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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第一章 同居開始編
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銀と金と呼び方と【如月ソフィア】

 名前を呼ばれた時、人はどのように感じるだろう。それは一言では言い表せない。


 状況、人物、雰囲気、服装、季節、男、女、怒り、悲しみ、喜び。


 それぞれのシュチュエーションで感じ方も違えば、捉え方も違ってくる。当然、好きな人からは名前で呼ばれたいもの。






 キーンコーンカーンコーン


 授業終了のチャイムが鳴り響く中、ワタシはまだ夢の中にいるようだった。


 彼から話しかてくれた。

 髪が綺麗って言ってくれた。


 彼が遅刻してワタシに挨拶をしてからは何も話していない。正確には、ワタシが机に顔を埋めたまま動けなくなってしまった。


 部活に行く者、バイトに行く者、遊びに行く者……それぞれの放課後の過ごし方の為に皆が教室から出ていく。


 教室にはふたりきり、ワタシと彼だけ。


 テクテク


 足音がこっちに来る。


 「おい、ストーカー女起きろ……放課後だぞ」


 机に来て早々そんな事を言い出すものだから、ワタシは咄嗟に反抗してしまう。


 「はぁ? ストーカーじゃないし、愛の監視者だし」

 「なんだよ愛の監視者って。ってか如月(きさらぎ)、昨日のアレは本気なのか?」


 「アレって?」

 「いや、だから……」

 「ディープなキスの事ですか?」


 ニヤニヤと笑うワタシを見て、彼は顔が真っ赤になってる。


 「おまっ、なに言ってんだ」

 「この口が言ってるのよ。んふふっ。正確にはあなたとキスしたこの口が、だったわね」


 てへっと笑うワタシ。こんなに感情を出せるのはいつぶりだろう。


 上手く笑えてるかな。


 「いやキスじゃねぇよ! いやまぁキスもなんだが。そうじゃなくて。俺とその……つ、付き合うとか付き合わないとか」

 「つっつきあう? いいわよ! じゃあワタシの家に行こ?」


 既成事実〜♪ んふふっ。


 「ばばば、バカそう言う意味じゃねぇよ! まだ早いだろ」

 「ニシシッまだ早いね。言質とったどー」


 「話を聞けストーカー女っ!」

 「それよ!」


 ビシっと人差し指を彼に向ける。


 「なにがだよ?」


 不思議そうな彼にワタシは思いを吐露する。


 「そのストーカー女って呼び方やめてくれる?」

 「事実なんだが……」


 「事実でもよ!」

 「認めちゃったよこの子」


 なんてこめかみを押さえながらため息を付く彼は、話を切り替えるように口を開く。


 「んで? だったらなんて呼べばいいんだよ?」

 「ソフィア様」


 ふんぞり返って言うワタシに何言ってんだコイツ? の顔をする彼。


 「ストーン・キング・オブ・ザ・ソフィアで手を打とう」

 「なによその変なネーミング! 厨二病全開じゃない嫌よ! あと、ストーキングを若干文字ったのがムカつくわ。オブザなんて意味わかんないし」


 「ハハハッ」


 「なんで笑ったコノヤロー!」


 キーキー言うワタシに、まるで子供をあやすようにヒラヒラする彼。しばらくポカポカと叩いていたが落ち着いた時に彼が優しい口調で。


 「んで、結局なんて呼べばいいんだ?

 「……ソ、ソフィって呼んで?」


 ワタシの上目遣いに彼がたじろいでいる。しかし百面相をした後に意を決したのかゴクリと唾を飲み、その口から息が漏れてハッキリ聞こえた。


 「わかったよ……ソフィ」


 きゅんっ。

 胸が高鳴る音がした。


 「じゃあ、俺の事もなま……」

 「アンタのことは童貞ふにゃ○んヤローって呼ぶわ」


 「ああんっ!?……誰が童貞でふにゃ○んだ! 乳もみちぎるぞストーン・キング!」

 「はっ? 事実でしょうが。ファーストキスが昨日なのに、それよりも先に脱却できる訳ないじゃない!」


 事実である。


 「アンタの金○なんて、ふにゃふにゃに決まってんでしょ! 毎日せっせと棒でもにぎにぎしてなさい」

 「くっ……」


 平気で下ネタを言い合える関係っていいなと思いつつ、だっぷりと数十秒その場で無言が続いた。


 「何か、言い返しなさいよ」

 「はぁ……これだからお子様は。ヤレヤレだぜ」


 ふぅ……と海外の通販サイトよろしくなリアクションをとる彼。それにカチンときたワタシは反抗的な目とともにオウム返し。


 「お子様?」


 若干意味がわからないワタシ。


 「あぁそうだ。ソフ……ゴホン。ストーン・キングも昨日が初ちゅーなんだろ?」

 「そこは普通にソフィって言いなさいよ。あと初ちゅーって……ふふふっ」


 彼の言い方が可笑しくて自然と笑ってしまう。


 「う、うるさい! だがさっきの理屈からいくと、お前も経験が無いと言う事だろう?」

 「それは」 


 もちろんそうなのだけど。


 「図星か」


 ニヤニヤする彼。


 「きっも! これだから童貞は」


 否定しないワタシに満足そうに頷く。だから彼のペースに飲まれまいと早口で捲し立てる。


 「いい? 昨日も言ったけど、あんたの童貞はワタシが貰うから。これは決定事項よ!」

 「拒否権は?」

 「寝言は寝て言え、ふにゃ……」

 「ソフィさんマジ冷てぇ。鬼か? 悪魔か? あっストーカーか」


 ギロリと睨むワタシに首を振る彼。


 「なにか言った?」

 「何でもねぇです……」


 そしてヤレヤレと何度目かのため息を吐いた後に観念したらしく。


 「はぁ、わかったよ。ただしこっちにも条件がある」

 「条件?」


 ピクっとワタシの顔は少し怒っている。もしかして良くない事でも。


 「そんな顔するな、そんなに悪い条件じ ゃない。いいか――」


 彼が語ってくれた内容は予想外のものだった。


 「それでいいわよ」

 「分かってくれたかソ、ソファ」


 「あんたわざとやってる?」

 「冗談だ。ソ、ソフィ」


 そんな彼にワタシはやっと素直になれた気がした。


 「うん、ショーマ!」

 「えっ? おま……いま名前で」


 「ニシシッ! ばーか」


 そう言い残して破顔したワタシはあの頃のように笑えているだろうか?


 後ろを振り向くと、何か言いたげな表情をしていたがその微笑みだけで明日も頑張れる。


 「ありがとう。ショーマ」


 教室に置き去りにした彼からボソッと何か聞こえた。


 「今日も本屋寄って帰ろ」


 彼が最後に何を言ったのかはわからないけど、きっといい事な予感がする。

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