17 ラスボス……的な?
「あれ……?」
いかにも最後の部屋といった感じの雰囲気を漂わせている、赤い扉の一室。
しかしそこはもぬけの殻であった。しかも、俺の足元には三体の異星人の死体が転がっている。
仲間内で殺し合いをしたのだろうか?
しかしいくら俺の幻覚によって仲間内で争ったとはいえ、このように胴体が真っ二つになっているなど不自然に思えた。
「可能性としては、敵の大将がなんらかの理由で子分を殺したって感じですかね?」
「う〜ん。それにしたってこんなバッサリと殺すか?」
「やる奴はやるでしょう。問題は、大将がどこに行っちゃったかってことです」
アズミの言う大将――つまりラスボス的な奴は、一体どこへ行ったのか。
ここに智鶴がいるのではと考えていた俺は拍子抜けすると共に、不安感を募らせた。
変な目に遭っていなければいいが。
「とにかく、次に行くぞ」
「はいっ」
しかし、ラスボスはなかなか見つからない。
代わりに人間の代表とされていた男を見つけてしまい、不信がられることになる。
「き、君たちは人間かね?」
「あ、はいっ! えと、こっちのが地球人で……」
相手は国の偉いさんらしい。おそらく宇宙人と交渉し、ライフル銃を与えたりしていたのも彼だろうと俺は思った。
余計なことを言いそうになるアズミの口を塞ぎ、俺はとりあえずその男を安全なところへ案内する。
男からは色々な話を聞けた。
とりあえず、この施設に何千万という数の人々が押し込められていること。そしてさらに次々と連れて来られた人は増えていること。
そして、力を貸せば解放するとの条件を突きつけられたことなどなど。
「まるでSF映画だな。……ともかく、俺たちは地球から派遣された特攻部隊です。もうすぐ皆さんを連れ出します」
「えいえいおー、です!」
そんなわけで俺たちは素性を偽り――もちろん、先ほどの説明で信じてくれるわけはないだろうが――他の人々が囚われている場所、そして智鶴を探し、さらにさらに進んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アズミの異能力があれば、長い距離を走るのも辛くない。
普通より三倍ほどのスピードが出せる。アズミは例によって俺を担ぎ、走っていた。
「お前、血だらけなのに全然平気なんだな」
「この赤いのは血に見えますけど、体液ですので。体液は失われても勝手に生成されるので問題なしなんです!」
「本当に異星人なんだよな、アズミは」
ふとそう言って、アズミを眺め回してみる。
こんな血みどろの戦いの中でも余裕たっぷりの笑顔を浮かべているアズミは、確かに人間ではなかった。
その佇まいは力強くてほんの少しばかり羨ましいような気もした。
――とかなんとか考えていたその時だった。
「あっ、誰かいます!」
アズミが突然、前方を指したのだ。
担がれている俺は首を回し、慌てて前を見る。するとそこには信じられない光景が広がっており、思わず唖然となってしまった。
地面に転がる、真っ赤で巨大な生首。
そしてその傍に一人の少女が立っていたのだ。
「遅かったわね。驚いた? ふふっ、まさに快進撃でしょう?」
黒髪の、鋭い印象の美少女。
彼女は血に濡れた白いワンピースを揺らし、まるで幽霊のようだった。
「――智鶴、さん?」
なんで彼女がここに?
てっきり囚われていると思い込んでいたので拍子抜けだったが、もしかするとどこかから逃げ出して来たのかも知れない。
しかし安心はできなかった。何故なら、彼女の右腕からダクダクと血が流れ続けているからである。
「大丈夫か!」
「平気……とは言えないわね。貧血気味よ。それはあんたも一緒でしょう」
「俺よりひどいじゃないか!」
右腕の半分は吹き飛んでいる。致命傷ではないが、このままでは。
しかし智鶴はまるでそれを気にしないどころか、むしろ微笑みを浮かべて、
「そんなことより。あたし、敵の親玉を潰したの。ここに転がっている奴よ。もう怖いことはないわ」
などと、驚きの発言をしたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラスボスはすでにやられていた。真っ赤な頭の奴がそうだったのだ。
俺たちが「うええー」と驚く一方で、智鶴は得意げである。
「あんたの幻効果よ。あたしを仲間に誤認したこいつが、ご丁寧にもここの監獄まで連れて来てくれたの。それで隙きだらけだったから殺しておいたってわけ」
……なんとも呆気ない終幕。
しかしこれは本来喜ぶべきである。俺的には戦わずして勝ったのだから。
「智鶴ちゃん、ありがとうございました! いやぁ、いいとこ全部持っていかれちゃいましたね〜。それじゃあ早速ですけど人々を解放しちゃいましょう!」
ちょうど智鶴の背後には監獄があり、そこから人々がこちらの様子を伺っていた。
「うぉう」
「あいつらは」
「何これ怖い」
「助けに来たのか?」
などと囁き合っているらしい。が、全部こちらに聞こえてしまっている。
彼らは鉄格子に似た、何やら金色の檻に囚われていた。が、アズミの怪力さえあれば砕くのは簡単だろう。
あとは彼らを連れ出すだけ……と思っていたら。
「見ツケタゾ。コレ以上ノ悪行ハ許サンッ!」
――そこで首を吹き飛ばされている奴の五倍はでかい奴が、こちらを鋭く睨んでいた。
この時この場の全員は思った。「こいつが本物のラスボスじゃね?」と。




