20 平凡すぎる日常
あんな大事件が起きたのだから当然、しばらくは世界中が大混乱となった。
しかし死傷者は割合少なく、全世界的な争いであったことを考えればこれだけの被害で済んだことが不思議なくらいだろう。
ただまあ、破壊されてしまった施設やら都市やらがあるので、その復興にどれくらい時間がかかるかはわからないが……。
それでも各国政府が真面目に事態が落ち着くように手配したため、なんとか世界は平常に戻りつつある。
連れ去られたのは主にこの国の人々だけに留まっていたが、それでもネットなどでは大騒ぎ。
あの体験は幻覚だったのでは、とか、UFOを研究して宇宙進出を図ろう、だとか。
まあ色々な議論があるが、それはさておき。
「新聞とかがドカァっと詰めかけてくるかと思ってたのに、意外と誰も来ないもんだな……」
「そりゃそうでしょう。あんな騒動の中であたしたちのことを覚えてる人間なんてそう多くはないもの」
「それにしたって、一応は世界を救ったヒーローなわけだろ……?」
地球に帰還してからも、世界中に残っていた異星人たちと戦ったり交渉したりと色々大活躍だったのだが。
まあ、それは公にならないよう俺の幻で細工してあったので、多くの人々は知らない。
「ともあれ無事にことが済んで良かったじゃないですかー。あれから数日経っちゃいましたけど、せっかくですからお祝いに何かご馳走でも食べましょ!」
アズミがゴスロリドレスをヒラヒラさせながら飛び跳ねている。
あの事件からはすでに二週間ほど経っており、お疲れ様会を開くにはもう遅いような気がするが……いいだろう。
「じゃ、俺の家で焼肉パーティーでもやるか」
「そうね。後で行ってあげるわ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そういうことで焼肉パーティーが開かれた夜のこと。
母さんが肉を焼き、俺たちに振舞ってくれる。その様子は『いつも通り』なはずなのに、とても安心してしまう。
「どうぞ、召し上がれ」
俺たちはそれを、談笑しながら食べる。
母さんの前なので皆は変な会話はしない。五日前に再開された学校の話などをしていた。
「生徒一人と教員二人が亡くなったらしいけど、それ以外は前まで通りでやってます」と智鶴は母さんに言った。「本当に騒ぎのことなんてなかったみたいに」
「そうなの。それはそれは……。でもあなたたちは良かったわね、無事で。わたしは変な人に連れ去られてた時、気絶してしまったからよくわからないのだけど」
「あたしも捕まって、怖かったですよ。出られたので良かったですけど」
もちろん嘘だ。彼女はバンバン異星人たちを倒していたのだから。
でもこんな会話をできることも、なんだか嬉しい。俺は思わず微笑を浮かべ、アズミに頬を小突かれた。
その時ふと、俺は違和感に気づく。
「……そういえばお前、なんでここにいるんだ?」
世界を救うヒーローごっこは終わったはずなのにどうしてまだ謎の美少女役がいるのか。
その謎にやっと思い至ったのだ。
ちょうど母さんがおかわりを入れに行ったので、アズミは話し出した。
「だってだって、私の真の姿を見せちゃったんですもん。そんなので私の星に帰れるはずがないじゃないですかぁ。殺されちゃいますよ」
「じゃ、じゃあ……もしや俺の家にずっと住む気……なのか? まさか、な?」
「お母さんにオッケーは取ってますよ? ってことで、あと何年かは住まわせてもらう予定でーす。改めてアズミちゃんをよろしくお願いしますっ!」
思わず絶句する俺に、智鶴が何か非難めいた目を向けてくる。
俺はどうやら、これからも彼女らに振り回されることになりそうだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
中学に行き、受験勉強をする。
そんな当たり前の平凡すぎる毎日が戻って来ても、全く前と同じではない。
朝、俺を叩き起こしに部屋へ乗り込んでくるアズミ。
かと思えば家まで迎えに来て、俺を学校まで連れていく智鶴。
自称美少女(正体はスライムだが)と、本物美少女に囲まれる生活。
俺は周りから「ギャルと生徒会長に二股してんのー?」などと揶揄われながら、それでも平穏な日々を送っている。
もうすぐ高校に進学する予定だ。
頑張って、智鶴と同じ高レベルな高校に受かることができた。別にこれは一緒の学校に行きたいとかじゃなく、俺が受験を落ちたら散々に言われただろうから、そのことで安心しているだけだ。
けれどもアズミは相変わらずの居候。
そりゃまあ身分証もないし入学はできない。しかしそんな彼女を追い出す気になれないのは、意外にも彼女のことを気に入りつつあるかも知れなかった。
時間が過ぎるにつれてあの騒動の記憶は遠くなる。
そうして俺は高校入学の準備に忙しくし、すっかり忘れてしまっていたある日のことだった。
「じゃじゃーん、謎の美少女アズミ再来!」
突然部屋に押し入ってきたピンク髪の少女。
俺は彼女を振り返りもせず答えた。
「どうしたよアズミ。今は俺忙しいんだ。だから遊びは後で……」
「拓也くん、お願いがあります。――私と一緒に世界を救ってください!」
――は?
俺が声を漏らす前に、窓から智鶴が転がり込んで来る。そして言った。「街に変なのが現れたわ。あんたたち、いくわよ」
また何かが始まった予感に背筋が冷たくなる。
そして窓の外を見てみれば、そこには無数の怪獣が暴れ回っていた。
俺の平凡な日常はまた終わりを告げる。
そして、頭おかしい少女たちとのヒーロー劇の再演が始まるのだった。
〜完〜
続きそうですが続きません(笑)
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