8 会議?
「さてさて、ようやく拓也くんが大人しくなりましたので、早速会議を始めたいと思いまーす」
今いるのは俺の部屋。
そこに、ピンク髪の少女と黒髪の少女が、まるでここにいるのが当然だと言いたげに堂々と座っている。
対して俺は部屋の主でありながらそんな彼女らに文句が言えないでいた。というか言っても無駄だろう。
「会議? どんな会議なのかしら」と智鶴。
「もっちろん、私たちのこの……んーと、まず、能力についてですね」
そうしてアズミは何やら説明を始めた。
「改めまして。まず私の能力ですが、これは『重力操作』っていいますっ! あらゆる物体にかかる重力を調節して、どんな物でも軽々と持ち上げられちゃいまーす」
「よく漫画とかである、宇宙に行ったら地球人が重力の関係で怪力になる……みたいなあれか」
「そうです。ダイセーカイ!」
身振り手振りが大きいしうるさい。
が、もはや何か言う気すら起きなかった。
「それであたしのが『風刀』。見えざる刀で物体を切断する、だったかしら? いわゆるかまいたちよね」
「一つ疑問なんだが」俺が口を挟んだ。「智鶴さんはいつアズミにそんな恐ろし……じゃなくて凄まじい力をもらったんだ?」
「あんたを捕まえるために決まってるでしょう。勝手に逃げ出した時、『これあげます』って言われて、なんだか突然使えるようになったのよ」
当たり前のように言われましても。
もしかすると、智鶴はオカルトやらファンタジー的な物が実在すると思っているタイプの人間なのかも知れない。今までの俺なら馬鹿にしていたが、ここまで色々と見せつけられてしまったら彼女の方が正しいように思えてくるから怖い。
「ささっ、それで拓也くんのは『幻惑の光』ですけど、使い慣れてきました?」
「幻みたいな奴を発動させる的なあれだろ。一応は使えてる?みたいだが、本当に幻覚剤とかを飲まされたんじゃないんだよな?」
「もちろん。幻覚剤だなんていうものは何だか知りませんが、あれは立派な異能力です! 光によって幻覚を生み出し、対象を惑わすことができるのです」
決めポーズ的なものをとりながら、そう言うアズミ。
ますます信憑性がないが、仕方ないので信じておくとする。
――そして。
「では、拓也くんたちのお役目を説明しまーす」
ピンクのゴスロリドレスを揺らしながら踊るアズミが、どうやら重要そうなことを言い出した。
「拓也くんには散々言いましたが、お二人にはこの世界を救っていただきたいのです。もちろん私と、三人で! 今、この星には危機が迫っています。見たでしょ? あいつらですっ」
「見たわ。あのような怪物、常人には倒せないでしょうね」
「そこで、異能戦士であるところの私たちが、やっつけちゃおうというわけなのです」
異能戦士って何だ。初耳なんだが。
「やっつけるったって、あいつらが本物の殺人鬼だったとして、俺らが敵うのか?」
「もちろん勝てるに決まってるじゃないですか! 異能戦士たちよ、諦めるな。前を向け、立てぇ!」
どこから盗んできたんだ、そのセリフ。
というか宇宙人がこんなこと言うはずがない。俺の中での違和感が確実なものへと変わる。こいつ、一体何者なんだ?
しかし俺らに宿る異能力とやらは本物らしいし、全部を疑うわけにはいかなかった。そして『世界を救う』とやらを拒む権利も、どうやら俺にはない。
つまり俺らは、悔しいがこの自称謎の美少女の言いなりになるしかないのだ。
「敵は、いつ攻めてくるの」
すんなり敵とか言ってしまっている智鶴。まさかリアルでこれを聞くとは思っていなかった。
しかし俺が目を逸らしたがっているだけで、本当に侵略があるのかも知れない。そして戦争のように、当たり前に敵味方と言う時代が来るのかも……。
俺は少しゾッとした。
「あいつらは予測不能ですからねぇ〜。次は明日かも知れませんし、はたまた一年後かも。あいつらも今回の失敗を覚えてどんどん進化するでしょうから油断は大敵です!」
進化するのか……。
俺はあいつらが進化した姿など見たくもない。実際、俺は目の前で女の人が死んだのを見た。
あれ以上の虐殺が起こるというのだろうか。それも、もしかすると明日かも知れないのである。
「やばいじゃねえか……」
「だからやばいのよ。あたしたちがやらないで誰がやるの」
「智鶴さんがやってくれよ」
「あんたが主役なのよ、リーダー」
え、俺がリーダーなのか。
智鶴に睨まれて、俺は断れなくなる。俺の理想の美少女を体現したような容姿の彼女は、俺の心を見事に鷲掴みにした。
と言っても、俺は清楚系の女子が良かったんだがな。
「どうやら話はまとまったようですね。じゃ、よろしくお願いしますよ、皆さん! えいえいおー!」
こちらも全然清楚要素のないアズミが、ニコニコ笑顔でそう言った。
グダグダの会議はこうして幕を下ろし、俺は深く深くため息を吐いたのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――俺はこうして不本意ながら、謎の異能力集団とやらの仲間入りを果たしたのだった。
しかしまさか、翌日にあんなことになるとは想像もしていなかった。