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19 戦い終わった後で

 あの荒廃した星の地下監獄から人々を解放すると、俺たちは地上へと脱出した。

 しかし何しろ大勢の人々を連れているものだから移動が大変だった。あちらこちらで衝突が起き、それこそ戦いの時より死傷者が出るのではないかと心配したほどである。


 だがまあ移動作業はなんとか無事に終わり、皆が地上へ出た。

 幸いにもここの大気は地球と似ていて息ができるから、心配は要らなかった。


 そのまま帰ろうとしたが、智鶴が「立つ鳥跡を濁さずよ」と言って、この星の復興を手伝おうと言い出した。

 確かにこの星は廃れているし、地下施設も俺たちがかなり破壊してしまったのだ。


 軍部が悉く壊滅してしまった――というか壊滅させたのだが――ので、管理する者がいなくなってしまった。このままでは異星人たちは全滅するだろうというのだ。


 俺は別にどちらでも良かったのだが、アズミもなぜだか積極的だったので協力せざるを得ず。

 あちらこちらの建物を補修したり、食料を分け与えたり……。幸いにも地球人が色々な菓子類などを持っていてくれたおかげで、異星人の人々から感謝された。


「民衆は、この戦争には批判的だったんですよ。地球に仕掛けて来たのはおそらく軍部でしょうから、この星の人々に罪はないんですよね〜」


「戦争って大抵そういうもんだよな……」


 銀色星人たちはどうやら大抵が温厚な者ばかりらしい。

 軍部の、人間を見たら射撃してくるという過激な様子とは大違いだ。


 かくして彼らを手伝った俺たちは、助け出した大勢を引き連れて地球に戻ることに。

 異星人の使っていた宇宙船にある程度の人員を詰め込み、地球へ。

 そして俺と智鶴とアズミの三人は、ここまで来た方法と同じようにして帰るのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「アズミ。とりあえず話を聞かせてくれ」


 一面の夜空――と言っても幻だが――を眺めながら、俺はそう言った。

 今は『風刀』と『幻惑の光』の合わせ技で宇宙を走行中。それにしても宇宙を走るというのはなかなかに慣れない感覚だ。


「アズミがスライムなのはわかったわ。でもどうやってあの魔人を倒したのかがわからない。そもそもあいつは未来予知能力者なのでしょう? それであれば、アズミがどんな姿になったところで勝てないはずだわよね? おかしいわ」


 アズミは俺たち二人の言葉に「う〜ん」と唸ると、説明を始めた。


「そうですねぇ。

 まずですけど、智鶴ちゃんの推測は合ってます。私ってば今でこそあなたたちの姿に似せてますけど、元々は私の星で一番の可愛さを誇るウネウネ生物なんです!

 あなたたちの言うスライムなんでしょう。スライムって響きが可愛いですねっ。

 それでですが、あのでかい化け物は予知能力は持ってませんでした」


 色々ツッコミたいところが盛りだくさんだ。

 まず、スライム基準による可愛いとは何なのか。しかしそれよりも――。


「予知能力、え、あいつ持ってなかったのか?」


 でもそれではおかしい点がさらに増える。

 俺たちの行動を予測したこと。そして本人がそれを肯定したこと。


「つまりあれはハッタリだったと言うこと?」


「ハッタリっていうのとはちょっと違いますね。あの化け物は力は持ってましたけど、予知じゃなかったんです。何だったかわかりますか?」


 自信満々な笑顔で俺と智鶴を見回す。

 俺たちが一様に首を振ると、アズミは胸を張って言った。


 ならば私がお教えしましょう。あの怪物の正体、それはズバリ『精神感応』の異能を持っていたのです!」


 精神感応。

 それはいわゆるテレパシーのことだ。


 でも……あの悪魔のようなラスボスが、そんな力を?


「そうなんですよ! あの化け物、自分の能力言わなかったでしょ? それでピンと来たんです。そうとなればこっちの勝ち、無機物になってしまえばいいだけですから!」


「それにしてもアズミ。どうして今までその力を今まで使わなかったんだ? お前のその力があれば今までの難所だって」


「それはですねぇ。私もそうしたかったんですが、決まり事があったからなんですよ。

 私はこれでも『謎の美少女』として地球へ送り込まれた者ですからね。当然、他の仲間たちから命令されてたんです。己の姿は決して晒すなってね」


 なんだかややこしい話になってきた。

 想像はしていたが、アズミも異星人である。そして軍隊の下っ端みたいな感じなのかも知れない。


「もしや全てが片付いた後で地球を乗っ取られたりは……しないよな?」


「心配ご無用ですよぅ! 私がそんなことをする風に見えますか? 見えませんよねっ!?」


 確かに銀色の奴らに比べれば幾許かはマシに見えるが、こいつの正体がスライムである以上はわからない。

 だがまあ、今まで俺たちに協力してくれたのだし、一応信じるとしようか。


「その命令を破るしかあの状況を切り抜ける方法はなかったということね。納得だわ」


「そういうことなんです。もしもあいつが予知系能力だと思い込んでしまってたら思い付かない手でした」


「なんであいつが予知じゃないとわかったの?」


「なんとなくの勘です!」


 ――勘で動いてたのかよ。

 ともかく、謎は解けたということだろう。見破ったのが勘というあまりに頼りないものであれ、無事に倒せたのだからそれでいい。


「はぁぁ。俺の出番、なかったな」


「あんたはヒーローにはならないんでしょ」


「いや、そうは言ったけども。俺だけ活躍してなくね?」


「してましたよっ。拓也くんがいなかったら『幻覚大作戦』はできなかったわけですし! もっとも、あのでかい化け物には何の効果もありませんでしたけど!」


「だよなあ」



 そんなことを言い合いながら、俺たちは笑う。

 そしていつの間にか地球が見えて来たのだった。

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