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どたばた就任!

小説初公開でございます。


作者は文才無いので、暖かな目で見ていただきたいのであります。


尚、誤字脱字等発見したら、ご指摘願いたいのであります。

もしかしたら、修正するかもしれないのであります。

このお話の主人公、御社代みやしろ しろは、高校一年の冬休みに、ひょんな事から山で遭難してしまった!暗闇の中、道無き道をさまよい続け、時には猪(こんな時期でもいるのかな)に追われたり。そうこうしているうちに、何と光る物を発見した!その光に向かって全力疾走、途中で木の根に足を取られて転んだ先が開けた石畳だった。「何だここ?」と思いつつ立ち上がると、そこはとても大きく、古びた神社だっりして!




「痛ぇ〜…」

周りを見回しながら、小さくそう言った。どうやら手のひらを擦りむいてしまったようだ。

「ここって……神社?」  

拝殿らしき建物には明かりがともっているようだ。心なしかテレビの音も聞こえる。

「人…いるのかな?」

淡い期待を胸に、代は拝殿に向かった。賽銭箱の脇を通り、幾段かの階段を上った。

 代は今、引き戸の前まで来ている。中には人が居るようなのだが、戸を開けて声をかけるのに躊躇していた。

「…………よしっ」

代は覚悟を決めて、戸を引いた。

「ごめんくださ〜い…」

中では、見た感じ六、七十の老人がテレビの前に座っていた。

「あの〜…」

代がもう一度声をかけると、老人はやっと代の方を向いた。

「おやおや、こんな時間にお嬢さんが何の用かな?」

老人(多分神主じゃないのかな)がゆっくりと代の方に近寄ってきた。

「あの…実は山で」

「そんな所じゃ寒いだろう。兎に角中へ入りなさい」

代は老人に話を遮られた。

           



「……と、こういう訳なんですよ」

代はさっきまでの出来事を事細かに話した。

「ふむ……。狸にでも化かされたんじゃな」

老人はそう言うと台所の方へと行ってしまった。

「…うっ!もう三時だ…」

代は携帯の時計を見ていた。

少しして、老人が皿を持って戻ってきた。

「若いのに大変だったろう。さ、これを食べなさい」

老人はそう言って代にお粥を出してくれた。

「あ…いや…でも」

「いいから食べなさい。元気になるから」

代は、一応遠慮したが、そう言われたので素直に食べることにした。正直、今の代にはこのお粥はとても有り難かった。





「…御馳走様でした」代はそう行って箸を置いた。

「お嬢さん、食べるときに『いただきます』を言わなかったね」

老人がそう言った。

「あ…すみません…」

代は何だか申し訳なくなってきた。確かに、『いただきます』『御馳走様』を言うのは当たり前のことだ。

「まあ、兎に角今日のところはここに泊まっていきなさい。確か布団があったはずだから…」

老人はそう言うと、今度は隣の部屋へと消えていった。この神社、意外と広いようだ。

「(お父さんとお母さん、きっと心配してるだろうな…)」         

そう思っていると、今度は老人が布団を抱えて戻ってきた。

「あったあった。この布団でよければ使いなさい。前に死んだ神主さんのだけど」

老人は聞きたくない情報を布団と共に提供してくれた。

「あ、いや…申し訳ないんですがそれはちょっと…」

「そうだよなぁ…。じゃあ、失踪した巫女さんが使ってたやつとかは?」

「あ…ですから…」

代は顔が引きつった。

「冗談じゃ。これは多分何ともないだろうから、これ使いなさい」

「あ〜…何か、ほんとにすみません」

代は深々と頭を下げた。

「気にすることはないさ。じきにここは君の物になるのだから」

老人はそう言った。

「えっ?」       

代は、老人の言葉の意味が、この時点ではさっぱり分からなかった。

「まあ、今から気にすることはない。ではお休み」

そう言うと老人は部屋と部屋とを仕切る襖を、ゆっくりとしめた。

「……私の物?…どういう意味だろう」

少し考えようとしたが、布団に入った瞬間、さっきまでの疲れが一気に押し寄せたのか、代はすぐに寝息をたてた。






「んん……」

どこからか差し込んでくる朝日が代の顔を照らす。

「もう朝か………………………………………………………………あっ!」

寝ぼけていたので暫く分からなかったが、よくよく考えてみたら昨日は災難にあって、今家にいるわけではないのだ。なのに代はすっかり自分の家に居るように感じていた。

「そうだ!おじいさんにお礼言わなきゃ!」

代は隣の部屋を見たが、もう布団は片づけられていた。

「どこいったんだろ…?」

代は少し不安になってきた。その時、この建物の玄関の方(昨晩代が入ってきた場所ではない)から物音がしたので、急いでその方向へ向かった。 そこには私服の老人がいた。靴を履いている途中のようだ。脇にはやたらと大きな鞄がある。

