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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第一章 同居開始編
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相思相愛

 俺は先日の黒神家での事を思い出す。


「神月くん。君にこんな話をするなんておかしな事だが……私は、未だに以前の妻を忘れられないでいる」

「……」

「そしてそれは……妻の百合子も同じなんじゃないだろうか……」


 凪さんが話してくれたのは前妻との事、百合子さんと出会った時の事。

 

 凪さんも葵と奏が小さい時に妻を病気で亡くしたらしい。双子を男手ひとつで育てあげていた。それはもう途方もないくらい大変だったはずだ。


 そんな時、料理教室で出会ったのが百合子さんだったらしい。百合子さんも昔は働く女性だったから、旦那さんを亡くして料理を覚えようとしてたみたい。


 それからの二人は料理教室で会う事が増えそのうち惹かれ合い、デートを重ね、互いの寂しさを埋め合わせるように寄り添った。


 しかし、時折見せる表情や仕草に昔の最愛の人が頭をよぎる。二人にとって大切な人の死は受け入れられないものだった。


「……結婚生活って幸せだけじゃないんですね」


 俺は辛うじてその言葉だけを凪さんに告げた。


 ◆

「こ、これは一体……」


 凪さんは訳がわからず固まっている。百合子さんも口をポカンと開けている。

 そんな二人に俺とソフィア、葉月が近づき真正面から誠意を込めて話しかける。


「凪さん、百合子さん……結婚式、やりましょう!」

「えっ……」

「……あっ」


 俺の真剣な顔を見て二人は理解する。


「パパ、ママ。二人は結婚式してないでしょ?お金がかかるからって……私達の為にって……」


 睦希はすでに涙目になっている。その隣に葵と奏が寄り添い、二人に笑いかけている。


「睦希……葵……奏ッ」

「ぐす……」


 凪さんは娘達の名前を噛みしめながら呼ぶ。そして百合子さんは静かにハンカチを目元にあてる。


「さぁ!そうと決まれば早速着替えないとね!レッツゴー」

「えっ?ちょ……」


 白亜さんやアリシアさんに連れられて百合子さんは衣装部屋へ。その後凪さんもブランさん等に連行されて行った。




 そして二人が会場に登場する。


 ーーそこには青い燕尾服を来た凪さん。まるで海を思わせるような静かな佇まい。

 ーーそして、純白のウエディングドレス姿の百合子さん。ドレスには白百合の花があしらわれている。


 白百合の花言葉は『純潔』『無垢』そして……


 百合子さんは、一体どれ程の思いでその花に込められた意味を考えているのだろう。

 アリシアさんと白亜さんにドレスを渡された時に百合子さんは泣いていたと、後から聞いた。


「……お母さん……キレイ」


 それは睦希の心からの言葉で、そして彼女の本心なのだろう。

 そしてバージンロードに見立てた絨毯をゆっくりとすすむ二人。周りは花のシャワーとシャッターのシャワーでいっぱいだ。


 ちなみに牧師役は俺の親父だ。

 形式もあったもんじゃないが式は進行していく。

 そして、誓の言葉の前に凪さんが百合子さんを見つめ話し出す。


「……百合子。今までごめん!俺は時折、生前の妻と百合子を重ねていた。それがどんなに残酷な事か考えもしないで……」


 百合子さんは黙って聞いている。俺達も静かに耳を傾ける。凪さんは震えながら時折涙を滲ませながら続ける。


「俺は亡くなった妻を今でも愛している。それは事実だ……」


 凪さんは目に涙を浮かべて続ける。


「でも、それと同じくらい……百合子!君の事を愛している、大切に想っている。もう離れたくない!どうか……これからの人生を最期まで僕と一緒に歩いて欲しい……」


 凪さんは百合子さんに向かって頭を下げている。

 会場に静寂が訪れる。

 その静寂を破ったのは百合子さんの震えた声だった。


「……私もよ」

「……」

「私も……あの人を忘れられないでいるの。ふとした時に思い出す……あの人との記憶……わた、私もあなたと……同じなの」


 百合子さんから告げられる言葉に会場中は静かに息を飲む。


