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16 智鶴の快進撃

 智鶴視点です。

「――このまま負けてばかりじゃいられないわね」


 あたしはそう呟いて、風刀を周囲へ飛ばす。

 一度に出せる刀の数は五つまで。それを操って敵の首を吹き飛ばし、地面を蹴って前へ前へ。

 復路路地に遭遇したら壁を蹴破り、さらに突き進む。どうやら地球にいた時よりは若干動きやすいようだわ。重力の問題かしら。


 現在、あたしはただ一人で走っている。

 アズミは胸を撃たれてしまったし、もう一人の男は置いて来てしまった。まあどちらもあんな簡単に死んだとは思えないが、人間死ぬ時は死ぬ。

 あたしももうそろそろ体力が尽きそうだった。


 右腕がじんじん痛む。先ほど撃たれたところだ。

 幸いにも銃弾は右腕に留まってはいなかったので心臓に達して死ぬ……なんて恐れはないが、だからと言って何か変わるわけではない。

 尋常じゃなく痛いのだ。映画などでよく銃撃されるシーンがあるが、あんなことが本当に起こるなんて。


 しかも撃たれたのは特大ライフルだ。ほんの少し掠めただけで、腕の半分くらいが吹き飛ばされてしまった。

 父になんと言い訳したらいいだろう。そう思い、少しため息が出た。


「せっかくの服も汚してしまったし……、最悪だわ」


 お気に入りのワンピースは血でドロドロ。

 もう着られないわね。まあいいわ、新しいのを買えばいいだけだ。


 しかし失われた命はまた買うことはできない。

 とにかくあたしは逃げ延び、父を連れて帰る。決して死なせたりしないし、あたしも死んでやらない。


 拳銃を向けて来た異星人の頭を引っ掴み、投げ飛ばす。そして同時に風刀で全身を切り刻んだ。


「血すら出ないで死ぬのね。何者かしら」


 何者も何も異星人なのだけれど、やはり少しばかり信じがたい。

 こんな高度な地球外生命体がいたらすでに人間に発見されていてもおかしくなかった。それに彼らは宇宙へ進出し侵略するほどの技術を持っているというのに。

 少々考え込み、しかし今はそれを放棄する。体力の限り走り続け、街の人々が囚われているであろう場所を探した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ドウシタ? マダ当番ハオレダゾ」


 灰色のコンクリートに似た材質でできているこの地下道にはあまりにも似合わない、赤く大きな扉。

 その前には敵である異星人が、三体ほど並んでいた。


 しかし彼らは例によってこちらへ武器を向けてくることなく、まるで仲間であるかのように話しかけてくる。

 ……? これは一体どういう意図があっての反応なのだろう。もしかしてあたしを油断させるつもりだろうか? こんな安っぽいことでは騙されないのだけれど。


 こいつら、何度見ても気持ち悪いわ。宇宙人を演出している感じがなんともいやらしい。


 こんなクズどもに手間取っている時間はない。すぐにそう思い、あたしは目の前の三体の体を真っ二つにした。

 あたしの異能力は結構万能で、普通のナイフよりも切れ味がいい。スパッと割れるのが気持ち良かった。


 自分が死んだことすら気づかずに悶える彼らをよそに、あたしは扉の中へ入っていく。

 おそらく中には敵の親玉がいるに違いなかった。そもそも敵などという言葉を平然と使っていることにやや抵抗感はあるがそれは置いておいて。


「――――やっぱり」


 中にはいかにもな感じの奴がいた。

 大きな体格、緑色のギョロリとした目。怪獣映画に出て来そうな奴だなとあたしは思う。

 とにかくこいつを倒すというのも手だが、その前に聞き出さなければならないこともあるし、まず第一声はどうすべきか。


 迷っていると、向こうから声がかかった。


「オイ、ドウシタノダ? 前線ニ行ケト、命ジタダロウ」


 しかしその意味は全く不明だった。

 前線? それに何かを命じられた覚えももちろんのことない。

 その時あたしは、とある可能性に思い当たった。そうか、そういうことだったのね。それなら私のその手に乗ってやろうじゃないの。


「そうです。ですがあたし、いやワタシは、緊急事態のためここまで戻って参りました次第であります」


 機械音をなるべく真似ながら、あたしはそう言ってみる。

 おそらくあいつ――拓也の仕業だ。あいつが何やらしでかしたせいで、敵には幻術がかかり、あたしを味方と認識している。

 これは好機だろう。


「腕ノ傷モ目立ツ。モシヤ敵ノ反撃ニ?」


 どうやらあたしの腕の傷は、彼らにはそう映るらしい。

 実際は彼らの銃で撃たれたのだけれど……。ああ、まだ痛む。右腕はもう一生使い物にならないかも知れない。


「奴らにやられたのです。それと、閉じ込めておいた者たちが脱走しようとしています」


「クソ……! 協力スルト言ッタノニ裏切ッタナ! 早ク行クゾ」


 我ながら、あたしは頭がいい。

 だからこの未知ではあるが低俗な宇宙人を思いのままにすることくらい、容易いことだった。


「――はい」



 あの男――拓也にも、少し感謝しなくては。

 この戦いが終わったら、たっぷり褒美をやってもいいかも知れない。ああいう男は大抵が女を求むものだから、そうしてやっても。

 いいえダメね。安売りするのは良くないわ。どうしてやろうかしら。


 そんなことを考えながら、あたしは敵の親玉の後に付き従い、街の――否、地球の人々が囚われているであろう場所へ。

 そして、牢屋が見えると――。


「ありがとう」


 親玉の首を吹っ飛ばした。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふふっ、まさに快進撃でしょう?」


 ズタボロの体であたしは、遅れてやって来たアズミたちに微笑みかけたのだった。

 なんて言ったって、あたし一人で敵をやっつけてしまったのだから。

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