「どこかお出かけですか?」

代がそう尋ねる。老人は 

「いや、代わり人が現れたから、私の役目はもう終わりだ。今まで四十五年、長かったようで短かったなぁ…。では、頑張ってくれ、代わり人よ。もう少ししたら役人が来るだろうから、その人から話を聞きなさい」

と返すと、戸を開けてどこかに行ってしまった。代は、訳が分からずその場に立ちつくすしかなかった。



「私が…代わり人?」

まだよく理解出来ていない。そんな時、寝る前に聞いた言葉が蘇ってきた。

『じきに君の物になるのだから』

「そう言うこと…だったの…?」

代は力なくその場に座り込んだ。訳が分からず、暫く座り込んでいると、戸の向こうから砂利を踏む音がする。だんだん近づいてきているようだ。

「(もしかしたら、おじいさんが戻ってきてくれたのかもしれない)」

代はそう思って立ち上がった。戸の前まで来た人影は、戸を二回ほどたたくと

「失礼します」

と言って戸を引いた。代の目の前に立っていたのは、お役所の人だった。

「この度は、『代わり人』をお受けいただきありがとうございます」

お役所の男性はそう言って頭を下げた。

それに対し、代は

「あ、いや、受けてないんですけど…」

「と言っても、ほぼ強制なんですけどね」

代の言葉が終わる前に、男がそう言った。

「ここに来てしまったのが運の尽きと思ってください」

「いや、でも私には家族とか学校とか…」

「あなたのお父様は、事業に失敗し、家族で失踪しました。学校の方は、こちらで連絡しておいたのでご心配なさらずに」

男はニコニコ笑顔でそう言った。

「お…お父さんが事業に失敗!?何でまた急に!?」

代は驚いた。

「詳しくは話せませんが、あなたが『代わり人』の役を受ければご家族の安全はこちらで保証します」

「……『代わり人』って、具体的にどう言うことをすればいいんですか?」

代は取りあえず仕事内容を聞いて決めようと思った。変な仕事だったら絶対に断ってやる!

「する事ですか…。まあ、強いて言えば、ここに一人で住むことと、あとは来る人に差別なく接してあげることですかね」

男はメガネを定位置に戻しながらそう言った。

「……それだけ?」

「ええ。これだけです」

悪い話ではない。住む場所に心配せずに居られるのだし、客は適当に対応しておけばいい。しかし……

「そうそう。光熱費はこっち持ちで、しかも給料もでますよ」

「やります」

代は即答した。

「そうですか。では、また後で伺います。あ、そうだ。身長を伺っても?」

「百六十一ですけど…」

「どうも。それじゃ、また後で来ますね」

男はそう言うと神社から去っていった。


「ほんとに逃げてんのかなあ…」

試しに代は母親に電話をかけてみた。


プルルルル プルルルル

プルルルル プルルルル

『お掛けになった電話番号は、電波の届かない…』

「…ほんとに逃げてんだ……」

代の心は暗くなった。


代はしばらく畳の上で寝転がっていたが、はっと気付いたように起き上がった。

「そう言えば私、昨日お風呂入ってない」

思えば昨日は必死だったので、それどころでは無かったのだ。手のひらやズボンの膝の部分にはまだ土汚れが付いていた。

「お風呂って……どこにあるんだろ?」

代は建物内を歩き回った。途中で気付いたのだが、この神社には、拝殿はおろか本殿すら無い。一体何を祀った神社なのだろうか?