「でも……私もあの人と同じくらい、あなた……凪さんが好き!私はもう……あなた無しじゃ生きていけないわ……」


 頬を伝う涙は百合子さんのものか、それとも隣にいる睦希のものか……


「百合子……」


 凪さんが優しく名前を呼ぶ。そして二人の場所に、双子の姉妹がやってくる。

「パパ……」

「これ」


 現れた二人に驚きながらも、凪さんは渡された箱を受け取る。


「……これは」


 その箱を開けると中から、真珠があしらわた結婚指輪がキラリと光る。


「いつか百合子お母さんにあげるんだって用意してたでしょ」

「お母さんの形見のペンダントを加工したやつ。パパは『いつかここの思いと一緒に受け取って欲しい』って言ってたじゃん」


 震えた手でその指輪を手に取る凪さん。

 ゆっくりと百合子さんの方を向く。


「百合子……僕の気持ちを……こんな中途半端な僕でよければ……改めて結婚してほしい」


 百合子さんに向けて結婚指輪を差し出す。周りの視線は百合子さんに集まる。固唾を飲む俺達。




 スッ――


 真珠の指輪が一際大きく、まるで海にいた時のような深い輝き、それでいて何かを洗い流すようなそんな光が辺りを包んでいく。


 ――その光景は月明かりの水面に映えるユリの花のように美しかった


「あなたの想い……前の奥さんの思い、全て私が背負います……」

「結婚してください。凪さん」




 ワァーっと割れんばかりの歓声と拍手が会場を包んでいく。

 その光景に凪さんも百合子さんも涙を流しながら微笑んでいる。



 指輪をつけた後……そっと二人は口づける


 その時の光景はきっと一生忘れないだろう。

(やっぱりこういうのだよな……)


 その後、披露宴(半ば宴会)みたいな状態でたくさん盛り上がった。

 そして、俺は睦希と一緒に二人の所に行きある物を差し出す。


「百合子さん、これ」

「……これは」

「お母さん懐かしいでしょ?」


 そこには、俺の実家で波月家がよく食べていたクロワッサンが置かれていた。


「これは思い出の味だから……」


 睦希はそう言って目に涙を浮かべる。


「そう……ありがとう……ありがとう」

「是非、凪さんにも食べて欲しくて」


 俺は波月家で過ごしたあの時間を忘れない。そして凪さんにも知って欲しかった。


「うぅ……あの時の……ぐす……あの時の味がする……」


 百合子さんはクロワッサンを食べながら泣いていた。そして凪さんがそっと肩に手を置き優しく声をかける。


「今度……墓参りに行こう」


 その優しくも決意のこもった言葉に百合子さんは耐えられなかった。人目もはばからず凪さんの胸を涙で濡らす。


 今まさに二人は相思相愛になったのだ。


 その後も色々あったが凪さんと百合子さんの結婚式は無事に幕を閉じるのであった……



 ◆◆◆◆◆

 そして現在


「なぁ……なんでいるの?」

「二人が新婚旅行に行ったからよ」

「葵と奏は?」

「時子さんの所に行きたいって」


 リビングのソファには我が物顔で座る睦希の姿。


「帰れ!」

「いやよ!」

「なんでだよ」

「あんたにお礼がしたいのよ」

「何もいらねぇよ、俺がやりたかっただけだ」


 俺は睦希の向かいに座り反論する


「それでも私がここに居たいの!」

「根拠は?」

「私……ずっと前から翔馬の事、好きだったの!わかってよ鈍感」


 もうヤダこの展開……


「はぁ、もうなにも言う事がない」

「じゃあいいの?」

「好きにしろ……」


 俺は何もかも諦めたのかもしれない。

 凪さんと百合子さんの結婚式はまさしく俺の理想だった。


「やったー!ソフィ、葉月、会長、弥生さん!私も一緒に《《一生ここに》》住んでいいって!」


 なんて事言い出すのこの娘?


「ッそこまで言ってないよ?」

「ニシシッ!もう遅いよ!あ・な・た♡」


 睦希が俺の目の前に来たかと思うと……

 いきなり唇を塞がれた……睦希の口で。


「あー睦希ずるい」

「……私もやりたいです」

「ふむ!では私はここに」

「お姉さんも混ぜて〜」



 俺の願望が叶う日は来るのだろうか……


「俺は!相思相愛の恋がしたいんだぁ!!」

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