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幸せの降る夜  作者: 里桜
6/31

6.

「やっと終わったーーー」


綱渡りの毎日を過ごしながら、ようやく1週目が終わった。達成感に浸りたいところだったけれど、腕時計の針は18時を指していた。


「やばっ、早く行かなきゃ!」


急いで片付けて、バタバタとオフィスを後にした。18時半に間に合うかな。


目指す場所は・・・病院だった。

もう鉄剤が無くなってしまって、もらいに行かなきゃと思っていたのだ。

ギリギリ滑り込んで、受付に間に合った。


「その後、体調どうですか?」

「時々、めまいが・・・」

「中村さん、ちゃんとごはん食べてる? お肉とか魚とか」

「はぁ・・・」

「仕事、忙しい?」

「・・・はい」

「そっか、でも、食事と睡眠は意識してとらないとね。薬、出しておくから。お大事に」

「ありがとうございました」


診察室を出て、ロビーで会計を待った。

金曜の夜、仕事からの開放感と疲労で、思わずうとうとしてしまった。



誰かの肩にぶつかった気がして、目が覚めた。


「中村さん、どこか悪いの?」


どうして・・・?


「こんなところで寝たら、風邪ひくよ?」


いつからいたの?


「あ、中村さん、会計呼ばれてるよ」

「あ・・・うん」


お金を払って戻ってくると、坂本さんは私の手から処方箋を奪った。


「貧血? この薬、大丈夫?」

「え?」

「もう少し、胃に優しいのあるよ。胃が痛くなったりしない?」

「・・・痛くてもガマンしてた」

「薬剤師さんに言ってみたら? 先生に相談してくれるかもしれないよ」

「・・・ありがとう」

「うん」

「それより、坂本さんどうしてここに?」

「今日、ここの勤務の日だったんだ。帰ろうと思ってロビー横切ったら、見覚えのある人がいるなって」

「本当に?」

「え?」

「・・・偶然て、こんなにあるもの?」


思わず口にした。他意は無かったのだけれど。


「あのさ」

「はい」

「俺、別にストーカーじゃないから」


坂本さんは椅子から立ち上がり、エントランスの方へ歩いて行った。

私は立ち上がることなく、その後ろ姿をただ見ていた。


思うところはもちろんあったけれど、後を追って、気持ちのやりとりをするエネルギーがもう残っていなかった。


ごめんなさい・・・。

いったい何に謝っているのか、自分でもよく分からなかった。

とりあえず、帰ろう。


そう思って病院を出たところに。

・・・坂本さんがいた。


「俺も、何が起こってるんだろうって、こんなことが本当にあるのかって、考えてた。だけど、考えるより先に現実があって、中村さんがいるんだよね」

「・・・」

「結婚してるのか、彼氏いるのか、そういうことを確かめようと思うより先に、目の前に現れちゃうんだからさ。驚くよね」


そういえば、そうだ。

ものすごいタイミングで、ただそこに現れて、声を掛けてくれるのだ。


「ご飯食べようって言われた時も、携帯の番号教えた時も、もうなんて言うか、勝手に身体が反応したっていうか。頭でいろいろ考える前に」


こういうこともあるんだ。

信じられないような、不思議なことが、人生に一度くらいは起こるのかもしれない。


「ご飯行く? この前行けなかったから」

「うん、行こうかな」


この流れに、ゆるゆる身を任せてみようか。




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