「あ、あった」

適当に歩いていると、まるで宿のような脱衣所を見つけた。一気に二十人は入れそうな広さだ。奥の方に磨り硝子の引き戸を見つけた代は、早速開けてみることにした。

「わあ!広ーーいっ!」

これまた一度に二十人は浸かれそうな湯船があった。

「この神社……一体どれだけ広いんだろ?」

不思議に思った代は、外にでてみることにした。



外は気持ちいいくらいに晴れていた。冬なのだが時折吹く風がまた冷たくて気持ちいい。境内はずいぶん広く、小さな夏祭りをやるには十分な広さだった。だが…

「ん〜……おかしい…」

外から見る限り、建物は決して大きくはない。この狭い建物にあんな風呂と脱衣所があったとは思えない。

「これは……非科学的な力がこの建物に働いてるとしか思えないわっ!」

代は、そう言うオカルト的なものが大好きな少女だった。

「…にしても、気味悪い森だなぁ」

森は、神社を取り囲むようにあった。まだ昼にもなっていないと言うのに、森の中はまるで夜のように真っ暗だった。



神社の中に戻った代は、流石にこの汚れた服のままはいやだったので、着れそうな着替えを探すことにした。

「巫女さんみたいな服とか無いのかな〜?」

代は、実はそれを内心着てみたいと思っていたのだ。

「あっ……なんだ、たすきか…」

泥棒さながらの荒らし具合でタンスを漁っていた。すると玄関(お役人さんが朝居たところをそう呼ぶことにした)の方で、聞き覚えのある声がした。

「あ、お役人さんだ」

代は漁るのを止め、玄関に向かった。


「はい、これ」     

役所の男はそう言って大きな紙袋を二つ、渡してきた。これがまた重い。

「これ……何入ってるんですか?」

片手で渡される袋を両手で受け取りながら、代はそう聞いた。すると男は

「ん〜……何つーのかな……まあ、兎に角仕事着とでも言っておきましょうかね。そうそう。因みにここにいる間は朝も夜もそれ着て下さいね」

と言って、紙袋を指さした。

「あ…分かりました…」

代はそう返事をすると、ちょっと気になっていたことを聞いてみた。

「あの……」

「何ですか?」

「お名前、なんて言うんですか?」

「あれ?言いませんでしたっけ?」

どうやら男はすっかり名乗った気になっていたようだ。

「僕の名前は、大宮光貴と言います。以後よろしく」



二人はその後少し世間話をした。大宮はそれからしばらくしてから自分の職場へと帰っていった。

「さーて、何が入ってるのかな〜♪」

代は大宮が帰ったのを確認すると、紙袋を居間(囲炉裏がある部屋をそう呼ぶことにした)に運ぶと、早速開けてみた。

「おおお〜♪」

片方の袋には白い和服が、もう片方には朱色の袴が入っていた。それと手紙のような物も。

「手紙……違った。巫女さん服の着方か。どれどれ………えっ!普通の下着は駄目なんだ〜…。ま、いっか」


服を畳んで、しまったりしているといつの間にか日が暮れかけていた。

「そう言えば、今日は朝から何にも食べてないなぁ……」


ぎゅるるる〜


「お腹減った……」

生まれてこの方、代は料理など一切してこなかった代。やったと言えば、学校の調理実習だけだ。

「くーっ……こんな事になるならもっと料理の勉強しとけば良かった…」

代は居間の畳の上に大の字に寝転がった。天井板の年輪のが、だんだんバームクーヘンの断面にに見えてくる。その時


「まったく、今度の奴はヘタレなのね!その上女だし…」


誰かの声がして、代は飛び起きた。声からすると、代と大して歳は違わないだろう。

「誰か……居るんですか…?」 

「居るんですか?じゃないわよ」

「うわぁっ!?」

背後からした声に代は驚いた。

「だ…誰でしゅか!?」

いけね!こんな時に噛んじゃったよ…

代はそう思ったが、視線を後ろにいた少女から離さなかった。

少女の見た目は、ちょうど代と同じくらいだろう。見慣れない感じの着物を着ている。若干振り袖気味だ。

「だ…『誰でしゅか』って……。くーっ!あんた達がそう言う男を引きつけるような事を平気で言うから私は見向きもされなくなったのよ!」

うがーっ!、と言うように、頭を抱えながら少女はそう言った。何だか悔しそうだ。

「あー……今のは噛んだだけなんだけど…」    

代がそう言い訳をした。

「か…噛んだ……?噛んだって言ったの?」

「まあ……一応は」

「ぐあーっ!そうやってお茶目な一面をさらけ出して男を引き寄せようっていう魂胆なんでしょ!許さんーっ!」

突然少女が飛びかかってきた。代はそれを


さっ


と、難なくよけた。代の動体視力はとても良いのだ。

しかし、代がよけたせいなのか、少女が飛びかかってきたせいなのかは分からないが、さっきまで代は柱の前に立っていたのだ。少女に特殊な能力でもない限り、柱に激突するのは免れない。


