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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第二章 関係構築編
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抹茶で一時

 

 今日は月曜日。


 昨日までの休日は、さつきと秘宝館に行ったり翌日には本屋やショッピングに行ったので、1人で過ごす時間は久しぶりな気がする。


 というのも、文化祭前という事もあり今週は例の『 隣の正面だ〜れだ(俺命名)』はお休み中。それはそれで寂しいと思ってしまう自分にクスリと笑ってしまった。


 「久しぶりに時子さんの茶道教室に行くか」


 文化祭において料理同好会としての出し物はなく、葉月はクラスの出し物を手伝う事になっている。


 もちろん3人とも町内の出し物を取り仕切る俺に協力してくれているのだが。自分のクラスにも顔を出している。


 そんな訳で今日の放課後は時子さんの茶道教室で文化祭の打ち合わせという名の1人の時間を堪能するのだ。


 ピンポーン


 「はい、九条ですが」

 「時子さん翔馬です。 文化祭の打ち合わせ……というかお茶しに来ました」


 「あらあら、翔馬さん。今行きますね」


 時子さんの声が少し嬉しそうに聞こえた。4月からは同居騒動や怪我の事があって、なかなか顔を出せていなかったので嬉しかったのかもしれない。



 「ささ、あがってくださいちょうど、葵ちゃんと奏ちゃんも来ているわ」

 「そうなんですか! ではお邪魔しますね」


 俺は和風造りの立派な家に入っていく。


 スッ


 「あ、ぽよぽよだ!」

 「よっ! 元気してたかぽよぽよ。お姉ちゃんとの仲は進んだ?」


 「久しぶりでもないけど、久しぶり」


 入って早々元気がいい双子姉妹だ。


 「ほほほ、2人とも翔馬さんに会えて嬉しそうね」


 「将来の婿さんなので!」

 「なので!」


 「なのでじゃないんだがな」


 そんな訳で俺は久しぶりに茶道というものを体験する事にした。


 「翔馬さん体は大丈夫かしら?無理な体勢をしてはダメよ?」

 「心配ありがとうございます。実はさっき病院に行ってきたんですが、もう通院しなくていいってお墨付きをもらって」


 「おぉ! やったなぽよぽよ」

 「やるじゃん、お疲れ」


 「お前らなぁ、まともに心配してないだろ」


 「それは良かったわ。 ただし、やりすぎは良くないから軽くリハビリだと思って頂戴ね、決して無理はしない事」


 「はい、肝に銘じておきます」


 時子さんは年長者として、人生の先輩として俺にアドバイスをくれる。それが今の俺にとって凄く嬉しい。


 こうやって、叱ってくれる大人の存在が自分には足りてない気がする。だから自然と昔から時子さんがいる公園に足が向いたのかもしれない。


 抹茶のいい香りが部屋の中を満たす。意外に思うかもしれないが、茶道中の双子はいつものおちゃらけた雰囲気とは別格で、中学生ながら凛とした佇まいと所作しょさを心得ている。


 彼女達の一挙手一投足は女性の美しさを極限まで高めた、しなやかな美と気品を漂わせている。


 「葵、奏。お前ら凄いな」


 純粋な感想だった。


 「どやぁ」

 「どやどやぁ」


 擬音を口にしながらもその顔は嬉しそう。その表情だけ見ればまだあどけない感じなのだが。


 「ぽよぽよも決まってたよ」

 「うん、ってかぽよぽよ最近ぽよぽよしてなくない?」


 奏から言われて改めて3人は俺の体を見る。



 「あら確かにそうね、よく見れば今年に入ってから随分絞れてきたわね」


 その言葉はジムに体を絞りに行ってる俺にとって、めちゃくちゃ嬉しかった。


 「わかります時子さん?」

 「ええ、身軽な感じがするわね」


 ガッツポーズをする俺。そんな俺に双子の姉妹は別の話を振る。


 「そういえば、昨日お姉ちゃんが帰ってきたよ」

 「よよよ!」


 「ん?  確か昨日出掛ける時に、家に寄ってくるって言ってたな」


 昨日の休日の事を思い出して俺も返事をする。


 「お姉ちゃん何かあったの?」

 「見た瞬間ビックリしたもん」


 睦希が髪を染めた事、黒神家は知らなかったな。


 「輝いてたね」

 「金ピカにね」


 「「ニシシシッ」」


 相変わらず楽しそうだな。そんな2人に少しだけ真実を話す。


 「まぁ、気分転換みたいなもんだとよ。それに文化祭の為に染めたってのもあるな」


 「「文化祭?」」


 「そうそう。今週の週末を使ってウチの学園でやるんだよ」


 「そういえば昨日お姉ちゃんがチケットくれたね」

 「だね!」


 時子さん達にも出店してもらうので、それの最終確認の為に今日ここに来たのも目的の1つ。


 「そういえば、弥生さんもお茶屋を手伝うんですか?」

 「えぇ。是非やりたいって言っていたわ。なんでもバイト先の子と一緒に創作デザートを作りたいんですって」


 弥生さんらしいポジティブな行動力だ。時子さんの反応にかこつけて、それとなく俺が最近気になっている事を聞いてみる。


 「弥生さんって、将来茶道の道に進むんですかね?」


 彼女達の夢を応援しようと決めてから、少しずつ下調べをしようと思い情報を集めていく


 「う〜ん。それはないと思うわ。だって継がなくていいって言ってるんですもの」


 そうだった。


 「以前、挨拶に来た時も言ってましたもんね」

 「あの子のやりたいように自由にやったらいいと思うわ」


 「今度、聞いてみますね」

 「ええ、翔馬さんも応援してあげてね」


 「はい!」



 和やかな雰囲気の中で飲む抹茶は、心の中の喧騒けんそうを程よい渋みで洗い流してくれる味がした。

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