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めぐりあわせ

これは、代が代わり人になる、ちょっと前のお話。





「むぅ〜…………せっかく携帯買ったのに、音信不通ってどーゆーことよ〜」


九六は携帯を見つめながらベッドの上で足をバタバタさせていた。


「ちょっ………ホコリたつからやめて」


要は九六にそう言った。

もうこの時点で二人は付き合っていたのである。


「えー……何で何で何で何で何でー!」


「どわーっ!もー!足バタバタすんの止めろっつったろーが!!」


「………………悪い」


いつもは怒らない要だが、変なタイミングでものすごく怒るから怖い。




「でもさー、せっかく携帯買ったのに、妹から連絡いっさい来ないんだけど。どう思うよ?」


「気にしない方がいいよ。俺も妹から連絡来ないし……。ところでさ、その携帯買ったのって昨日でしょ?」


「うぬ」


「妹さんはくろの電話番号とかメアドとか知ってんの?」


それを聞いた九六は少し固まった。


「電話番号って、なに?」



この後、要の二時間にわたる携帯電話講習が始まったことは言うまでもない。






「ふぅん、で、電話番号ってのを相手が知らないとかけられないわけだ」


九六はどうやら納得したらしい。


「そうだよ。できれば同じ質問を十二回もするのは控えてほしいけどね」


「ねえ、要。今度出かけてきていい?」


何だかもう普通の人間くさくなっているが、大丈夫か?神谷九六。


「しょっちゅう居なくなってるんだから、今更許可なんていらないんじゃない?」


「だよね。じゃ、今から行ってくるよん」


九六はそう言うとさっと起き上がり玄関から飛び出した。


「あっ!ちょ!俺も行く………」


要が玄関の戸を開けたときには、もう九六の姿はどこにもなかった。その間約七秒。


「ったく………」


要はしぶしぶ玄関に入り、扉の鍵を回した。


「俺も連れてってくれたっていいのにな〜……」


少し寂しい要は、携帯で大学の友人を呼ぶことにした。



「あ、もしもしー?」


『んー?』


「山崎かー?」


『さあー……』


「さあー、じゃねーよ。今暇か?」


『すんげー暇』


「じゃあうち来いよ」


『いいぜ。酒とつまみ買ってこうか?』


「おっ、気が利くねぇ。頼むよ」


どうやら、要の部屋は今夜は宴会場になりそうだ。





九六が要の家をでてから五分、九六はすでに白山神社の境内に来ていた。


「うー……っ。ひっさしぶりに来たわね〜……」


辺りはうっすら陰ってきた頃だ。神社の本殿に灯りがともる。九六はうーっと伸びをすると、履いているサンダルの音を立てないようにそーっとそーっと玄関まで移動した。中の人たちにはまだバレていないようだ。