代がそれに気づいたときには既に遅かった。


ゴンという鈍い、本当に鈍い音をたてて少女は柱に激突した。                    ********


「…………っ」

目を覚ますと、自分が布団に寝かされているのに気付く。

「うっ…」

起きあがろうとしたとき、頭に痛みがはしった。

「痛っ……」

パタンと布団に倒れ、頭に手をやる。

「……ん?」

頭には何かが巻いてあった。どうやら包帯のようだ。

「何か……あったのかな?」

頭を打ったせいで、記憶が混乱しているらしい。


「あ、気付いたんだ」

目の前に少女がやってきた。その顔を見て、だんだんさっきの出来事を思い出す。

「あっ!さっきはよくもよけたな!」       

そう言ってつかみかかろうとしたら、少女に頭を抑えられた。

「こら。怪我人は寝てないと駄目だって」

そんな事、初めて聞いた。

「そう言えば、名前はなんて言うの?」

いきなりそう聞かれた。答えようか迷ったが、特に黙っておく理由もないので教えることにした。

「私の名前は、山神白っていうの」

「うそーっ!奇遇だね!私も代って言うんだよ。御社代。代理の代って書いて、しろ」

妙に馴れ馴れしいなぁ。……でも、女なのにこんなにしゃべってくれる人間は初めてだった。


********


「山神かぁ……。良い苗字だね。何だか山の神様みたい」

代が冗談混じりにそう言った。すると白は

「そうだよ」

と言った。

「えっ?」

代は聞き返してしまった。

「だから、私はこの山の神様なの」

寝ている白の目は真剣だった。どうやら冗談では無いらしい。

「聞いたことあったけど……山の神様って、本当に女の子だったんだ」

「大体は、そうだね」

あった当初とは全く言葉の感じが違う。怪我をして弱っていると言葉のとげも取れるのだろうか?

「ねえ」

白が話しかけてきた。

「ん?」

「台所から何か聞こえるんだけど……」

それを聞いた代は、台所の方を振り返ってから

「あっ!忘れてた!」

と言って、駆けていった。

「…囲炉裏使えばいいのに」

白はそうつぶやいた。そのとたん、言いようのない眠気が白を襲った。




「焦げちった……」

代は土鍋の蓋を持ちながらそう言った。

どうやらお粥をつくろうとしていたらしい。

「……他に何か無いのかなぁ」

代はそうつぶやきながら冷蔵庫の中を漁った。


「あ!良いものみーつっけた!」

五分ほど冷蔵庫をがさがさやり、冷凍のうどんを発掘した。賞味期限は……今日だ。

「これぞまさに天の助けってやつね」

代は鍋に水を入れ、火にかけるとすぐにうどんを投入した。

「え〜っと……このまま十五分ほど待つのね」

代は時計を見た。

今は七時半なので、四五分にタイマーをセットした。ちなみにタイマーはそこら辺にあった。居間に戻ると、白はぐっすりと眠っていた。

「……神様、か」

代は白の寝顔を見ながらそうつぶやいた。

その後代は、また台所に戻った。

料理初心者なので箸で突っついたりかき混ぜたりしないと気になって仕方ないのだ。




ぴぴぴぴぴぴーっ!


