4.
「中村さん、ちょっと会議室に来てもらえるかな?」
「・・・はい」
部長に呼ばれた。
何か、マズイことでもあったんだろうか。
「何でしょうか?」
「あ、うん。まぁ座って」
「はい」
「いや、実はさ。上島くんが体調崩しちゃって、2週間くらい休むことになったんだ。それで、その間のリーダーを誰にするかっていう話になったんだけど、中村さん、やってもらえないかな?」
「え、私ですか?」
よりによって上島チームか。
システムトラブルも多いから、そのせいで人手が足りず、開発作業も遅れ気味・・・。自分のチームはいいとしても、上島チームを管理するなんてできるのだろうか。
「他にどなたか・・・」
「うん、中村さんも分かってると思うけど、どこも厳しくてね。もう中村さんしかいないよねって」
「・・・そうですか」
「なんとか、2週間よろしく頼むよ。ちゃんとフォローするから」
「・・・分かりました」
「良かった。詳しいことはサブリーダーに聞いて」
部長が会議室を出ていった後、立ち上がる元気もなく、しばらく椅子に座っていた。これから起こることを想像すると、それだけで冷や汗が出る。
上島さんの体調不良は、身体だろうか、メンタルだろうか・・・。上手くいっていないチームを軌道に乗せるのは、ものすごいエネルギーを消費するから。
「紗絵ちゃん」
会議室のドアが開いて、人事総務部の同期が声を掛けてくれた。
「さつき〜」
「紗絵ちゃん、また何か押しつけられたんでしょー。ほら、お昼行こ。美味しいもの食べようよ」
「いやー、食欲ない・・・もう吐きそう」
「じゃあほら、向かいのビルにできたカフェに行こうよ。ね?」
「行くー。サンドイッチあるかなー」
「あるある。ほら、行くよ」
さつきがランチに誘ってくれて、少し気が紛れた。カフェのテラス席は少し寒かったけれど、風が気持ちよかった。
「えーと、私はエビのトマトクリームパスタで。紗絵ちゃんは?」
「私は・・・スモークサーモンとアボガドのサンドイッチお願いします」
「かしこまりました。お待ち下さいね」
「部長に何を頼まれたの?」
「あー、うん。上島さんがダウンしたから、2週間上島チームの面倒見て欲しいって」
「えー、紗絵ちゃん大丈夫かなー」
「さつき、上島さんのこと何か聞いてるの?」
「うん・・・上島さん、メンタルやられたって。結構追い詰められてたみたい」
「そっかー。しばらく厳しい状態続いてたしね」
「私は紗絵ちゃんの身体が心配。健診、引っかかったんでしょ?」
「うん、まぁ、経過観察って」
込み入った話になりかけた時、パスタとサンドイッチが運ばれてきた。
ナイスタイミング、これ以上重い雰囲気になりたくなかったから。
「2週間だからさ、美味しいもの食べて乗り切るよ」
「よく言う。さっきは吐きそうとか言ってたのに」
「アハハ」
「紗絵ちゃん、ほんとに無理しちゃダメだよ。紗絵ちゃんだって、ギブアップしていいんだからね」
「さつき・・・」
「ランチもお酒も、付き合うからさ。しんどくなったら、社内チャット送ってよ」
2週間なら・・・。なんとか頑張れそうな気がしていた。