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アサユウ

カァー カァー


「…………………ん?」

代わり人、御社代はカラスの鳴き声で目を覚ました。

「ったく、朝っぱらからカラスが鳴くのか、ここは」

眠い目をこする。すると、ふと自分が畳で寝ていたことに気づく。

「…ありー?確か昨日は布団で……」

周りを見回すと、近くに昨日知り合った神様、山神白が倒れていた。体中痣と擦り傷だらけだ。

「白!どうしたの!?大丈夫!?」

代は白を強く揺すった。

「うう………」

気がついた白は、まだ虚ろな目で代の顔をみた。そして

「うわぁっ!」

と叫んだかと思うと、向こうに敷きっぱなしになっていた布団に潜り込んでしまった。

「ど、どうしたの?」  

代が心配して近づくと

「ごめんなさいごめんなさい」

と言う声が聞こえる。どうやら、何かに怯えているようだ。

代は布団の脇にしゃがみ込むと

「どうしたの?」

と、優しく問いかけた。


しばらくすると、布団にくるまっていた少女は恐る恐る布団から出てきた。

「代……なの?」

突然質問された。

「そうだけど……どしたの?記憶喪失?」

「あぁ……よかった」

白はそういうとバタッと倒れてそのまま眠ってしまった。

「何が何やら……」

代はそうつぶやいて立ち上がった。早速朝食の支度をしなければならないからだ。


「さて、何にしようかな。……と言うか、何があるんだろ…」        

台所に向かおうとして、代は一歩前に踏み出した。足は、畳ではなく何か筒のような物を踏みつけた。

「……何これ?」

踏んだのはどうやら瓶のようだ。ラベルは「水」となっている。

「これ……昨日の!」

代は眠っている白をにらんだ。そう言えば、白は何であんなに傷だらけなんだろうか。昨日、あの部屋にいたのは二人だけ。そして今朝の白の怯えよう。

「…………」

代は瓶のラベルを読んだ。



「水」は、お酒です。このお酒は効き目が強いので、一日に飲む量は一合までにしてください命に関わります。


尚、人間には絶対に飲ませないでください。暴れ回る危険性があります。



「白の傷を作ったのは私だったか」

代は少し申し訳なくなった。が

「うどん……固い…」

という、白の寝言を聞いた途端そんな気も失せた。

「ギャグが少ない……」

「寝言の割に痛いとこ突いてくるなぁ……ホントに寝てんのかな?」

代はそっと白に近付いた。そして、ほっぺたをつねろうとした時

「ごめーんくーださーい」

大宮の声がした。    

「はっ!光貴だ!」

白ははっと起きると、その場でくるっと一回転した。

すると、不思議なことにさっきまであった痣やら擦り傷やらがきれいになくなった。

「うおっ……すごっ」

代は驚いて目を丸くした。そんな代の手を取り、白は

「ほら、急いで急いで!」

と急かした。代は立ち上がると白に引っ張られるように廊下を移動した。

「(急ぐんなら、先に行けばいいのに……)」

代は心の中でそう思っていた。



「おお!山神と代わり女が一緒にいるなんて!……こりゃ、明日は雪かな?」

二人を見た大宮は戸の外に広がる快晴の空を見た。

「あ、山神。これお土産」

大宮は大きな紙袋を白に渡した。

「……これって、もしかして?」

白は目を爛々と輝かせている。

「その通り。ひよっこさ」

ひよっこ、とは、ひよこの形のお饅頭である。

「やったー!」

白はひよっこを持ってどこかに行ってしまった。大方一人で食べるつもりなのだろう。

「………で、代ちゃん、ちょっと良いかな?」

そう言うと大宮は境内に出て行った。ついて来いと言う意味なのだろうと解釈した代も、後に続いて境内に出た。


「それにしても、代ち」

「この間までは敬語だったのに、いきなり変わりましたね」

代がそう言って大宮の話を乗っ取った。

「あ〜……」

大宮はしばらく考えてから

「あの時はまだ受けてもらえるか分からなかったから、慎重にしてたんだ」

と言った。どうやら、先に代からの話を片づけた方が得策だと思ったようだ。

「え……でも、昨日は強制だって…」

代は少し戸惑った。

「ああ、あれね。あれは嘘」

「嘘ォーっ!?」

「でもまあ、自分でやるって言ったんだから」

「…………」

「で、話は変わるけど」

大宮は本題に入った。


「君はどうやら山神と上手くいってるようだね」

大宮は空を見ている。代は空を見ている大宮のことを見ていた。

「彼女から、なんか聞いたりした?巫女さんの話とか」

それに代は

「ああ……何か、今までの女の人とは上手くいってなかったみたいです」

と答えた。

「ふ〜ん……。それ、何でだかわかる?」

「………あの性格だから?」

「昔、山には女の人は行ってはいけなかったんだよ」

「あ、知ってますそれ。確か女の人が居ると嫉妬しちゃうとか」

「分かってるじゃん」

「分かってるって……上手くいってなかった理由、ですか?」

「そ。……じゃあ、何で自分は大丈夫なのか分かる?」

「………さあ」

代はそう言って首を傾げた。大宮は、適当に拾ってきた木の棒で、境内の土の部分に字を書き始めた。


「これ………私の名前」

地面には『御社代』と書かれていた。

「みやしろのしろ。多分これのおかげで上手くいってるんだと、僕は思う」

大宮は真剣な表情でそう言った。

「字には力があるって、知ってる?それが、今の円滑(に見える)な状態を創り出しているんだと思うよ」

「それにしては、一人でひよっこもってっちゃったけど……」

代は本殿をみながらそう言った。すると大宮は

「そりゃ仕方ないよ。生贄の方が大事だもの」

と言った。

「い…生贄!?じゃああの中には本物のひよ……」

「いやいや。あれはただのお菓子、代用品。生き物を象ったものなら代用品になるんだ。食べたら分かるけど、饅頭とかひよっこには皮があって、その中に色々入ってるでしょ?」「ははあ、皮と身って言うとこは同じだから、生贄の変わりになると」

