1 頭おかしい少女が俺の部屋にいる
「私と一緒に世界を救ってください!」
ピンク色に染めた髪を揺らし、少女が上目遣いをしてくる。
計算された目のうるうる感が半端ない。顔がもう少し整っていれば女優になれるんじゃないだろうか。
俺はそんなどうでもいいことを考えながら、少女を見つめる。
ピンクのゴスロリドレスを着た少女だ。歳は恐らく十五くらい。
まるで漫画の住人のようなその少女は、だが確実に俺の前にいる。そして甘ったれた声でわけのわからないことを言っている。
この状況を誰か俺に説明してほしい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃっかじゃーん! 謎の美少女登場ー!」
彼女が現れたのは突然だった。
勉強をしていたら、部屋のドアが開いて、ずかずかと入って来たのだ。
俺は疲れすぎ故の幻覚かと思い、しばらく無視していた。
「えっとえっと、拓也くんちはここですよねー? なかなかに整ってる! さすが秀才は違いますねぇ」
俺の方へまっすぐに歩いて来る彼女を、俺は気にしないように努力する。
あーあ計算問題に集中できねえや。
「ね・え! 謎の美少女が突然部屋に押し入って来たんですよ? 『うわっ』とか『どひゃっ』とか、それなりのリアクションを求めたく思う次第なのですが」
肩を揺すぶられた。
その時になって俺はようやく認めざるを得なくなる。
こいつ、間違いなくここにいる。俺の頭がイカれたんじゃなくこいつの頭がイカれてるんだ。
でもどうしてこんな奴が俺の部屋に? てか誰だよ。
「人の部屋に入る時はノック。許可されたら入る。入ったらお邪魔します。そして名乗る。これが普通だろ?」
常識のかけらもない少女に、俺は常識を教えてやる。
そもそもピンク髪にピンクのゴスロリドレス、ピンクタイツの時点でまともじゃないのは明白だ。
「あっ、すみません〜。この星ではそういうルールだったのですね。今度から勉強しますぅ」
この星とか言っちゃってるよ。異星人気取りか?
俺は勉強を諦め、振り返った。ブスだ。正直言ってその娘はブスだった。どこも美少女要素がない豚だ。
……と、そんなことはどうでもいい。とにかく精神病院に電話しなければ。いや、警察の方がいいだろうか?
「ちょっとちょっと、何する気ですかぁ!」
「電話だよ。家に変態豚女が来たので助けてくださいっていう」
連絡をしようとしたら、少女が俺のスマホを取り上げた。
そうか。目当てはスマホだったか。
「私、別に変態じゃないですし豚女でもないですから! 謎の美少女! どう見たってそうでしょ!」
「どう見たって頭のイカれた重度の厨二病患者だよ」
「ひどぉい!」
いやいやいや。
勝手に人の部屋に乗り込んでいる時点でお前は罪人だからな? それは不法侵入罪と言ってだな……。
「あなたにお話があります」
俺の言葉などまるっきり無視して彼女が言った。
それが、「私と一緒に世界を救ってください!」である。
ツッコミどころ満載すぎて、俺は何から言おうかと迷った。