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12 荒廃の惑星

 俺はやはり夢を見ているのかも知れない。

 宇宙の中を走るだなんて、子供の夢物語だろう。でも、これが夢なのだとしても――いや、夢のような出来事だからこそ、俺は少し楽しく感じ始めていた。

 夢ならば夢として遊びまくってやろうじゃないか。


 どうせ後には引けないのだ。

 どうして俺を選んだのかは知らないが、選ばれてしまったからには仕方ない。

 この幻想的な夜空の星々が俺にそんなことを思わせた。


「それにしても、随分と登って来たものね。そろそろかしら」


「小惑星帯も抜けたし、今木星あたりか?」


「何を言ってるの。木星なんて遥か背後でしょう。さっきの小惑星帯はあたしでも知らないわ」


 どうやら想像以上に遠くまで来ていたらしい。

 『重力操作』はどこまでも万能であり、一歩で一万歩ほどの距離を進めるらしい。無重力の中に重力をつけることもできるから、まるで宇宙ではないみたいだ。

 俺の幻のおかげで空気もある。快適な宇宙旅行と言えるだろう。


 しかしそれも、終わりを迎えた。


「ここですね。とりあえず、着陸してみますっ」


 アズミはそう言って、『風刀』で作られた見えざる階段を飛び降りた。

 『幻惑の光』を一旦解除すると、そこには薄茶色っぽい星が広がっていた。恒星ではない普通の衛星らしい。

 でもすぐに智鶴に小突かれた。危ない、うっかり呼吸のことを忘れていた。幻から解放されてしまうと息ができなくなるのだったな。俺は慌てて幻術をかけ直す。


「星を生で見るとは思ってもみなかったな……」


「そう? あと数十年もすれば民間人でも安値で宇宙旅行ができるようになるはずよ」


 「へえ」などと俺が頷いていると、アズミが口を挟んできた。


「あの星は遅れてますからね〜。私のところなんて瞬間移動屋に頼めばどこへでも一っ飛びですよ」


 アズミが何人なのかは依然として不明だが、瞬間移動屋とは聞きなれない単語だ。

 彼女に話を聞くと、どうやら異能力で人や物を転送する力を持った者がいるらしい。その能力によってアズミも地球に来たんだとか。


「でもうっかり帰りの切符を忘れちゃったんですよね〜。だから歩きで帰らなきゃです」


 そんなこと可能なのだろうか。

 でも今も宇宙を走っているが、智鶴の力がなければ進めないはず。どうやって帰るつもりだろう……。


 それはともかく。


「大気圏に突入しまーす、気をつけてくださいっ!」


 アズミは、その星へと頭から突っ込んでいった。

 「ロケットかよ」とツッコミを入れようとし、しかしやめる。喋ることができるような余裕がなかったからだ。


 下からすごい風が吹き上がり、俺の体は跳ね上がりそうになった。


「『幻惑の光』が剥がれかけてるわ。きちんとしなさい」


「ちゃんとやってる!」


「幻の効果が濃いなら風なんて感じないはずよ。あんたが勝手に一度解除したからでしょ」


 ぐぅの音も出ない。星を見たいがためにうっかり剥がした自分を悔やむばかりである。

 そのまま俺たちは落ちていった。風を全身に受け、今にも吹き飛ばされそうにながらもなんとか堪え――。


「わぷ!」


 三人まとめて地面へとダイブした。

 衝撃で幻の膜が破れ、外の世界が露わになる。


 見回すとそこは、とてつもなく広大な砂漠であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「廃墟……というより荒廃しきってるな」


「元々は多少の文明があったんですけどねー。くだらない戦争が宇宙各地で起こってて、この星もその被害を大きく受けてる感じです」


 ピンク髪の少女が、俺たちを先導しながら説明する。


「ここがあの宇宙人どもの故郷というわけね」


「まあそうですね。あれは特攻部隊みたいなもので、他の種族もいるとは思いますが。――あっ、あそこにいましたよ! 第一村人ハッケーン!」


 まだそんなに歩いていないのに、アズミは何か生物を見つけたらしい。

 普通に考えて宇宙にそう簡単に生物がいるとは思えないのだが……現に異能力などがある世界観であるがため、おそらく何かいるのだろう。

 こんな荒れ果てた土地だ。建物もボロボロになった残骸としてしか残っていないところを見ると、知的生命体はもうここにはいないのではないかなんて思う。

 しかし、違った。


「おっと、死体でしたか」


 すっかり干からびた、トカゲのような生物の死体だった。

 そしてその傍に銀色の人型生物の亡骸が横たわっている。もはや死んでから長い時間が経っているのか、虫のような何かが湧いていた。


「――気持ち悪いわね」


 顔を若干青くした智鶴が、ポツリと呟く。

 その死体は今まで見たどの死体よりも惨たらしい死を遂げていることが目に見てわかった。トカゲなど足を二本も失い、銀色の方は下半身が失われている。


「戦争から逃げたものの、力果てた者ですかね。こっちのトカゲは乗り物、銀色はあいつらと同じ種族である可能性が高いかと思われます。あいつらは、同族でも意見が同じじゃない者は容赦しないような奴らなので、怪我を負わせたのもあいつらで間違いないでしょう」


 あいつら――名前は知らないが、とにかく地球に降りて来た野蛮な銀色の生物。

 あれはどれだけ恐ろしく無情なことをするのだろう。俺は胸が悪くなった。


「……いいわ。アズミ、先へ連れて行ってちょうだい」


「わかってます。では行きましょう!」



 アズミの明るい声が、殺風景な砂漠にはひどく似合わなかった。

 廃墟の風に冷たい風が吹き抜けていった。


 この先に、どんな戦いが待っているのか。

 想像していたより過酷なものになるかも知れない。そう思い、胸がずんと重くなるのだった。

 なんかジャンルがアクションでいいのか?っていう話になって来てしまいました……。

 すみません。できるだけアクションに寄せていくつもりですのでよろしくお願いします。

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