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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第二章 関係構築編
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行く宛てのない想い

 「ソフィ、準備できたか?」

 「もうちょっと待って!心の準備が……」

 「心の準備って言ってもいつもとそんなに変わらないぞ?」


 俺達は教室を出て下駄箱に向かおうとしているのだが、ソフィアの心の準備がまだらしい。事前に葉月達には同好会は休むと言ってある。


 「ショーマからデートに誘ってもらうのって何気に初めてかも……」

 「ちゃんとしたデートって事か?んん……確かにそうかもな」

 「キンチョー」

 「何を今更恥ずかしがってんだよ……でもまぁ、気持ちは少しわかる」

 「ショーマも緊張してるの?」

 「……」


 ソフィアの言葉に俺は顔が熱くなっているのに気づく。


 「顔、赤いよ?」

 「夕日のせいだ……」

 「まだ太陽はそんなに沈んでないし」

 「……」

 「一緒だね!」

 「まぁ、そういう事だ。最近になって思うんだが……女子達がいかに凄いかってのを実感してる」

 「えっへへー」


 はにかむソフィアを見て、この笑顔を少しでも守れたのかなと思うと胸の奥が温かくなる。


 「ねぇ、今日はどこに行くの?」

 「まぁ、なんだ……俺は凝ったことができないから……喫茶店とかに行こうと思ってる」

 「そういう素直な所にワタシは惚れたんだよ」


 先に靴に履き替えていた彼女は、俺の正面に回ると、くるりとしながら微笑みかけてきた。その姿に俺はドキドキが止まらない。


(……二人っきりはホントにヤバいな)


 「……そういうの反則だぞ」

 「ん、何か言った?」

 「なんでもねぇよ!ほら行くぞ!」


 鞄を持っていない彼女の手を握り歩き出す。少しでもその肌に触れたいと思う俺の心は、少しずつ彼女色に染まっているのだろう。


 「わぁっ、ちょっとショーマ早いよ」

 「ははっ、早く行かねぇと日替わりメニューが無くなっちまうからな!」


 俺達は、まだ日が高い晴れやかな空の下、笑いながら少し駆け足で歩き出す。彼女には笑顔でいて欲しいと思うことは決して間違っていないと信じて。


 ◆

 喫茶店『ブラザー』


 「……ショーマここ?」

 「あぁ!ウチの店長(オカマママ)の弟の店だそうだ」


 カランカランッ


 「いらっしゃいませ二名様ですか?」

 「はいそうです。あの……日替わりメニューってまだありますか?」


 俺は対応してくれた優しそうな男性店員に声をかける。


 「はいありますよ!それではご案内しますね」


 日替わりメニューが残っていたのが嬉しくて、俺はほっとした顔になっていた。隣のソフィアを見ると、しゃがんで犬と戯れていた。


 「ワンッ!」

 「ショーマ見て?可愛いワンちゃんがいる!」

 「おぉ!確かに可愛いな!ウチのしらたまぜんざいと同じくらいの可愛さだ」


 俺もソフィアと一緒になってワンちゃんの目線に合わせてしゃがみこむ。

 つぶらな漆黒の瞳は宝石のように深く吸い込まれそうな程美しい。俺の事をじっと見つめる顔は、本当に犬なのかと思うくらい慈愛に満ちた表情に見えた。


 「店員さん、この子の名前はなんですか?」


 俺は興味本意でさっき案内してくれた店員さんに話しかける。ソフィアはデレデレしながら、ワンちゃんの頭をなでなでしている。基本的にソフィアは動物が好きなのだ!