うどん引き上げの時間をタイマーが知らせる。

代は適当な箸を使ってうどんを二つの皿によそった。

「よっし!」

代は皿を両手に持つと、居間へと向かっていった。



居間に戻ると、白が布団から上体を起こしている途中だった。

「あ!まだ一応寝てなくちゃ」

代がそう言うと、白は

「大丈夫。もう治ったから」

と言うと、頭に巻いてあった包帯を解いた。

確かに、さっきまであったはずの傷口が無くなっている。

「すごっ!さすが神様」

代はそう言うと、箸とうどんの皿を白の脇に置いた。

「……これは?」

白は自分の脇にある皿を見ながらそう言った。

「これって……それは白の分のうどん」

代は当たり前のようにそう言った。

「白って……神様をいきなり呼び捨てすんの?」

「いいじゃん別に〜。名前同じなんだし、外見は同い年位なんだからいいじゃん」

「外見は?」

「だって、神様なんだから実年齢はもう五百歳くらいでしょ?」

「…………………」

「それくらいしか違うとこ無いんだから、呼び捨てでもいいじゃん。背も同じくらいだし」

「胸は私の方があるわ」

白は代の胸を見ながらそう言った。

「………………」

代はぐうの音もでない。確かに見た目で違いが分かる。白の方が大きいのだ。三、四倍ほど。

「……でも、今まで話してきた巫女さんの中で、代が一番一緒にいておもしろいよ(現時点では)。初対面なのに私にこんなに優しくしてくれたの、代が初めて」

白は囲炉裏の、小さな火を見ながらそう言った。

「……ありがとう。(現時点では)がなければもっと嬉しかったけど」

代も、囲炉裏の、弱々しい、しかし優しげな炎を見つめながらそう言った。



「いただきまーす」

白は早速白が茹でたうどんを口へ運んだ。

「……………固い」

白はそう言って代の方を向いた。

「え?そんなはずは…」

代もうどんを一口食べてみた。

「……………不味い」

「一体どうやって茹でたの?」

白がそう聞く。

「お鍋火にかけ十五分」

「沸騰してから入れて、十五分じゃないの?」

「………………………そう言えば、そんな風に書いてあったかも…」

虚空を見つめながら、代はかじかじと端をかじっていた。




「御馳走様。あー不味かった」

白はそう言った。それを聞いた代が

「せっかく茹でてあげたんだから、少しは感謝しないの?」

と言うと

「別に私は茹でてくれとも何とも言ってません」

と返してきた。

「え?じゃあ寝言で『お腹すいた〜……』って言ってたのは何だったのかな〜?」

代が白の顔を見ながらそう言う。……もちろん嘘である。

「えっ…?」

しかし、それを聞いた白は顔を赤くして俯いてしまった。

「ねえ、何だったのかなぁ?」

代がさらにそう言う。すると

「私は寝ている間に一体なんて事をーっ!」

白はそう言って頭まで布団をかぶってしまった。

「(おもしろい!!)」

代は心の中でそう叫んだ。




「その話、誰にも言わないでください……」

暫くして、白がかぶっていた布団から頭だけを出してそう言った。

「え〜…どうしようかな〜?」

代はわざとらしく指を顎に当ててそう言った。

「お願いしますお姉さまーっ!」

白がそう言って抱きついてきた。

「しょうがないなあ。じゃあ、私に約束してくれるならいいよ」

「約束?」

「まず、トゲトゲ言葉を止めること。それと、私と仲良くすること」

「仲良く…?」

白は、そう言われるのも初めてだった。

今までの巫女さんとは皆仲が悪かったのだ。

「……いいの?」

白が代を見つめながら聞く。

「いいのって…何が?」

「その………仲良くして…」

「当たり前じゃん。人間だろうが神様だろうが男だろうが女だろうが、仲良くするのは当然の事よ」

代の言葉を聞いた瞬間、白の目から涙がこぼれ落ちた。

「あっ……私、何か悪いこと言った?」

少し焦った代がそう言って近寄ってくる。すると白は、代に抱きついてより一層激しく泣いた。


********


何故だか涙が止まらない。

今までで、こんなのは初めてだった。


優しくて、おっちょこちょいで(現時点では)。

元来、白は山の神。女性とは上手くいかない体質なのだ。

今まで出会ってきた女の人とは、たった数分で皆険悪ムードになっていた。そのせいで失踪する人や、中には自殺してしまう人も居たのだ。


なのに……


御社代は違った。彼女だけは違ったのだ。他人とどこが違うのか、何が違うのかは分からない。

でも、違ったのだ。




嬉しかった。


********


「泣き止んでよ〜…。仮にも神様でしょ〜?ほら、しっかり!」

代はとりあえずなだめていた。

と言うのも、こんなパターンは人生史上初だからである。

「ちょっとー……」




「あ〜…疲れた」

白はそう言って布団に寝転がった。どうやらもう泣き止んだようだ。

