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風鈴とお人形(ロ)

「うに………」


次に代が目覚めたのは自分の部屋(代わり人の部屋)だった。痛む頭を壁掛け時計の方に向ける。なんと既に深夜零時を回っていた。

誰が布団を敷いたのだろうか?代は何となく気になった。そんなときスッ、と、部屋の障子が開き


「あ、起きたんだ」


タイミング良く白が入ってきた。そしてまたすぐ出て行ってしまった。


「………何しに来たんだろ?」


代が不思議がっていると、今度はスイカの乗った皿を持って戻ってきた。


「まあ今日はスイカ食べときなさい。里見先生曰わく、熱中症だねぇ、だとさ」


白はスイカを手に取るとそれにかじり付いた。


「まったく、代ももう少し」


ガリッ


「ぐっ………」


変な音がしたあと、白は空いている皿に砕けて四つになった種を吐き出した。


「………もう少し健康に気を使うべきよ」


「ああ、種噛んだんだね」


代はようやく気づいたらしい。ちと遅いぞ、代。


「…………………………」


口を少し開け、何か言いたそうな顔のまま固まる代。


「………どうしたの?」


「………何か言いたかったんだけど何言おうとしたのか忘れちゃった」


「じゃあスイカでも食べて思い出しなさい」


白はスッとスイカを差し出す。


「うん。そうする」




しばらくの間、二人の居る部屋にはしゃくしゃくとスイカをかじる音が響いていた。




で、早くも翌朝。代はまた、昨日のように境内に出て掃き掃除をしていた。


「あの娘も物好きだねー……」


瀞は昨日と同じアングルから代を見ていた。昨日と代わって今日は湯飲みを持っている。


「うん………。それよりさ、気になることがあるんだけど」


白もまた、昨日と同じ所に座って代を見ていた。よほど心配なのだろう。


「アンタはいつまでここにいる気?」


白はふっと横を向いた。視線が代から瀞へと変わる。


「まあまあいいじゃん。どーせ人も来ないような神社、私の一人や二人居たって何も変わらないわよ」


「いや、疫病神が居る限り毎日が厄日になりそうな気がする」


確かにそんな気はする。


「だって、アンタが来てからまたここいらに生き物が寄りつかなくなったし。それにサボテンも枯れたし。一体何をまき散らしてんのよ」


と、白は続ける。


「いやいや、サボテン枯らしたのはそっちの責任でしょ。あれ水やりすぎると枯れるよ?」


瀞は慌てて片方だけ弁解する。身振り手振りもついているのでよほどパニクって居るようだ。


「それ、前にも聞いた。だから水はやらないようにしといた。なのに枯れたのよ」


「そら、いくら何でも水がなければ植物は枯れますわなぁ」


「水やるなっつったのは誰よ!」


「やりすぎ注意と言ったの。やるななんて一言も言ってないよ〜」


「………とまあ、ろくな事がない訳なのよ」


白が言う。すると遠くから


「サボテン枯らしたのは白が悪いよ」


と言う代の声がした。なんという地獄耳だろうか。まあ、たしかに、サボテンに水をやらなかった方が悪い。と言うか何の話をしているんだね君たちは。


「そーそー。サボテンは水をやらなかった方が悪い」


近くにいないはずの山嵐の声がした。三人とも同じように辺りをキョロキョロ見回す。見た感じどこにも山嵐の姿はない。


「………透明になってんの?」


と、白がつぶやいたとたん、賽銭箱からガタガタと音がし始めた。


「………成る程。そこにいた訳か」


目を細くして賽銭箱をじっと見つめる白。見ていると賽銭箱の上蓋が開き、中から手が出てきた。ズズッと音を立てながら手が蓋をずらしていく。するとその直後、バタンと大きな音を立てて蓋が境内の石畳へと落ちた。


