俺の実力を披露する時が来たようだな
現在俺は近々行われる期末テストに向けて勉強している。
とうとうこの時が来たという感じだ。今までは俺の実力を隠していた、カッコイイ姿しか見てこなかっただろう?
何? 頭を下げてるだけだって?
そんな馬鹿な!
何? タコ殴りにされてただけだって?
冗談はよせやい!
何? ツッコミをしてただけだって?
うん、否定出来ない!
そんな訳でこれから俺の勇姿を見せてやろう!
恐れおののけ!
「睦希大明神様どうかこの卑しい私めに勉強を教えて頂きたく参上仕りました!」
地に伏していた。
それも頭を地面にこすりつけながら。
「翔馬……顔を上げて」
その声はとても優しく慈愛に満ちていた。
俺は顔を上げるとそこには天使かと思う程、眩しい微笑みがあった。
「あぁ……睦希様」
俺はその顔に自然に手が伸びていた。
「教えるわけないでしょ? 顔洗って出直してきなさい!」
訂正。悪魔の微笑みだった。
「ははっ! 冗談がお上手! 俺と睦希の仲じゃないか!」
「どんな仲よ! 元クラスメイトってだけでしょ?」
「素敵委員長とそれに従う犬」
「あんたのプライドどこいったの……せっかくこの前は少しカッコイイって思ったのに」
後半はゴニョニョ言って聞き取れなかった
「えっ? カッコイイって! 照れるぜ睦希! よし結婚しよう!」
「聞こえてるじゃない! それと堂々と浮気するな!」
訂正。俺の耳は地獄耳だ。
「いや……もうこの際一人増えようが気にならなくなった」
「なんの話よ?」
「なんだろうなぁ……はは」
俺達は今、放課後の教室(睦希のクラス)で向かい合わせにして話し合っている。 もちろん俺は地面に一番近い男だ。
「むつきさ〜ん! 後生だよ〜勉強おしえてよ〜このままじゃ留年しちまう〜」
「あんたの彼女に教えて貰えば?」
「俺は睦希じゃなきゃダメだ! 睦希がいい! いや君しかしない! キミに決めた!」
「根拠は?」
「みんなの教え方がさっぱりわからん!」
「はぁ……」
「俺の頭の悪さは知ってるだろう?」
「体も頭もケーキでできているもんね」
「俺に懇切丁寧に最後まで教えてくれたのは睦希お前だ! もはやお前無しでは俺は生きていけない!」
「そうゆうとこよ……」
今度は流石に聞こえなかった。
睦希と俺は一年生の時のクラスメイトだ。何かと世話焼きな睦希だが俺への態度は冷たかった。
顔を合わせれば睨み合い
口を開けば罵りあい
足を褒めれば飛び膝蹴り
胸を褒めればラリアット
髪を褒めればヘッドバット
手を褒めればアイアンクロー
うん。これは俺のせいじゃない。
彼女の性格の問題だ。すなわちエネミーだ。
出会った頃はよく喧嘩ばかりしていた犬猿の仲だったが、しかしある時俺が勉強ができないとわかると、何故か徐々に態度が柔らかくなっていった。
「で? どうだ俺は何をお供えすればいい?」
俺は藁にもすがる思いで睦希の足にしがみつく。そして顔をあげようとして、地面にめり込んだ
ぐりぐりっ
「はぁ〜今回だけよ」
「流石睦希様! 黒のエロいやつ履いてるだけはあるな!」
メコッ
「なにか言ったかしら?」
「なんでもないです……」
「じゃあケーキを焼いてよ! それも大きいやつ」
「ケーキでいいのか? どんなやつだ?」
俺は椅子に座り直してメモをとっている。
「そうねぇ、イチゴの乗ったやつがいいかしら? 中身はクッキー生地を挟んでくれたら喜ぶと思うの!」
「ん? お前が食べるんじゃないのか?」
睦希の言い方に疑問を持ち尋ねる。
「うん、もうすぐ妹達の誕生日なの。本当は私が作りたいんだけど……料理苦手だから。翔馬が作ってよ」
「はは〜んなるほど理解した。それじゃあ当日一緒に作ろうぜ! 俺もこの怪我じゃまともに作れない。ソフィと葉月にも手伝ってもらうけどいいか?その方が絶対喜んでくれるって!」
睦希は少し驚いたように一瞬目を見開く
「……いいの?」
「ああ、その代わりしっかり家庭教師頼むぜ!」
「わかったわ!」
これで俺と睦希の勉強同盟が成立した。