次に九六は引き戸をゆっくりと開け始めた。カラカラカラカラと小さな音が、薄暗い玄関に響く。開いた隙間から中をのぞき込む九六。その時


「何をやっとるんじゃ」


背後からの声にびくっとする九六。こわばった表情だったが、後ろを振り向くとその表情もほぐれた。


「なんだ〜……伊達さんかぁ。驚かさなくたっていいのに〜……」


「フッ。コソ泥みたく帰ってくる方が悪い」


伊達、と呼ばれた白髪の老人はフッと笑うと九六より先に玄関へと入った。


「まあお入り。妹さんも待っとることだしな」


「えっ…………あーあ、教えちゃったのかーつまんないなー」


九六は頬をぷーっと膨らませて見せた。


「未来のことが分かるなんてセコすぎるよ」


「セコくない。それよりも頬を膨らませるのをやめなさい。歳を考えよ歳を」


伊達はニコッと微笑むと九六の目の前で引き戸をピシャッと閉めた。


「わっ!……こらぁ!伊達ぇ!人の目の前で戸閉めんなぁ!」


九六は慌てて戸を開けた。



戸を開けると、伊達の姿はもうなかった。目の前には薄暗い廊下の壁があるだけだ。


「この壁、絵でも掛ければいいのに」


九六はそうつぶやくと靴を脱ぎ、神社の中にあがった。


「さて、どっちだったっけか?」


九六の両脇に薄暗く伸びている廊下。たしか、どちらかが風呂場方面への廊下でどちらかが居間方面への廊下だ。





悩むこと五分。九六は左側の廊下を選んだ。進む度にギシギシギシギシと床が鳴る。廊下の先がだんだん明るくなってきた。どうやらこちらが正解らしい。



少し歩いて、やっと居間についた。そこでは伊達と白がお茶を飲んでいた。


「姉上、何の用できたの?」


いきなり白から質問が飛んでくる。


「そこはさ、まあ座ってみたいなこと言うところじゃない?」


「座るより先に答えて」


「……ったく、怖い妹だねぇ。ほら、携帯買ったんだけど白の携帯の電話番号知らなくてさ」


九六は勝手に座ることにした。丸い机を三人で囲んでいる。


「なんだ、そんなことか。じゃ、今入れるからちょっと携帯貸して」


差し出された手のひらに、九六は赤い携帯を置いた。


「おや、くろなのに赤い携帯電話か」


伊達が反応する。


「いいじゃん色なんて何でもさ。それに私九六って名前嫌いだし」


九六はそう言ってお茶を一気に飲み干した。九六の正面では白が赤い携帯と白い携帯を近づけて何かしている。


「ほお、自分の名前が嫌いとな」


「名前自体は嫌いじゃないんだけど、字が嫌なんだよね〜…。黒、ならまだいいのに何で九六、なんだろ。ほんっと気に入らない」


「父上と母上に聞いてみたら?」


白が携帯を返しながらそう言う。


「聞ける訳ないでしょ。あんな怖い人達……。で、さっき何やったの?」


九六は携帯をいじり始めた。特にさっきと変わったようなところはない。


「電話帳に私の番号とメールアドレス入れといただけ」


妹の口から発せられた聞き慣れない単語に


「白、メールアドレスって、何?」


「メールアドレスも知らないの?………そんなの彼氏に聞いたら?」


何と、この時点で白は九六が付き合っていることを知っていた。


「えーでもさぁ……」


「えー、じゃないの」


妹にあしらわれる姉。情けない。






「お二方よ」


さっきまで黙っていた伊達が口を開いた。


「わしは……代わり人引退じゃ」


そんな言葉に驚く姉妹。


「えっ!?」


「……次の代わり人は見つかってるの?」


白と九六がそういう。すると伊達はすっと立ち上がり、自分の部屋へ行ってしまった。


「………最近元気なかったのは、そう言うことだったのか……」


白が伊達の飲み残したお茶を見ながらつぶやく。



少しして、伊達が手鏡を持って戻ってきた。


「九六よ、お前はさっき、次の代わり人は見つけてあるのか聞いただろう」


伊達は手鏡を見ながらそう話す。それの返事として、九六はコクンとうなずく。


「ほら、この手鏡を見てごらん」


手に持っていた手鏡を机の上に置いた。鏡には若い、高校生くらいの少女が映っている。


「こいつが……次の代わり人?」


白は伊達の目を見た。返事は、頭の軽い上下運動のみ。


「この娘は、近いうちに必ずここにやってくる。わしの代わり人としての仕事は、その日までだ」


そういうと伊達はうっと立ち上がり、台所へ足を向けた。


「じゃ、飯にしようか。白、ちょっと手伝ってくれ」


「わかった」


伊達のあとを追う白。そして、居間にいるのは九六だけになった。


その当の本人は、机の上に置き去りにされた鏡を食い入るように見ていた。正確に言うと、鏡に映っている少女を食い入るように見つめていた。


「この娘……なんだろう、誰かにほんのり似てる気がする……。誰だ……?」


この時まだ九六はこの少女が恋人、御社要の実の妹だとは、知る由もなかったのである。



まあ、知ってても何もないけど。




九六が代のことを知るようになるのは、また、別のお話。

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