バトルとバトル【皇さつき】
私は彼が持ってきた申請書の内容を見て、突き返していた。申請書には少ない文字でこう書かれていた。
部活名・料理部
部員 1年2組 神月翔馬
「いやぁ人数が集まらなくてですねぇ」
「はぁ……お前ちゃんと部活規定は読んだのか?」
「読んでないっすね」
なんだコイツは、失礼なやつだな。
「読んでないヤツがよく申請に来れたものだな?」
「その申請書になにか問題でもあるんすか?」
「あのなぁ、部活とした認めて貰えるのは、人数が最低5人必要なんだ!」
「はぁ……そっすか、でも集まんなかったんで」
「だったら許可できない」
それはそうだろう、集まらなかったという理由で1人の部員で認めろというのもおかしな話だ。そんな事をしたら会長としての。
いやいや、私は何を考えているんだ。
「えっと……ふむふむ、部活は5人からで、おっ! なら同好会はどうっすか?」
この男は何を言っているのだ? 同好会の規定にもしっかり記載事項があるというのに。
「はぁ……お前はバカか? 同好会は2人から受付ている。お前1人ではそもそも無理だ。わかったならさっさと帰れ、仕事の邪魔だ」
これくらいキツく言っておけば、もう来る事も無いだろう……それに今の私にこれ以上負担を増やさないでくれ。
私はその思いで彼に敢えてキツい物言いをした。それが効いたかどうなのか分からないが彼は黙りと俯いている。
ちょっと言い過ぎたが、頼む! このまま帰ってくれ。
「ねぇ……会長さん」
ふいに呼ばれた事に対して私は静かに彼を見る。一体なにを言おうとしてるのだろう?
「……なんだ1年」
「会長さんって部活入ってるんすか?」
その質問になんの意味があるかわからなかったが、それくらい答えてやれば彼は出ていくだろうと思い口を開く。
「いや、入ってないが」
「ふ〜ん、そっすか」
そして彼はおもむろに椅子に座って、先程突き返した申請書にペンを走らせる。
……何をやってるんだ彼は?
そして程なくして、突き返した申請書を今度は私の目の前にバシンッと置く。
「これでどうっすか?」
得意げに笑う彼の顔。私はその顔に嫌悪感を抱く。
なんでコイツの表情はこんなにも楽しそうなのだ。
そして、その目には何かをなさんとする闘志のような物が見える。そこに映った私はというと……死んだ顔をしていた。
なんと哀れな姿だろう。そして彼のなんと雄々しい姿。
私はあっけにとられながらもその用紙を再度見つめる。
「なっ! おいこれは……」
「同好会は2人からなんでしょ?」
部活名・料理同好会
部員 1年2組 神月翔馬 2年8組 皇さつき
「お前……これは、いやそれより私の名前」
「生徒会長がどんな人かなんて最初に調べておくもんでしょ?」
「却下だ、私は生徒会で忙しい。部活をしている時間はない」
これは当たり前の事だ、私は生徒会長なのだ。部活をしていては生徒会の仕事が回らなくなる。これは明白だ。
私が抜けたら、誰が生徒会を支えるのだ。
「へぇ……忙しいねぇ」
「なんだその言い方は?」
いちいち癇かんに障る物言いだなコイツは!
あ〜ムカつくムカつくムカつくムカつくッ!!
「会長さん、生徒会が忙しいから無理だって言いましたよね?」
「それがなんだ? 見ての通り書類作成やら地域のボランティアやら部活の予算やらの仕事が多いんだ。お前みたいな暇人にかまっている時間はないっ!」
最後のセリフは吐き捨てるように彼にぶつけた私の怒りだ。だってこうでもしないと私が私でいられなくなつてしまう。どこかで吐き出さないと……私は。
「確かに部屋を見る限り忙しそうなのは、わかりますよ?」
「だったら……」
だったらもう出て行ってくれ! これ以上、面倒事を増やさないでくれ!
「会長さん……他の生徒会メンバーはどうしたんです?」
「………………ぇ」
彼の質問に答える事が出来なかった。