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幸せの降る夜  作者: 里桜
5/31

5.

「中村さん、9時からミーティングいいですか?」

「あ、はい」


チームをふたつ担当するようになって、1日のほとんどがミーティングで埋まった。

特に上島チームはトラブル対応が多かったから、何かある度にミーティングが開かれ、判断を求められた。


ふぅ・・・。


ミーティングの合間に寄ったトイレで鏡を見ると、明らかに目元に疲れが出ていた。

まだ2日くらいしかたっていないのに。


「中村さん」

「はい」

「さっき頼まれたデータ出来上がったので、できれば早めに見てもらえますか?」


疲れる・・・。


トイレ休憩すら、ままならない。

スマホで次のミーティングの予定を確認する。15分空きがあるのを見つけて、思わず隣のビルのカフェに飛び込んだ。


「カフェラテください。店内で」


メープルのスコーンも食べたかったけれど、とても食べる時間は無かった。スマホに飛んでくる社内チャットを横目に、熱々のカフェラテで一息ついた。


飲み終わって席を立つと、まためまいがした。

休憩、ちゃんと取らないと。

そう思いつつ、ビルを出た。



「あれ、中村さん?」



振り返ると、そこには白衣に上着を羽織った坂本さんがいた。


「え、坂本さん、どうしてここに?」

「あ、俺、今日はこの近くの病院にヘルプ要員で来てて、いま休憩中で」

「そうなんですか・・・」

「中村さんは?」

「私は、向かいのビルにオフィスがあるんですけど、少し休みたくて」


坂本さんは近づいてきて、私の顔をじっと見て言った。


「中村さん、ちゃんとご飯食べてる? 顔色、あんまり良くないよ」

「・・・」

「忙しいんだ? 仕事」

「・・・いま、ちょっと大変で」

「これ、あげるよ」


そう言うと、上着のポケットからマルチビタミンのゼリー飲料を出した。


「こんなのでもいいから、ちゃんと摂らないとね」

「あ、ありがとう・・・」

「じゃ」


ふと、思った。


これは偶然?

こんなにタイミング良く、現れるもの?


その時、スマホに次のミーティングがキャンセルになったと通知が来た。


何これ、偶然て重なるの?

神様のイタズラ?


「あ、あの!」


振り返った坂本さんに、私は自分でも驚くようなことを言った。


「お昼、一緒に食べませんか?」

「・・・あー、ごめん・・・」


『ごめん』のひと言で、ハッとした。

・・・私、疲れてるんだ。だから、訳の分からないことを口にして・・・。


「あ、あの、すみません。忘れてください。ほんとにごめんなさい!」

「あ、いや、そうじゃなくて」

「え?」

「そうじゃなくて、もうすぐ休憩終わるんだよね。だから、一緒に食べる時間がなくて」

「・・・」

「また今度でもいい?」


これは、断られたんだろうか。それとも、誘われたんだろうか。


「あー、休憩終わっちゃうな。中村さん、暗記して。いい?」

「え? あ、はい」

「090・・・・・・、覚えた?」


何か別のことを口にすると、いま覚えた番号がこぼれ落ちそうな気がして、私はコクコクとうなずいた。


「じゃ、また! 連絡して」


私は急いで手元のスマホに登録し、息を吐いた。

でも・・・『連絡して』は、いったいいつ連絡すればいいんだろうか・・・。


そんなことを考えながら、私はオフィスに戻った。




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