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9 警察が壊滅状態らしいのでなんとかするしかない

「速報です。〇〇警察本部が何者かのテロ行為によって壊滅状態です。昨日の〇〇市の騒動との関連がないか調べています。〇〇県でも同じような騒動が起きている模様。……では、中継です」


 朝のニュースを見て俺は絶句した。

 テレビに映るのは銀色の奴ら。そしてそれがビームみたいなのを放っている。


 昨日見たのと同じだ。

 そいつらに銃を向ける警察たちが次々に殺されていることを除けば。


「うわー、とうとう本格的にやり出したみたいですねぇ。恐らくもうすぐは警察本部をぶっ潰しに行くんじゃないですかー?」


 映像を見ながら、あくび混じりにアズミがそんなことを言う。

 ……まあ確かに一番ダメージを与えたければ警察やら自衛隊の本部を爆破なり何なりしたら手っ取り早いだろう。


 しかしこれはかなり衝撃的だった。


 テレビの中で人が殺されている。

 どこからかの中継映像だから、決して映画とかではない。それをこんな公で放送していいのかと思ったが、取材している記者も恐らくそんな場合ではないのだろう。


 俺は吐き気がした。


「あらぁ、拓也、朝っぱらから何のドラマ見てるのー?」


 今日は休日。

 いつもより随分と寝坊した母親が、眠たそうな声でそう言って起きてきた。

 しかしそれに答える余裕などない。画面の中で飛び散る血に、嘔吐を堪えるので精一杯だった。


「――ああ、これは本物ですよー? 〇〇警察本部ってとこがやられたんですって」


「へぇ、そうなの。……本物?」


 母が訝しげな顔をしている。

 ああ、気持ち悪い。朝からこんな映像を見たら胸糞悪すぎるだろう。


「よし。……さぁて、今からあそこに行きますかね」


 あそこってどこだ。

 問いかける暇もなく、朝食のパンを咥えたままでアズミは俺の腕を引っ掴む。

 そのまま窓の方へ走り――なんと、勢いよく飛び出した。


「うわっ、おえ。窓から出るなぁ!」


 俺は怪力ゴリラに引き摺られ、どこかへ連れて行かれるようだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あれがネタという可能性は?」


「ないですっ。至急行かなきゃです!」


「わかったわ。今すぐ支度するから待ってなさい」


 智鶴の家に引っ張られていった俺は、ようやくアズミから解放された。

 どうやら先ほどの騒動が起きていた警察の本部へ行くつもりらしいが……本気か? あんな大虐殺の最中にダイブ?

 ……無理だろ、絶対。


 しかし智鶴は少しも戸惑う様子がなく頷き、すぐに部屋から出てきた。

 カジュアルな青のワンピースを着たその姿はまるでどこかのお嬢様のよう。けれどこれから行く場所を考えれば、とてもじゃないがそぐわないのではないかと俺は思った。


 が、口に出したら首を切られそうだ。おっかない女であると昨日の時点で知れたので、余計な口出しはしない。


「じゃ、異能戦隊出動ー!」


 アズミのいやに元気な掛け声と共に、俺の体が持ち上がる。

 またやられた、そう思う暇もなく、米俵の如く担ぎ上げられる。横を見れば智鶴も同じようにされていた。


 両肩に人間二人を乗せるとか、ゴリラ以上じゃないだろうか。

 アズミ曰く、重力操作でうまいこと調整しているらしい。ちっとも重くないのだそうだ。


 ……ともかく。

 俺たちを担いだまま、アズミは現場へと駆け出した。何の乗り物に乗るわけでもない。走っていくのだ。

 しかしその足の速さといったら新幹線を遥かに超えている。息が止まりそうだった。


「オロロロロ」


 先ほどの気持ち悪さもあって、スピードに耐えきれず漏らしてしまう。

 それが風に乗ってどこかへ飛んでいく様を俺は見ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 到着した頃――と言ってもあっという間だったが――そこは崩壊していた。

 銀色の生物たちの光によって破壊された建物。建物の下敷きになったり首を吹き飛ばされたりしている人々の亡骸。


 もはや、どうしようもないほどに終わっていた。


 アズミは俺たちを下ろすと、はぁとため息を吐く。


「あー、遅かったみたいですねぇ。警察組織は崩壊って感じですか」


「そのようね。仕方ないからあの宇宙人どもを直ちに始末してしまいましょう」


 「残念残念」と笑うアズミと、まるで動揺していない様子で風刀を放った智鶴。

 どう見ても普通じゃない。


 銀色の奴らの体が真っ二つになった。一気に五匹を仕留めた智鶴は涼しい顔である。

 どうやら俺もやるしかない、そう思い、こちらへと攻撃を仕掛けてこようとする敵へ叫んだ。


「幻惑の光!」


 ――恥ずい。恥ずかしすぎる。


 俺の目には何が変わったのかはわからないが、恐らく銀色の奴らにとっては大きな変化があったのだろう。

 変な声を上げ、無茶苦茶に攻撃し始めた。俺の体スレスレをビームが通り抜ける。


「うわっ。もしかして逆効果だったか!?」


「うーんと。恐らくはあいつらの苦手なものの幻影を見せちゃったんでしょうね。それで激昂させたと。……助かりましたっ!」


 ピンク髪がバサッと揺れたかと思えば、直後に遠くで同じ色の輝きが見えた。

 どうやったらこれだけの距離を一瞬で動けるのだろう。チートすぎやしないだろうか?


 そのまま彼女は、軽々と銀色の異星人を吹っ飛ばしていく。

 アズミの辞書に容赦という言葉はないのだろう。全員が全員、即死している様子だった。なんとも凄まじい……。

 残りは智鶴が一気に処理。俺に出番はほぼなかった。


「まあ、隙を作ったって意味では役に立ったってことにしとくか」


「本当にあんたって無能ね。呆れるわ。それならまだ、ナイフでも握った方がマシなんじゃないかしら」


「いやいやそれ、めちゃくちゃ怪しまれて職質されるだろ……。智鶴さん、物騒なことを言うのはやめてくれよ」


「何かしら? 負けた雄犬が吠えているけれど聞こえないわ」


 悪意たっぷり。超毒舌。

 美少女に言われると結構傷つくなあ、などと思いつつ、しかし俺は余裕の笑顔を作っておいた。


 今回の事件はあっさり片付いたが、しかしかなり大変なことだと思う。

 ここは街中だ。もちろんあいつらに破壊されて見る影もないが……。ということは、見えている以上にたくさんの死傷者が出たはず。そしてこの騒動はこれで終わらないだろうということは俺にもわかっている。


「敵とやらがどれほどの数いるかは知らないが、他の襲撃も確実にあるはずだよな……」


「これ、見なさい」


 考え事の途中、智鶴から強引に渡されたのは彼女のスマホだった。

 そしてその画面に映し出されていたのは。


「やっぱりか」


 他の警察、自衛隊などの組織が徹底的にやられている。おもちゃか何かのようにぐしゃぐしゃになる画像が次々とネット投稿サイトにアップされていた。


「アズミ、拓也、行くわよ」


 すっかりリーダー気取りの智鶴が俺たちにそう命じる。

 俺は一体何をやっているんだろう。そんなことを思いながら、彼女らに付き従って次の場所へ向かうのだった。


 ヒーローは楽じゃない。というか今すぐにでも辞めたい……。

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