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7 俺 VS スーパー美少女・怪力ゴリラ

 俺が向かうのはもちろん交番。

 家に帰ったらアズミに捕まるのがオチだし、学校へ行っても智鶴に見つかってしまうかも知れない。

 だから俺に残されている選択肢は、交番ただ一つなのだ。


「ふはぁ、はぁっ」


 ずっと運動不足だったせいかして走るのが辛い。すぐに息が切れてしまう。

 しかしここで逃げ切らなければ、変な集団の仲間入りをさせられてしまう。それだけは嫌だった。


 交番が遠くに見えて来た。

 なんだか警官が慌ただしそうにしているのは、朝の事件のせいか。というか、朝の事件はやはり実際に起こったことなんだな。

 ともかく、早くあそこへ――。


「見つけ、ましたー!」


 その瞬間、ピンクの少女と思い切り衝突した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「う、うわぁっ」


 そいつはブスだった。ブスでピンクで変態だった。

 言わずもがな、アズミである。


 なんでこいつがここに。そう思う間もなく、俺は『幻惑の光』の力を使う。

 これはどうやら自分や他人に幻を見せるものらしい。ので、俺が恐ろしい化け物に見えるように、自分を幻の光で包んだのだ。だが、


「バレバレですよ拓也くん」


 彼女は騙せなかった。


「このアズミちゃん、頭がすごくいいのです。ですから目の前に般若の怪がいようとも、決して慌てたりはしません。拓也くん、覚悟――!」


 このままじゃやられる。

 俺には残念ながら、この怪力ゴリラと戦う力はない。俺はあくまで普通の男子中学生であり、それ以上の力はないのだ。

 だから、せいぜい、幻で目眩しをすることしかできなかった。


「わっ、眩し!」


 おかげで狙いを外したらしいアズミ。彼女の腕が、まっすぐ俺の体を跳ね飛ばしていた。

 本来であれば両腕で抱きかかえられる予定だったのでそれよりはマシだが……しかしものすごい力で飛ばされたおかげで、俺は民家の屋根を越えて空へ舞い上がった。


「わぁぁぁっ」


 これ、落ちたら絶対死ぬよな。死なない奴いないよな。

 まずい。


 どうしたらいい? そんな声が頭の中に響くも、やはりどうしようもなかった。

 落ちる。落ちる落ちる落ちる落ちる落ちる――。


「――風刀」


 俺の頭が地面に激突する直前、突然に地面から風が吹き上がった。

 それは俺を包み込み、優しく持ち上げる。そのまま俺はゆっくりと下へ落下し、地に横たわった。

 怪我はない。痛みもない。つまり俺は、助かったのだ。


 この不可解な状況に首を傾げ、俺は周囲を見回した。

 するとそこには彼女がいた。


「これがあたしの能力、『風刀』。見えない風のカッターを操り、その風力の応用で今のようなこともできるの。どう? 驚いたかしら」


「智鶴さん……!」


 彼女を見るなり、安堵に緩んでいた頬がこわばる。

 この美少女、俺を待ち伏せしてやがったのか……! しかも助けてくれやがって。

 とにかく逃げなくてはとまたもや思う。しかし今度こそ逃がしてはもらえなかった。


「風刀」


 指先に痛みが走り、そこから血が滴り落ちる。

 見れば俺の人差し指が千切れかけていた。


「ぎぃぃぃぃぃぃぃっ!」悲鳴を上げ、飛び上がる。傷を目にした瞬間に痛みがさらに激しくなり出し耐えられないほどのものになっていく。


「無謀なことをするからよ。今度逃げ出そうなんてしたら、今度は首が飛ぶから気をつけた方がいいわ。あたし、苛烈なの」


「ひえっ」


 美少女――智鶴が近づいて来る。

 彼女が俺に何かをしたようなそぶりはなかった。ただ、呪文のようなものを呟いていただけ。


 俺はとんでもない恐怖に駆られた。

 今まで目を背けようとしていた事実を、今になってようやく認識せざるを得なくなる。

 俺には変な力がある。そしてまた、智鶴も同じだった。


 異能力とやらは確かに実在するのだ。非科学的であろうが非現実的であろうが、あるものはあるのだから仕方ない。

 あのピンク髪の少女の言葉は嘘ではなかった。


 だが、そんなことを言われて信じられるだろうか?

 もしもそれであれば『世界を救ってくれ』というのも本当であるということになる。でもそれはさすがに――。


「智鶴ちゃん、捕獲お疲れ様です」


「何でもない仕事だったわ。でも力を試せたしいい運動になったわよ」


「そうですか〜。その力を使えば、智鶴ちゃんは最強ですもんね。拓也くんにも見習ってほしいくらいですよ」


 そんな会話が背後で聞こえて来る。

 俺は先ほど、ヒーローにはならないと言い切った。けれどその決心が、ボロボロと音を立てて崩れていく。


 ヒーローとやらになるしかないのだ。

 もしも拒否すれば、今すぐ俺の首が飛ぶ。だから俺に拒否権はない。


 あの銀色の奴ら――殺人鬼たちとことを構える他ないのである。


「はぁ……。なんで俺がこんなことに」


 俺はスーパー美少女と怪力ゴリラへ、大人しく負けを認めたのだった。

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