りの無いように代を慰めてから、白は姉の携帯へ電話を入れた。

 何度かのコールの後に、久しぶりに聞く、姉の声が電話越しに聞こえてくる。


『久しぶりー!白ーっ!元気してた?』


姉の九六は、いつもと変わらず元気そうだ。


「うん。まあ、私はね・・・。ところでさ、近くに要さん、いる?」


『要?ああ、いるよ。今代わるわ』


九六がそう言ってから待つこと三分。


『あ、もしもーし・・・』


代の兄の声が聞こえてきた。


「どーも、お久しぶりです」


まずは当たり障りの無い挨拶から。なにせ彼とは久しく話してないし。

 

『はい、お久しぶりー。で、どうしたの?代が何か問題でも起こした?』


さすがは兄。勘がとてもよい。


「はい・・・。実は・・・・・」


代は、とりあえず要にも分かるように、先日までの一連の出来事、そして今の代の状態を、要点はもらさずかつ簡単に説明した。


『なるほどな・・・・・』


電話の向こうで要がそうつぶやいた。


『今年、アイツどっか遊びに行ってないでしょ?』


「ああ、まあ、ずっと神社にいたみたいだけど・・・・・」


『原因はきっとそれじゃないかな。あっという間に夏が終わっちゃって、憂鬱な気分になる。俺も浪人してたときに味わったよ』


「はあ・・・・。じゃあ、別に代があんななのは例のことのせいじゃないってこと?」


『うん、多分ね』


「そう・・・・・。分かった。ありがとう。また電話するねって姉上に伝えておいてもらえる?」


『任せとけよ。んじゃ、代によろしく』


そういった会話の後、白は通話を切った。画面には十三分きっかりの通話時間が表示されていた。


「うーん・・・・・・」


白はしばらく考えていたが、とりあえず居間に戻ることにした。





 居間に戻ると、やはりさっきと変わらない様子の代が座ってテレビを見ていた。

 

「ねえ、代・・・?」


「・・・・・なに?」


「明日さ、どっか行こうか?」


さあ、食いつけ代!


「・・・・・・・・・」


しばしの無言。それから代がゆっくりと白のほうを向き


「どっかって、どこ?」


よし、食いついた!


「うーん、そうだなぁ・・・・・・海、とか?」


「海かぁ・・・・・・」


代の声のトーンが、少しだけ上がったような気がした。


「海かぁ・・・・・・。まあ、悪くないね」


「でしょ?」


「でも、どうやって行くの?」


だんだんといつもの代に戻ってきた、ような気がする。


「大宮さんにでも頼みましょうよ。それとも、どっか別のところにでも行く?」


「うーん・・・・・」


代と白、久々の二人の会話だ。

どうやら代は、夏だったのに何もしていなかったことに気付いて憂鬱になっていたのだろう。夏は長いようで短い。






 それを、居間の外廊下、外へとつながる縁側から聞いていたモノがいた。


「なに・・・・?代ちゃんが海に行く、だと・・・・・ッ!?」


そう、鈴之助だ。


「という事は代ちゃんの水着姿が・・・・・・?」


煩悩たっぷりかよ。九十九神だろ。


「別に、海に行くからって泳ぐとは行ってないでしょうが」


突然、居間の障子が開き、白が顔を出した。


「おわっ!?」


「ったく、アンタの独り言は全部聞こえてんのよ。そう言うのはツイッターでつぶやきなさいよ」


さすが白。インターネット中ど・・・・・精通しているだけはある(人外の中ではね)。


「ついった・・・・・?」


どうやら鈴之助はツイッターを知らないようだ。まあ、無理も無いが。


「あれ、鈴之助さんツイッター知らないんだ~」


奥から、いつもどおりの代も笑顔を見せた。あれほど純粋な笑顔は今までに見たことが無い、と、後に鈴之助は語っている。


「ま、まあ知らないのはしょうがないじゃないか!どうせそれも人間が作り出した『かがく』とかいう呪法なんだろ?人を呪わば穴二つ、だよ」


鈴之助、お前はツイッターを何だと思っているんだ。まあ、呪術と無関係だとは言わないけれど。


「ところでお二方、明日あたりに海に行くらしいじゃないか。どうだい?僕も一緒に連れて行っておくれよ」


すると代はまたにっこり笑うと


「いいよ。人数は多い方が楽しいもんね」


と言った。鈴之助は後に(ry


「ま、泳がないけどね」


最後にそう付け加える代。


「え・・・・・?」


それに対し、あっけに取られた表情をする鈴之助。


「だって、日に焼けちゃうし」


「あ・・・・・ああ、そ、そうだよね!僕も別に代ちゃんの水着姿が見たかったとかそう言うのじゃないしね」


「ふ~ん・・・・」


怪しいなぁ、という様に片眉をあげる白。そして白は


「でもまあ、まだ行くと決まったわけじゃないし」


と続けた。


「・・・・・ま、まあ、もし行くんだったら僕にも知らせてくれよ。じゃ、ここいらで退散するとするよ」


なんとなく、その場に居辛くなった鈴之助は、そう言うと神社から離れ、あたりの風景の中へと溶けていった。


「まったく、分かりやすいヤツなんだから」


理由は分からないが、白はちょっとだけご立腹なようだ。それもそうだろう。せっかっく久しぶりに代と話せたのに、とんだ邪魔者が入ったのだから。


「まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃん。別に悪さするわけでもない・・・・・くないか」


代はそういって苦笑い。その苦笑いの表情もまた代らしくて可愛かった、と、後に鈴之助は語る。・・・・・っておい。





 そうこうしているうちに、さっきまで日が当たっていた境内はすっかり翳ってしまっていた。いつの間にか、神社の真上には真っ黒い雲が覆いかぶさっている。


「あらあら、こりゃまた突然だなぁ」


今流行のゲリラ豪雨ってヤツか。境内の石畳に、ポツリポツリと粒の大きい雨が当たり始めた。


「・・・って言ったとたんに降ってきたね」


湯飲みを片手に、今から身を乗り出して黒い雲を眺める。


「雨が入ってこないように戸締りしなきゃね」


そう言って白はテレビの上に置いてあった鈴を手に取り、二、三回鳴らす。すると、神社全体の開いていたアクリル板のはめ込んである戸が、ひとりでに閉まっていく。


「おお・・・・・・すごい・・・」


目の前の光景に目を見張る代。どうやら見た事が無かったようだ。


「すごいでしょ?この神社の構造については、代の知らない事はまだまだたくさんあるんだからね」


上機嫌にそう言う白。亀の甲より年の功ってヤツか。







 建物の中にまで聞こえる、ゴーっという雨の音。  

いつまでも聞いていたいような、なんとなく、心地よい雨の音。







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