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幸せの降る夜  作者: 里桜
1/31

1.

「ほんとすみません!」


チームの若いメンバーが、私の前で頭を下げている。


どうしてこんなミスするわけ? 見落としにもほどがある!

そう言ってやりたかった。

あり得ない、この開発局面でミスするなんて!と。


でも。

怒鳴ったところでどうにもならない。必ず、どちらにも原因があるからだ。

立場が上だからと私だけがイライラをぶつけても、後々、お互いに気まずい思いをするだけだと分かっていた。


深呼吸して、静かに伝えた。


「私が見てみるから、他にできるところ進めてもらえる?」

「・・・はい」


彼のミスの原因を考えつつ、黙々とプログラムを目で追った。3本目を見たところで、プログラムミスの箇所を見つけた。

ここだ・・・。


「沢田くん、見つけた! ちょっと来て」

「は、はい!」

「ここ。このプログラムの組み方が違ってるの分かる? 明日の朝でいいからここ修正して、もう一度テストして結果取ってもらえないかな」

「ほんとだ・・・似たプログラムから、焦ってコピーしてきて、変数を変えるの漏れてました。中村さん、やっぱりすごいです。こんな短時間で見つけるなんて」

「それはどうも」

「明日、朝イチでテストやります! 迷惑かけてすみません!」

「頼むね。ひとりでできそう?」

「はい! 大丈夫です」

「次からは、安易にコピーして済ませないように」

「はい」

「よろしくね」


ため息まじりに手元の時計を見ると、20時を回っていた。


「沢田くん、もう遅いから帰ろう。今月の残業、制限ギリギリじゃない?」

「そうでした。もう出ますね!」

「うん、お疲れさま」


フロア全体を見渡すと、いくつかのチームがまだ残っていた。

うちのチームは、システムトラブル率が低いだけでなく、残業時間が上限を越えるメンバーはひとりもいない。


『あのシステム、実は簡単なんじゃないか?』


陰でそう言われることもあるけれど、絶対にそんなことはない。メンバー全員で、やり方を工夫して頑張っているのだから。


とはいえ、いつも思い通りに進むなんてことはなく、イライラもすれば、ガッカリもする。

そんな日々ストレスフルな状態が、チームリーダーになってから3年くらい続いているだろうか。



「あー、今日も疲れたなー」


自宅の最寄駅からの帰り道、思わず声に出た。


晩ご飯、どうしようかな・・・。

食べて帰るのは面倒だし、家に何かあったかな。でも、軽くサンドイッチくらいは食べたいかも。


「いらっしゃいませー」


近くのコンビニに入り、サンドイッチに手を伸ばすと、同時に別の手も伸びていた。


「あ、すみません」


そう言って手を引っ込めた人の顔も見ずに、私は言った。


「あ、どうぞ。私、別のにするので」


私は、もうひとつの種類のサンドイッチをカゴに入れ、フルーツジュースの瓶を棚から取り出して、レジに向かった。

レジ横で、アロマ効果の高そうな入浴剤が小分けにされて売っていた。


「ローズあるかな・・・」


今夜はゆっくりお風呂に入って、溜まったイライラをお湯に流そうと思った。




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