 「その子は犬丸いぬまるさんって言うんですよ!一応この店の看板犬です」

 「「犬丸さん……」」


 俺は犬丸さんと紹介されたワンちゃんを再度見つめる。


 「犬丸さん……かわいい」


 ソフィアは名前を聞いて再びデレデレになりながら頬にスリスリしている。若干犬丸さんが引いているような顔をしたが、気のせいだろう。


 「……それじゃあ席に案内しますね」


 たっぷりと犬丸さんを堪能したソフィアと俺はウキウキで席へと歩を進める。


 「日替わりメニューを二つと……ソフィア他に何か頼むか?」

 「ううん……今日はショーマに任せるわ」

 「そか、飲み物はミルクココアでいいか?」

 「うん!ワタシの好みを知ってくれてるのも嬉しい」

 「お、おう!彼氏だからな!それじゃあ店員さん。ミルクココア一つとコーヒーを一つお願いします」

 「かしこまりました!アイスとホットどうしますか?」

 「私はアイスで!」

 「自分はホットでお願いします」


 店員さんはにこやかにお辞儀をして、厨房に戻っていく。


 「もうすぐテストなんだよなぁ」

 「ショーマがあそこまで勉強ができないとは思わなかったわ……」

 「俺もソフィがあそこまで勉強ができるとは思ってなかったが……」

 「「ぷっ……あははは」」


 ソフィアとそんな話をしながら待つこと十数分、日替わりメニューが運ばれてきた。


 コトリ……

 「本日、木曜日の日替わりメニュー『白銀の大空へ』でございます」


 「わぁ……」

 「こりゃまた……」


 運ばれてきたものを見て俺とソフィアは言葉にならない感情が込み上げている。

 そこには……スポンジケーキの上に、雲に似せた綿菓子をイルカとカモメが泳いでいた。スポンジケーキは仄かにブルーを帯びているが飴の色で全体的にキラキラと光っている。飴細工というのだろうか、立体的に作られたこの作品は最早芸術の領域だ。


 「ウチの店長、見た目はイカついですが手先は器用なんですよ!」


 さっきの店員さんはそう言って厨房の方に顔を向ける。そこにはいかにもマッスルなガタイの大男がいた。一目でオカマママの家系だとわかってしまうのが辛い……


 グッ!

 店長は俺達に向けてウインクしながらサムズアップをして厨房に帰っていった。


 「なんか……」

 「あぁ……」

 「「オカマママみたいだな(ね)」」


 それではごゆっくりどうぞ、と一言添えてお兄さんは接客に戻っていく。


 「ショーマここ知ってたの?」

 「店長がな……オススメしてくれた。『きっとソフィアちゃんが気にいるだろう』って」

 「そっか……ありがとう」

 「最近元気がなさそうだったからな、気分転換を兼ねて一緒に来てみたかったんだ」

 「うん!ありがとう」


 それからソフィアと俺はこの宝箱をどうトレジャーハントするかで悪戦苦闘しながら、白銀の大空が茜色に染まるまで喫茶店で過ごした。




 「犬丸さんまたね!」

 「ワンッ!」


 俺は会計を済ませ、ここの店長(オカマママの弟さん)に挨拶をしていた。


 「また来てくれ、翔馬くん。兄から君の事を聞いてるぞ!」

 「はい!ありがとうございます!とっても綺麗で美味しかったです」

 「はははっ!それは良かった!あんな兄だがどうかよろしく頼む!」

 「こちらこそ。普段は……まぁアレですが、自分は信頼してますので」

 「それは良かった。そして……彼女さんを大切にな!」

 「……はい」


 最後に店員のお兄さんと、犬丸さんに挨拶をして俺とソフィアは店を後にする。


 「……歩いて帰るか」

 「うん!ゆっくり帰りたい」


 俺達は二駅分の道のりをゆっくりと帰る事にした。

 風が気持ちよく、茜色に染まる空と俺の瞳に映るソフィアが神秘的だ……きっと有名な写真家がいたらシャッター音が鳴り止まないだろう。

 しかし俺はこの光景を誰にも知られたない尊いものだと思い、心のスクリーンショットにそっと保存しておいた……鍵をかけて。


 「……ソフィア」

 「んん……?」


 気持ち良さそうに隣を歩くソフィア。そして恋人繋ぎをした手の温もりを堪能するかのように、にぎにぎしてくる。そんな彼女に聞かねばならない事がある。その為に今日デートしたのだから。


 俺は少し躊躇いながら、心臓が早くなる感覚をぐっと抑えながら、それでも真剣な表情でソフィアを見つめ口を開く……


 「後悔……してるのか?」



 「………………ぇ?」


 行く宛てのない思いをそっと紐解く。

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