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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第二章 関係構築編
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夢見る少女は歌を唄う

 睦希ウィークになって2日目の火曜日。俺と睦希は一緒に下校していた。

 クラスが違うから日中は一緒にいる事は出来ないし、彼女は彼女でお昼ご飯を食べる友人もいる。


 「なぁ睦希、部活はいいのか?」

 「……部活」


 俺の質問に睦希は少し困った顔をしていた。


 「……ちょっと色々あって、今は顔を出せていないわ」

 「そっかぁ……プロレスも大変だな!」


 少し悲しそうな顔で俯く彼女に少しでも元気になって欲しいと思った俺はウィットに富んだ冗談を放つ。


 「誰がプロレスよ!」


 睦希の手が俺の首を締め上げる。見事なチョークスリーパーが決まっているので必死にタップしてギブアップ。


 「がはぁ……か、軽いジョークだ」

 「もぅ、失礼しちゃうわ!」

 「で? 何部だっけ?」

 「覚えてたわよね? 軽音部よ」

 「……」


 俺は素で忘れていた。なんならホントにプロレス部の方が似合いそうな技のキレをしている。


 「へ、へぇ……そうだっけ?」

 「去年の文化祭もステージで歌ってたじゃない!」

 「俺は……ロールケーキ地獄だったな」

 「もうッ!」


 睦希はプリプリしながら俺の前を歩く。そして途中振り向いたかと思うと……


 「ちょっと付き合いなさい! ストレス発散よ」

 「また、強引な……」

 「ソフィアよりは優しい方よ」

 「比べる相手が間違ってるよ」

 「ふふ……確かに」



 ◆

 そんな訳で俺は現在、睦希と一緒にカラオケに来ているわけだが……


 「キャー『スモフェニ』の新曲が入ってる〜」

 「えっと……スモフェニって?」


 俺は最近の音楽事情にあまり詳しくない。聞くとすればオカマママの店でランダムに流れてる音楽くらいだ。


 「知らないの? 信じらんない! ビッグアーティストよ!」

 「そうなのか? 詳しくないから教えてくれよ」


 睦希の機嫌が良くなればと思い、興味のある話題に持っていく事にした。そうしたら少しは気が紛れるだろう。


 「いいわ、教えてあげる!」


 余程興奮しているのか、椅子の上に立って(靴下で)仁王立ちの姿勢で話し始める。


 「そんなんじゃ、パンツ見えるぞ……」

 「うぐ……変態」

 「その変態に告白してきたのはお前だ」

 「ぐぅ……」


 正論を突かれて顔を赤くしている。幸いなのが睦希は他の4人に比べると色々と《《マシ》》な方だろう。


 「見た?」

 「……淡いブルー」

 「えっち……」

 「まぁな……もう隠す気もない」

 「隠せてない」

 「それよりも、お前の好きなアーティストの事が知りたい」

 「私の全てが知りたい?」


 盛大な勘違いをしている睦希は、5分程妄想の彼方を旅していた。


 「ゴホンッ! えー、スモフェニとは……」

 「えらく自然と始めたなぁおい……」

 「黙らっしゃい! しっかり聞くのよ!」

 「へいへい」


 仕切り直して話し始める睦希。


 「スモフェニとは『スモール・シード・フェニックス』の略なの」

 「ほうほう……」

 「メンバーは、伴奏とボーカルの2人だけなのよ」

 「2人なのか? もっと大勢いると思ってたんだが……」

 「ふふふ……驚くのはまだ早いわ……なんとその2人……」


 随分長くためる睦希は、ニヤリと笑うと得意げにマイクを使って言い放つ。


 「なんと……夫婦なのだぁぁぁぁ」

 ぁぁぁぁ

 ぁぁぁ

 ぁぁ

 ぁ


 「……マジか」


 俺の素直な感想がこぼれ落ちた。


 「どう? 驚いた?」

 「あぁ、最近じゃ珍しいな……夫婦って」

 「でしょー? それにボーカルの人が金髪で美人なのよ〜」

 「へぇ……どういう経緯なんだろうな?」


 睦希の教えてくれたアーティストは確かに俺の興味が引かれる存在になっていた。


 「まぁ……私も詳しくわかんないんだけど……」

 「高校の同級生? 昔からの知り合い? そしてお互いが相思相愛? だったっけ」

 「ほとんど情報がねぇじゃねぇか……」


 睦希の説明ではよくわからなかった。だけど、睦希からスマホで曲を聴くせて貰ったが、確かに最近よく耳にするメロディと歌声だった。


 「上手いな……」

 「でしょ! 今クラス中でもその話題で持ち切りよ」

 「睦希はどこに惚れたんだ?」

 「翔馬が優しい所」

 「俺じゃなく……てか朝とは違いストレートだな」

 「えっとね……なんて言うか、悲しいけど愛おしい? そんな歌詞とメロディなの……あの2人が唄うのは」


 俺は睦希が何を悲しいと言って、何を愛おしいと言ったのかを少し考える。だが、この問題は睦希がゆっくりと時間をかけて解決していかなければいけない問題ないのような気がした。


 だから……


 「私も……あの人達みたいに……なりたい」


 ポツリと呟いた彼女は、小声で恥ずかしそうな顔をしている。きっとこれが彼女の……夢。


 「そっか……」


 俺はそれだけを言い睦希を見つめる。


 「笑わないの?」

 「笑って欲しかったのか?」

 「ううん……でも」


 でも


 「みんなには……笑われた」


 睦希が言うみんなとは、きっと部活仲間の事だろう。昔から何事も一所懸命にやる睦希。父親を失った悲しみ……新しい家族ができた喜び。その心の隙間を埋めてくれたのが音楽だったんだろう……


 「睦希……歌いたいか?」

 「うん……私は……歌いたい」

 「じゃあ、歌おう!」

 「でも……部活のみんなとはもう」


 睦希は目に少し透明な幕が張っている。

 きっと真剣に音楽に取り組んできた睦希……周りはその熱量についていけなかったのかもしれない。


 「部活の連中のことは俺には分からないさ……だが、睦希がどれほど本気かってのをわからせる事はできる」

 「……どうやって?」

 「さっき睦希が言ってたじゃねぇか」

 「……まさか」

 「そう、もうすぐ文化祭だ!」



 文化祭の季節……熱い暑い、夏の季節。

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