「あっ」


少し焦ったような山嵐の声が聞こえる。どうやら蓋が落ちたのは予定外のことだったらしい。


「………っと。うぅーぃ………」


賽銭箱からひょこっと顔が出てきた。髪には埃がついている。


「アンタ、いつから居たの?」


白が口を開く。隣にいたはずの瀞はお茶セットを持ったまま建物の奥へ行ってしまった。


「いつって………昨日の夕方からかな。あー痛ぇ」


山嵐は首をぐるぐる回し始めた。


「ほら、昨日偽物出たじゃん?私の偽物を放っておくわけにはいきませんわ!」


「おーい、だいじょーぶかー?」


「もちろん。ただこの賽銭箱は確かに通気性抜群で丈夫だけど妖怪ひとが寝ることをちっとも考えてないな」


因みにここの神社の賽銭箱、結構昔の神主さん(本当は代わり人の他に神主が要る。今は何故か代わり人だけだが)のお手製なので、格子状の蓋を箱に取り付けただけと言う他と比べても手の込んでいない造りなのだ。


「そりゃ、素人の手作りなんだから仕方ないでしょ。それに賽銭箱は寝るところじゃないし」


「ああ、そりゃさいせん」


「…………………………………」


白が「えっ」みたいな顔で固まる。


「………すまん。悪かった。ハイそうですぜーんぶ僕が悪いですよ」


どんどん暗くなる山嵐。さっきまでひょこんと出ていた頭がまた賽銭箱の中に沈んで行くのを代は見ていた。





「あっ、よかった。元気になったんだね」


背後からの声に、代はゆっくりと振り向いた。そこには知らない浴衣の少年……見た感じ代の三つ上くらい……が立っていた。


「……あー………」


代は必死に目の前の少年が誰だったか思い出そうとした。が、思い出せない。雰囲気は何となく覚えているのだが。


「……まあ、判らなくて当然かな。ちゃんとした姿で君の前に現れるのは」


少年は髪を後ろで結んでいる頭を何気なく掻いた。多分癖なのだろう。


「初めてだからね」


すると代は何か思い当たったのか、目を大きく見開いた。


「もしかして………昨日の変な感じの山嵐さん?」


「おっ、正解正解。何で分かったの?」


少年はうれしそうな顔をして手をたたく。


「んーと………何か、感じが似てたから……かな?」


「へー……なかなか鋭いね……。あ、自己紹介まだだったかな?」


一回、深呼吸をして間をおく。


「僕は鈴之助。世にも珍しい、風鈴の憑喪神さ」


「鈴之助さんかぁ。鈴の憑喪神じゃないんだね」


代は笑顔でそう言った。それはもう、罪なほどのチャーミングな笑顔だった、と後に鈴之助は語る。


「おー、鈴之助!また来たのか!」


よっこらしょ、と山嵐が賽銭箱から出てくる。


「来ちゃいけないこと、あるかな?」


鈴之助は軽く微笑みながらそう返した。何だか迷惑そうだ。


「お前な、いくら代ちゃんが好」


「言うんじゃなーい!!」


「づぁ゛っ!」


鈴之助が投げた石が山嵐の眉間に直撃。山嵐は後ろに倒れて、今度は頭から賽銭箱に入ってしまった。縁から足だけが見えている。


「べっ、別に今のは気にしなくても……」


鈴之助は代の方を見た。代はぽかんとしていた。そのぽかんとした顔がまた可愛かった、と後日鈴之助は語る。


「ま……まあ、今回はこれくらいという事で。………ね」


もの凄い動揺っぷりを披露してくれた憑喪神の少年はそう言い残すとあっという間に境内とつながる長い階段を駆け下り、どこかへ消え去ってしまった。


「何だったんだろう?あの人……」


鈴之助が去った後をぽつんと眺める代。


「あいつはね」


「うわっ!」


いつの間にか、背後に山嵐が来ている。


「あいつはね、代ちゃんの事を好いとるのじゃ」


「えっ?」


「気づいてなかった……の?」


「山嵐。代なんだから仕方ないわよ」


少し離れた縁側から白が口を挟む。


「ああ、まあそりゃそうか。代ちゃんだもんね」


おい、納得するな。まあ、いいけどさ。


「ん?どーゆーこと?」


やはり状況を理解していないらしい代。その後ろを、夏の蒸し暑い風が掃き集めた落ち葉をサーッと舞い上げた。

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