「ねえ、さっきまで何で泣いてたの?」

代が心配そうに白の顔をのぞき込む。

「別に。何でもいいでしょ。それよりさ、お風呂いかない?」

と、白はそう返した。

「え……まあ、いいけど、沸かしてないよ?」

代はそう言った。

「大丈夫。ほら、行こ」

白は立ち上がった。

「あ、今着替えとタオル用意するから待って」

代は紙袋を漁り始めた。



二人は廊下を並んで歩いている。

「あのさ…」

代が言葉を発した。

「ん?何?」

「この神社、昼より広くなってない?」

代はキョロキョロしながらそう言った。昼間より広くなっているのは一目瞭然だった。

「そりゃ、日の光が当たらなくなるんだから広くなるのは当たり前だよ」

白は特に何でもないように答えた。


「ほら。着いたわ」




「やっぱり…広くなってる」

戸を開けた代は、我慢できずにそう言ってしまった。

「まあまあ。風呂が広くて悪いってことは無いんだから、気にしない気にしない」

白がそう言う。白はすでに一糸纏っていなかった。

「脱ぐの早っ!」

代がそう言い終わった時、白はすでに風呂場への戸をあけていた。

「よっしゃあーっ!一番乗りぃー!」

そんな声が聞こえる。

「何だか……楽しそうだなぁ」

代がそうつぶやいた途端

「ふわぁっ!?」

「あれ、こけた?」

代が風呂場に行くと、白は床から立ち上がろうとしている所だった。

「痛ぇー……あ、代!遅い!」

白はそう言った。ふつうの声なのだが響いて大きく聞こえる。

「白が早いんだって」

「そう?」

「うん」

「へー……自分じゃさっぱり分からないなぁ」

「他の人からも言われたりしなかったの?」

「他の人って………私が人間の女と一緒にお風呂入るの、今日が初めてだからわかんない」

「……そうだったんだ…じゃあ、男の人とは?」

「それはしょっちゅう」

「えーーっ!?」

「嘘〜ん」

白は悪戯っぽく笑った。どう見てもこの山の神様とは思えない。


二人はささっと体を流すと湯船につかった。冬なので、少し熱いくらいがとても気持ちいい。

「あのさ」

と代。

「さっきから質問が多いなぁ」

白は代の話をぶったぎった。

「何でそうわかるの?」

「あのさ、がついたらほとんど質問じゃん(代の場合は)」

「……(代の場合は)がついたせいで、私が何だか単純馬鹿みたいに聞こえるんだけど…」

「じゃあ、あのさ、で始める言葉、他にある?」

そう言われた代は、しばらく考えてから

「あのさかなは美味しそうだね、とか?」

と言った。白は

「何か飢えてるなあ…」

と苦笑いした。


「で、本題なんだけど、何でお風呂こんなに大きいの?」

代がそう言った。

「そりゃ、みんなが使うからよ」

やはり白は当たり前だというように答えた。

「多分、もうそろそろしたらみんな来るんじゃないかな」

白は格子窓(ガラスは無い)から外を見た。



しばらくすると、脱衣所の方が騒がしくなってきた。いろんな人の声が聞こえる。

「あ……何だか今、男の人の声が聞こえたようなきが………」

代は不安そうに白の顔を見た。白は何ともないようにしている。

「まあまあ。どうせ人間は代だけなんだから、気にしない気にしない」

白はそういって手をひらひらさせた。


そうこうしているうちに、ついに風呂場に誰かが入ってきた。

「!?」

代は開いた口がふさがらなかった。

入ってきたのはなんと…

「よう、山神よう」

狸人間(!?)だった。後ろには猿人間と狐人間がいた。

「あ、銀次さん!昨日は何で来なかったの?」

白はそう話しかけていた。

「ああ、昨日は仲間と呑んでてな」

猿人間がそう答えた。

「ときに、隣の人間のお嬢ちゃんは?」      

銀次がそう話しかけてきた。白は

「ああ、この子は今日から『代わり人』になった御社代。みんな仲良くしてやってね」

と説明した。

「で、あっちにいるのが、右から狸さん、銀次さん、幽司さん」

白は代にそう説明した。

「あ……はじめまして」

代は三人に頭を下げた。どうやら、狸人間が狸、猿人間が銀次、狐人間が幽司さんのようだ。




「あっはっはっは!そうかそうか。そりゃ悪いことしたのう」

幽司が大笑いしながらそう言った。

「ありゃわしだ。…にしても、まさか代ちゃんを追っかけてたとはなぁ」

「ほんっと、びっくりしたんですよ!?」

代はもう打ち解けたようだ。普通に話している。

「すまんすまん。森のくまさんという話を知っとるか?」

話題が突然変わった。

「幽司さん、それ前にも聞いた〜」

白が少し笑いながら言う。

「山神が聞いとっても、代ちゃんが聞いとらんじゃろ。………この山にはな、熊さんっつー妖怪熊が居るんじゃ。ある日な、熊さんが山ん中歩いとったらな、真っ白い服着たお嬢さんが、向こうの方におったんじゃ」