「まあ、そんな感じ。じゃ、戻ろう。ノロノロしてると全部喰われちゃうよ」

そう言って大宮は代の背中を押した。



二人が居間に着くと、ちゃぶ台の前で白が座って待っていた。ご丁寧なことにお茶まで入れてくれたようだ。神様のくせに妙に人間臭いな。

「早く食べよっ」

白がそう言った。二人は適当に座った。

「じゃ、頂きま〜す」  

大宮がお茶を飲み始めた。

「ん〜……このお茶美味しい」

このほうじ茶は白がいれたものだ。

「でしょ〜。毎年出雲でこれやらされてるから、もうお手のものになっちゃった」

白はニコッと笑ってそう言った。

「毎年出雲って……?」

代が不思議そうに聞く。それを聞いた白は

「代。十月って、なんて言う?」

とヒントを出した。

「えーと……神無月。あ、そーか」

代はどうやら納得したようだ。



「……さて、お茶もごちそうになったことだし、そろそろ役場に帰るよ」

大宮はそう言って立ち上がった。

「えーっ……もっとゆっくりしてけばいいのに〜」

白がそう言う。

「仕事残ってるから。またお茶ごちそうになりに来るよ」

三人は玄関に移動した。

「そんな大したことじゃないから見送りなんていいのに」

大宮が苦笑する。

「いいじゃんいいじゃん。気にしない気にしない」

白は何だかテンションが高い。男好きだからか?

「あ、そうだ。大宮さん。……さっきの名前の意味って……」

代が思い出したように言った。

「ああ、あれね。あれは噛み砕いて言うと『神社の代わり』って事。じゃ」

大宮はそう言うと足早に神社の敷地から出て行った。

それを見た代が

「何であんなに急いでんだろ?」

とつぶやくと、それを聞いた白が

「ああ、前に強引に泊めたことがあって、それからなんか急ぎ足になっちゃった」

と言った。       

「何とまあ積極的……いやいや、何でもない」

代は居間に戻った。





「寒い」

辺りはすっかり暗やみに包まれ、向こうの山の空は茜色に染まっていた。

「まったく、何でこんなに寒いの…」

白はこたつの中でぶつぶつ言っている。ちなみに代は食材の買い出しに行った。

「こたつのくせに全然暖まらないなあ……壊れてんのかな?」

白はこたつをしきりに叩いていた。もちろん、彼女にはこたつから延びるコンセントなど見えていない。

「全く、かがくってのに頼りすぎるから最近は逆に不便なのよ!あ〜寒っ」  

いやいや、君が分かってないだけだから!



その頃代は、少し離れた(徒歩で30分くらい)麓のスーパーにいた。

「人参は………」

代は人参売場の前で立ち止まっている。すると突然、知らないオバチャンに話しかけられた。

「あら、ほんとに交代したのね!」

オバチャンは馴れ馴れしかった。

「まっさかほんとに代わり人やるなんて、お嬢ちゃんも変わり者ねー……。まあでも若いんだから頑張ってね!」

オバチャンは言いたいことを言い尽くしたのか、代から離れていった。


「………何で分かったんだろ?」

代は首を傾げた。

「こんな服着てるからかな?でも、コスプレとかって可能性もあるのになぁ…」

代はやはり首を傾げていた。しかしながら、普通秋○原でもない地方のスーパーでそんな格好する人いないから(多分)!

「これで大体……あ、やべ、肉忘れてた」

代はこれからまた肉売り場の前で、二十分考えることになった(広告の品とか、らしい)。

「こっちの方が安……くないか…」



白は電源の入っていないこたつで寝ていた。何だかもうどうでも良いようだ。

外はもうすっかり暗くなっていた。空からは粉雪が降り始めた。



「あ〜……まさかほんとに降っちゃったよ…」

大宮は役場の窓から空を見ていた。

「こら、大宮君!さぼらない!」

大宮はある女性(上司か?)に怒られた。

「へーへーやりゃいいんでしょ」         

大宮はそう言って渋々机に向かった。

「お前はガキか!」

上司がそう言うのを大宮は耳をふさいで受け流した。




キイィン

自動ドアが開いて、スーパーから代が出てきた。手には買い物袋(神社からエコバッグ持参)。

「うわ、さびぃ……」

代の赤いマフラーが寒風でたなびいた。

「さっさと帰んないと……。白多分凍っちゃうだろうな…」

そう。白は今まで色々(料理やら洗濯やら暖房器具やら)代わり人に任せっきりだったらしい。そんな人が(神様だけど)あの科学技術の結晶、電気こたつを使えるはずがない。

「どーせ風呂にでも入って、暖かくしてんだろーなー…。いいなー…」    

代は歩きながらそうぼやいていた。




御社代には千里眼でもあるのか、山神は湯船につかっていた。

「あったかー……いんだけれども…」

白は大変なことに気づいた。

この風呂場は格子戸がある。つまり、風呂と外が隔離されていないため、外の凍えるような寒気が風呂に入ってきているのだ。例えるなら冬場の露天風呂といったところだろうか。

「あがるのがつらいんなら、春まで待てば?」

河童が湯船の中を泳ぎながら言った。

「もう、そんな適当なこと言わないでよ〜。私は河童さんたちと違って一年中冷水で暮らしてるわけじゃないんだから」

白は風呂の電球を見ながらそう言った。

やっと1.7話まで完成!

次は2.5話まで行こうかななんて思ってたり。



温かい目で見てやってください(^_^;)

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