13 敵の本部へ
やって来たのは、砂漠のど真ん中にポッカリと開く穴。
この下になんらかの構造物があるらしい。穴を覗いてみれば下へと階段が伸びていた。
「何か不気味だな」
「当然でしょう。この先にあいつらがいるのは、見当がついていることだわ」
「怖くないのか?」
「臆病ね」
智鶴が「ふん」と鼻で笑ってくる。
確かに俺は臆病なのかも知れないな。正直、俺は怖いのだ。
こんな正体不明な事件に巻き込まれることも、やはり正体不明なピンク髪の少女や銀色の生物たちも。
むしろ、平然としていられる彼女の方が俺には不思議に思えた。
一体どんな人生を歩んで来たらこのような性格になるのか。漫画とかを読みすぎて感覚が麻痺しているのではなかろうか。
これはあくまでも現実であって、死ぬ時は呆気なく死ぬというのに。
「はぁぁ、どうして俺なんかが選ばれたんだろうなあ」
「異能力には適性ってのがありますからそれで選んだだけですよ〜。あの星の人々は基本異能力とは相性が悪かったですけど、拓也くんと智鶴ちゃんだけビビッと来たんです」
「そう都合よく同じ街に二人もそういう人材がいるのが変な話だとは思わないか」
「細かいことは気にしない気にしない。ささっ、早く降りますよ〜」
お気楽である。
しかしグダグダ悩んでいたところで何が変わるわけではない。俺は覚悟を決め、階段に足を踏み入れた。
ドヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ。
直後、そんな爆音が鼓膜を震わせた。
あまりの音に俺は驚き、うっかり足を滑らせる。そしてそのまま下へと転がり落ちていってしまった。
音の正体を考える暇もない。
落ちて、落ちて、落ち続ける。階段に何度も体を打ち付け、もしや死ぬのではないかなんて考えた。
ああ、アズミの『重力操作』がほしい。あれさえあれば落下くらい平気なのにな……。
俺は落ちて落ちて、とある部屋へ転がり込んだ。
「拓也くんっ」
「あいつ……!」
上から少女たちの声が聞こえた気がした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「コレデ実験、成功ダナ。モット作レ」
「わかっております。――まったく、なんでこんなことに」
そんな会話が交わされていた白塗りの壁で取り囲まれたとある一室。
そこへ突然乱入者が現れる。それは階段から転落した俺だった。
「うわ、あ、あがぁっ」
横たわり全身打撲で呻く俺に、話していた人物たちが目を向ける。
一人はどこかで見たことのある顔の人物だった。おそらく人間、それも日本人だろうと俺は推測する。
そしてもう一人の人物は、全員が銀色の生物であり、間違いなく攻め込んできたあいつら――敵だった。
これが一体どういう状況だか知らないが、なんとなくまずい予感がする。
そしてそういうのは大体の場合において外れていないものだ。
「地球人ガコンナトコロニ。シカモ上カラカ」
「君は何者だね? 出て来てはいかんとあれほど言われたろう!」
怒鳴られても俺はわからない。というか頭がズキズキして痛い……。
でもとりあえず、どうにかしなくては。そう思い俺はなんとか声を絞り出した。
「げん、わく」
ブフッと音がして霧が噴き出し、あたりに目くらましの光が溢れ出す。
今のうちに逃げなくては。逃げなければ何かやばいことになる――。
「見つけた!」
「おおっと、霧がいっぱい。拓也くーん、どこですかー?」
二人の声がする。あれは間違いなく智鶴とアズミだ。
でも俺はもはや呻き声を上げる余裕すらなくて、意識を手放しかける。
その時、肩に激痛が走った。
「あうっ」
「そこにいるのね。今行くわ」
見えざる風の刀に肩を抉られ、もう出ないと思っていた声が出た。
俺がここにいると当たりをつけてやりやがったな……! そんなことを思いながら、しかし智鶴の知恵は役立ったようだ。
俺の腕が誰か――おそらくアズミに捕まれ、引き摺り出される。
そしてそのまま持ち上げられ、アズミがどこかへ向かって走り出したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「敵の本部に突入した途端、階段から滑り落ちて打撲だらけ。しかも落ちた先には敵がいた。――とんだ馬鹿をしたものね」
「それ……を言うな、よ」
「ズタボロで見苦しいわ。あたしたちの中に治療の能力を持った者はいないのに、どうしてくれるつもりかしら」
智鶴の詰問に、俺はぐぅの音も出ない。
大きなヘマをやらかしてしまった。しかもしばらくは再起不能と言ってもいいくらいの怪我だ。
まあ、俺の肩を切り裂いて重傷を負わせたのは彼女なのだが。
「どうします? 一応気休め程度で体力回復剤は持ってますけど」
「なんだそれ?」聞き覚えのない名前に俺は首を傾げる。
「そのまんまです。体のパワーを爆発させて、疲れをなくすすっごーい薬なんですけど、怪我が治るわけじゃないので無理すると倒れて死にます」
それはかなり怖い……。
しかし、今は地下通路の片隅に身を潜めているものの、ここは銀色の生物たちの寝ぐら。
長く留まれば見つかってしまう。なんとか動くのが先決なので、その薬を飲むしかなさそうだ。
と、その時。
「見ツケタゾ」
「捕マエロッ」
「動クナ!」
大きな地響きのような音を立てて現れたのは、砂漠で死んでいたのと同じ種類のトカゲの群れ。
そしてそのトカゲには銀色どもがまたがっていて、俺たちに何やら武器を突き付けてきたのである。その武器とは特大のライフル銃であった。