代は真剣に聞いていたが、他三人はすでに笑っていた。思い出し笑いだろう。

「でな?たまたま熊さんの目の前に白玉の耳飾りが落ちとったんじゃ。熊さんは、それが白服のおなごのもんじゃと思うてな、追っかけたんじゃ。そしたら、そのおなごがそれに気づいてな、走って逃げてくん。それが速い速い。このままじゃ追いつけんと思た熊さんはな、話にあるとおりに『お嬢さん、お待ちなさい。ちょっと、落とし物!』と、叫んだそうな。そしたらおなごがこっち向いたらしいんじゃが、そのおなごの顔が真っ黒に膨れ上がっとってな。つまり、おなごは自殺したもんの幽霊やったんやなあ。熊さん仰天して、しっぽ巻いて逃げ出したんじゃとさ」

代にはいまいちおもしろさがわからなかったが、他三人は大笑い。白などは水面を叩いて大笑いしていた。

「それからと言うもの、熊さんは人を見る度に逃げ出しちまうようになったんでぃ」

幽司はとても楽しそうに話していた。いつの間にか風呂には酒瓶の乗ったお盆が浮いている。


「話は変わるんですが、何で酒瓶が?」

代が首を傾げる。

「酒は風呂で呑むのが一番ダカラ〜」

化け狸はそう言うと一番に酒瓶を手に取った。

「ちょっと〜、たまにはお酒控えたら?」

白がそう言って狸から酒瓶をひったくろうとした。狸はひょいと瓶を動かし

「自分が飲みてぇからってそう言うのは止めい」

と言った。

「(なんだか、普通の人間の会話みたい)」

代はそう思った。

「お、そうだ。就任祝いに、代ちゃん。一杯どうかな?」

狸はそう言って代に酒の入ったコップを手渡した。

「あ……じゃあ、一杯だけ」

断るのも悪いと思った代は、一応飲むことにした。ちなみに彼女は未成年だが。

「ちょびっと強いかもしれないけどね」

白が笑いながらそう言った。

とにかく、飲まないことには始まらない。

「……いただきます」

「ぐっといけ、ぐっと」

幽司がそういう。

コップを傾け、酒を口に流し込む。すると、頭がかなりクラクラした。

「…やっぱ、人間には強すぎたか」

その言葉を理解する間もなく、代はお湯の中に沈んでいった。




「うぅ……頭痛い」

代はさっきまで白が寝ていた布団に寝かされていた。衣類はきちんと身につけている。

「まさか、人間にとってあれほどあの酒が強いとは思わなかったよ」

白が液体の入ったコップを渡してきた。

「これは……?」

またお酒?という目で代が見つめてくる。

「今度はただの水。ほら、飲んで」

代は、言われた通りにそれを飲んだ。味はしないのだが、頭がまたくらくらする。

「『水』って言うお酒なんだけどね」

白はにやにやしながら代を見下ろしていた。

代はまた意識が遠のいていった。



「ふう……。こんな悪戯するのも久しぶりだわ」

白がそうつぶやいて、立ち上がろうとしたとき


がしっ


と、足首を何かに掴まれた。

「ん?」

足元を見ると、手があった。手は布団から延びている。

「まさか……!?」

そう言ったとき、足をものすごい力で引っ張られ、白は畳にたたきつけられた。

「…っ………!!」

倒れている白の目の前には、気絶したはずの代が立っていた。目が虚ろになっているので、自分の意識はないのだろう。手にはそこら辺にあった。一メートル物差しを持っている。

「あ……あ………」

白は恐怖で言葉がでなかった。

「(まさか、こんな風になるなんて!)」

白がそう思っていると、突如代が持っていた物差しを振り下ろしてきた。

「うわぁぁぁっ!」

白の叫びが山にある森に響きわたった。




「どうやら、飲ませちまったようだな」

狸が焚き火に当たりながらそうつぶやいた。

「どうやら、そうみてぇだな」

銀次が返事をする。

「ま、たまにはこういうのもいいんでないですか?」

幽司が神社の方を見ながらそう言った。




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