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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第二章 関係構築編
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心の棘と黒い渦【如月ソフィア】

 チクタク……チクタク……


(……眠れないわ)


 私はベッドでモゾモゾしながら時計の音を聞いている。


(なんで……ショーマはあんな事言ったんだろう……)


『後悔してるのか?』


 ショーマの真剣な表情と声に、ワタシの心臓は跳ね上がったのだが……その気持ちは決して浮かれたものではなく、ショーマの言葉が的を射ていたから。


『……えっ?な、何言ってるのよショーマ!後悔なんてしてないわ!それより早く帰りましょ』


 あの後、妙に気まずくなってあんまり話すこともせず、そのままワタシとショーマは二人で自宅に帰ってきた。


(ここを自宅って言えるくらいには馴染んでるハズなのに……なのに……)


 この胸の奥にある感情……これは誰にも気付かれてはいけない……誰にも……


(喉が乾いたわ……)


 私はベッドから起き上がると寝汗でべっとりとした髪を拭いながら時計の針を見る。


 AM1:35


(昨日……あれからそっけない態度とっちゃった。それで勢いで今日は「自室で寝るわ」なんて言ったから、ショーマと顔を合わせるのが気まずい……)


 私は胸に黒いモヤを抱えながらリビングで飲み物を探しにゆっくりと廊下を進む。私の部屋は二階にあるから階段を降りて下に行く。

 途中でリビングの明かりが付いている事に気づいて立ち止まる。


(……誰か起きてるのかな?)


 私はそっと扉を開けて中の様子を見る。するとそこには……


 「……ちょっと相談が」

 「な〜にしょうくん!お姉さんに相談なんて〜しかもこんな夜中に!夜這いなら部屋に来ていいのに」


 ………………

 …………

 ……


 「………………」


 私はその光景を見て、ゆっくりと扉を閉める。この時確かに感じたのだ……ワタシの心に黒い……深い……棘が刺さるのを……


(なんでこんな思い!ワタシは……ワタシは……)


 私はフラフラと自室に戻り、ベッドに倒れ込む。そのまま眠ることも出来ず……ただただ先程の光景が頭の中でフラッシュバックする。


 ◆

 チュンチュン


 「ソフィ、朝だそ?」

 「……ぅ……ん」

 「ソフィ?」

 「……ショー……マ?」

 「……ソフィア、大丈夫か?」

 「……ちょっ寝不足で……でも大丈夫」


 体がだるい……頭も痛い……思考が働かない……手足が言うこと聞かない……


 「どう見ても大丈夫じゃねぇだろ!待ってろ、今体温計持ってきてやる」

 「……うん」


 普段のワタシならここでショーマに抱きついて、おでことおでこをくっつけて熱を計ってもらうのに……なんだか昨日の帰りからショーマとは距離をとってしまう。


 「ほら……持ってきたぞ」

 「あり……がと」


 ワタシは渡された体温計を腋に挟む。金属部分がひんやり冷たくてワタシはビクッとしてしまった。その光景をショーマに見られてるのが恥ずかしくて……切なくて、ワタシはそっぽを向いてしまう。


 ピピピピッ

 ……38.5℃


 「こりゃ、今日は休みだな……」

 「ヤダッ!ショーマと学校行きたい!せっかく今週はワタシの番なのにッ!」


 ワタシは全力で抵抗する。だってショーマと一緒に過ごせる時間は後三日しかないのに……これが終わればほぼ一ヶ月ショーマと何もできない……そんなの嫌だ!


 「嫌って言ってもなぁ……こんだけ高けりゃ休まなきゃダメだ」

 「ヤッ!」

 「駄々っ子か!強制的に休みなさい」

 「……ショーマは……いいの?」

 「んあ?いいって?」

 「ワタシと……学校に行けなくても」

 「別に一日くらい平気だって……」


 その言葉を聞いた瞬間ワタシの心の黒い渦が感情となって溢れてしまった……


 「どうせ、年上がいいんでしょ?」

 「はっ?」

 「ワタシなんかより年上のお姉さんがいいんでしょ?」

 「おいソフィ何言って……」

 「昨日見たんだから……」

 「何を?」

 「や……弥生さんと……よ、夜這いしてる所……」

 「はぁ?何言って……」


 ワタシは昨日リビングで見たことをショーマにぶつける。ソファの陰で正確には行為をする前までしか見てないが……確かに顔と顔を近づけてキスはしていたと思う。それに……ショーマが弥生さんの首に手を回して……


 「わかってたわよ……最初からワタシなんて見てないって事ッ!ショーマとは最近になって、話すようになったんだから……」


 ワタシは熱にうなされてるからか、今まで溜まっていた事をこれでもかとショーマにぶつけてしまった……


 「弥生さんや会長……葉月や睦希……みんなとは過ごしてきた時間が違うから……少しでもショーマの隣にいなきゃって思ったのに……のに……」


 ワタシは感情が制御しきれず、ただ……頬を伝う涙を止める事ができなかった。


 自分で決めた事なのに。

 自分で誘った事なのに。

 自分で良しと決めたのに。

 皆で過ごす日々が好きなのに。

 日に日にそれが変化して

 いつしか陰を作り出し

 その陰の存在が

 ワタシの心を侵食する。


 あぁ……この感情は嫉妬だ。


 そう理解した瞬間ワタシの口から言ってはいけない言葉が出てきた……一番言ってはいけない言葉。





 「ショーマなんて……大嫌い……」




 彼の顔を直視する事ができなかった。





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