5 本物の美少女現る
「あいつらはこの星、そして世界を滅ぼそうとする悪者です。わかりますか?」
「わからん。お前の頭の構造が」
「いや〜、私のこと変人だと思ってますでしょ?」
当然ながら思っている。
ピンクで統一された容姿、それに言葉遣いとかはギャルっぽくもある。
どこからどう見ても、厨二病を拗らせたようにしか見えないのだ。そんな彼女の言葉が信じられるかといえば、その全く逆だった。
「で、さっきのはもしやお前の仕業か? 昨日みたいな変な幻覚を見せて」
「ああ。あれですか! あれは私がやったんじゃありませんよ。拓也くんの異能力です!」
「戯言はいいから、あの状況の説明をしろ」
強く言うと、さすがにアズミもふざけるのをやめたらしい。
少しばかり――ほんの少しだが――真面目な顔になった。
「拓也くんが驚いてることもわかってます。でもこれからのことを考える以上、言っておかなくちゃですよね。あの女の人は、死んだんですよ」
――は?
「だから死んだんです。残念ながらですけども。もちろん、殺したのはあいつらです。もしも拓也くんと私がいなかったら、被害者はあの何十倍にもなっていたでしょう。それを阻止できただけでも喜ばなくてはいけないのです」
このアホは、何を言っているのだろう。
あれが本当だったとしたら。あの銀色の自称宇宙人たちが本物だとしたら――。
考えたくもなかった。
「じゃあ、行ってくる」
俺は全てを頭から追いやって、アズミから目を逸らす。
もうそこは学校だった。もうとっくのとうに遅れているだろうが、仕方ない。
「え、ちょっと待ってくださいよ〜」
そんな声が聞こえたが、俺はそれを振り切って走った。
どうか、この悪夢から今すぐに覚めますよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの騒ぎは、本物だった。
すぐにパトカーが次々にやって来る音がしていた。学校では「何があったんだ?」と大騒ぎ。
俺はそれでも、騒動を無視していた。俺が見たあれが現実なんだと信じたくなかったから。
……頭がズキズキする。早く家に帰りたいなとぼんやり思った。
そんなことを思いながら、やっと授業を終えた。
そして「遊びに行こうぜ」とクラスメートに誘われたのを断り、足早に校門を出る。
外にはまだ警察がウロウロしている。尋問されないように遠回りをして、住宅地に入った。
「あっ! 拓也くんハッケーン!」
幻聴だろう。きっとそうだ。
こんな人目のつくところにピンク髪自称美少女がいるはずがない。
早く帰ろう。寒気がする。風邪でも引いたかな……。
「あ、あの。あなたが山崎拓也さん……でいいのかしら?」
ん?
今のは聞いたことがない声だった。それに思わず反応してしまい、俺は息を呑む。
そこには、黒髪のセーラー服美少女がいた。
「あぇ……」
「何よその腑抜けた声は。あたし、あなたを待ってたのよ」
黒髪美少女がズンズンこちらへ歩いて来る。
高鳴る胸、それに反して理性的になれと叫ぶ俺の心の声。
これは俺の幻だ。きっとそうに違いない。そうだ、またアズミの悪戯……。
――?
こちらへやって来る美少女の奥、そこにニコニコと笑うピンク髪の姿があった。
あれ? じゃあもしかして、この美少女は本物……?
俺の頭は大混乱中である。朝のショッキングな出来事、そして再びの意味不明な状況。
この寂れた住宅街にいるのは俺、美少女、変態豚女の三人。
とりあえずアズミのことは今は置いておくとして、どう考えても美少女だけが異質だった。
「おいアズミ。これ、どういうことだよ?」
俺はひとまず美少女の処遇を後回しにし、遠くの彼女に問いかける。
ゴスロリドレスを揺らし、アズミはビシッと決めポーズを取ると、クルンクルンと前方倒立回転跳びをしながらこちらへやって来た。一体どうやっているんだ。
「今日、早速あいつらが襲って来たんで、いち早く仲間を作らなくちゃじゃないですか。そこで、たまたま帰り道で出会った女の子ちゃんに声をかけたってわけですよ。拓也くん、どうやら謎の美少女がお気に召さないようだったので〜」
「で、あたしに何の用なの?」
黒髪美少女が詰問してくる。
が、俺は知らない。アズミを睨めば、「はいはい」と笑い、
「この女の子ちゃんをメンバーに引き入れようというわけなのです! いえーい!」
何がいえーいなのかわからないし、大体この娘誰だよ。
俺は呆れて言葉も出なかった。
でも、今度こそ本物の美少女が現れたのは喜ばしいことかも知れないななんて思ったのは内緒だ。